上 下
176 / 258
第7章 新国テンプルム

第343話 時間停止は便利です

しおりを挟む
「『魔王ユーリ』よ、貴様に時間を与えると危険だ。貴様にも言い分はあるだろうが、悪いが問答無用で始末する」

 その将軍の言葉で、天井のあちこちが開いて黒装束の男たちが降りてきた。
 総勢10人。軽やかな身のこなしからして、法王国の隠密部隊――それも暗殺専門かもしれないな。
 両手に金属製の3本の爪を着けており、どうやらその先には毒が塗られているようだった。
 恐らく、特製の猛毒だと思うけど、僕には効かないだろうな。喰らうつもりもないけど。

 どこの国にもこの手の組織はあり、神聖な法王国とて、裏から支える闇の実行部隊はいる。
 見たところ、純粋な強さでは法王国聖騎士隊には及ばないみたいだけど、殺人に関しては熟達しているようだ。
 躊躇なく僕を殺しに来るに違いない。

「テンプルム国王『魔王ユーリ』を殺せ!」

「よせジークヘルトっ、くそっ、全然動けねえっ!」

「やめてっ、逃げてユーリ様ぁっ!」

 久魅那クミナが床にへばりついたまま、絶望的な表情で僕を見つめる。
 それとは対照的に、眷女のみんなはすでに僕が余裕なことは見抜いてるようで、でろ~んと床に身体を伸ばしたまま成り行きを見守っている。
 というより、僕がどうするかワクワクしているような状態だ。

 少しは心配してくれてもバチは当たらないと思うけど?
 まあいいや、ではその期待に応えましょう。


「『魔王ユーリ』、そのお命ちょうだいする!」

 10人の暗殺者がいっせいに僕を襲おうとした瞬間、全員その場に倒れ込む。

「な……なんだ!? 何が起こったのだ……?」

「ユーリ様、これはいったい……?」

 実はいま時間を止めて、相手を気絶させるため『波動撃掌』を撃ち込んだんだ。
 時間を止めずにただ石化させるだけでも良かったんだけど、完全に僕の周囲を囲まれてたから、10人を一気に石化させるのが難しかったんだよね。
 周りにみんなが倒れているのであまり派手に動きたくなかったし、ちょっとズルいけどこっそり全滅させてもらったよ。

「バカな、封印で一切動けぬはずなのに、どうやって倒したのだ!? 貴様が動いたところなど見なかったぞ!?」

「何人きても同じですよ。僕としてはこれ以上被害者を出したくないので、無駄なことは遠慮していただきたいのですが」

「『魔王ユーリ』……このオレの想定以上の存在だというのか!? だがもはやあとには引けぬ! やりたくはなかったが、聖剣の力を解放せねばならぬか……」

 えっ、ってことは、聖剣『贄捧ぐ天剣プラエベーレ』を使うってこと?
 法王国の将軍は、代々受け継ぐその聖剣の力で『雷帝』と呼ばれるけど、この部屋の中でその力を解放されるのは困るな。
 もの凄い神の雷が降りそそぐっていうし、みんなが巻き添えで被害を受けたら大変だ。
『エナジー吸収』スキルで吸収してもいいけど、まあ無駄な戦闘は避けよう。


「贖罪の贄捧ぐ! 汝、裁きの雷を受け……な、なにっ!?」

 将軍が聖剣の力を使おうとしたところ、時間を止めてその剣を奪い取った。
 これでもう戦えないだろう。

「そんなバカな……このオレが、剣を振るうことすらできぬだと!?」

「無駄ということを分かってもらえたでしょうか?」

「くっ……貴様は腕輪と魔導結界で、完全に力を封印されているはずだ! 伝説では、如何なる者でも無力にするとなっている。なのに、この奇跡の業はいったいなんなのだ!? 魔王ですら、この封印の前では為す術もないだろうに……」

 確かに、もし魔王に『臣下の誓錠カタラ・タリスマン』を嵌め、この部屋に連れてこられるなら、勇者の力を使わずとも倒すことは可能だ。
 まあ机上の空論だけどね。魔王に封印の腕輪を着けさせることがまず不可能だし。
 あ、いや、今回の魔王は以前よりも遙かに強大になってるから、たとえこの罠に嵌めても倒せないかもしれないけど。

「ああユーリ様、あなた様の強さを信じなかったわたしが愚かでした。どうかわたしを罰してください! なんでもします! いえ、させてください!」

「なんかあの子、どんどん性癖が悪化してない?」

「これは由々しき事態ですわ、わたくしたちも負けてられませんわね!」

 いや、別に変態度なんかで競わなくてもいいんだ、お願いだから普通にしててください……。


「『魔王ユーリ』……貴様は何者なのだ? 貴様が何をしたのかまるで分からぬ。完全にオレの理解の限界を超えている力だ。もしや、この世界を滅ぼしにきた異世界の神なのか……?」

「滅ぼすなんてしません、僕はこの世界の人間だし、皆さんの味方です」

「これほど人知を越えた奇跡を見せながら、それを信じろというのか? 悪魔の甘言としか……」

「おやめなさい、ジークヘルト将軍」

 狼狽する将軍の後ろから、静かに部屋の扉を開けて誰かが入ってきた。
 みんなの視線を集めたその人は……なんと、パスリエーダ法王国君主、ゲネヴィシュト法王様だった。

 ***********************************

『無限のスキルゲッター』の書籍版、電子書籍版も、是非是非よろしくお願いいたしますm(_ _)m
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

 異世界転生した飼育員はワニチートでスローライフを送りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:202

男装令嬢の数奇な恋のゆくえ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:313

貞操観念が逆転した世界で、冒険者の少年が犯されるだけのお話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,065pt お気に入り:28

幻想世界の配達人 ~転生者だけど地図内蔵のチーターです~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:214pt お気に入り:0

女の子になりきれない♂ヒーローをメス堕ち開発する。

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:3

男が希少な「あべこべ世界の掲示板」

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:347pt お気に入り:32

貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,914pt お気に入り:1,776

【完結】ナルシストな僕のオナホが繋がる先は

BL / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:1,587

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。