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第7章 新国テンプルム

第366話 魔獣王 炎駒

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 ようやく見つけた『迷いの森』――謎の異界を『赤き天馬』に向かって進む僕たち。
 ここにも魔物は居るようで、出会うモンスターは今までよりもさらに1ランクアップしている。
 これはたとえ吸血鬼でも、生き抜くのは難しいだろう。迷い込んだ吸血鬼たちが、死にもの狂いで逃げたというのも納得だ。
 ゼルマは最強クラスの吸血鬼なので、ここのモンスターでも相手にならないようだが。

坊主ぼうじゅ、思った通りお前は戦闘も一流でしゅね」

「ふん、ワシが『勇者』と間違えたほどだからな」

 この森に来て、僕も初めて戦っている。
 まあ『呪王の死睨』を使えば簡単に皆殺しにできるんだけどね。でも強すぎる力は見せたくないので、『次元斬』なども含めて、ピンチになったとき以外は封印だ。
 そして謎の存在『赤き天馬』だけど……。

「ゼルマ、『赤き天馬』は本当に『神獣』なのかい?」

 だいぶ接近してきたけど、やはり『神獣』という感じには思えない。
 これ以上近付いて良いものか、ちょっと悩んできた。

「いや、それはすまぬが保証できぬ。あくまでも言い伝えで、神のしもべになったという話だ。そもそも元は凶悪な魔獣だったらしいからな」

「そういえばそうだったね。ちなみに、『赤き天馬』と出会った吸血鬼は、なんて言ってたの?」

「そのときは、恐怖を感じて逃げたということだった。あとから考えてみれば、あれが『赤き天馬』だと気付いたらしい」

 うーむ……そっか、元々は凶悪な魔獣だと言っていたっけ。
 なら、『神獣』となっても、気の荒いところはあるかも?
 いやまて、この強烈な気配を勝手に『赤き天馬』と決めつけているが、違うヤツかもしれない。
 実は『赤き天馬』は、まったく別の場所に居るなんてことも考えられる。
 ただ……この気配以外に大きな存在は探知できないので、結局のところ行ってみるしかないか。

 まあ違ったら違ったで諦めは付く。
 正体が確認できず、無駄にこの森を探し続けるのが一番つらいからね。


 2時間ほど移動していくうちに、夜が明けるかのように周りも明るくなっていったけど、しかし霧は立ちこめたままで、視界が悪いのは変わらない。
 もうしばらく行ったところで、また周囲の気配が変わったことを感じた。

「これは……何か居るでしゅ! あっ、あれは森の出口では!?」

「なるほど、この先に『赤き天馬』が待っているわけだな」

 2人の言う通り、正面奥には森の出口があり、その先は地面が岩だらけの広い空間になっていた。
 霧も薄まっていて、地の岩が果てしなく続いているのがうっすら見える。

 僕たちは森を抜け、その地へ足を踏み入れると、霧の彼方からゆっくりとこちらへ近付いてくる存在に気付いた。
 そう、目撃情報通り、巨大な赤い魔獣が……いや、赤いのではない、身体が紅蓮の炎に包まれているんだ!

 それは馬のような外見ながら、体高は10m――頭の高さまで入れると13mを超え、左右に大きく広がった黒い翼も含め、全身からは灼熱の炎が吹き上がっていた。

「なんと、これが『赤き天馬』でしゅと!?」

「『神獣』というにはほど遠い、まさに凶悪な魔獣ではないか!」

 確かに、『神獣』などという神々しい気配ではなく、コイツが振りまいているのは死の匂いだ。
 ただし、間近に来てみて分かったが、何故か神聖な力も一部感じ取ることができる。
 なんだこの違和感は? 『赤き天馬』とはいったい……?

 いや……ちょっとまて、ひょっとしてこの魔獣って……


 伝説の魔獣王『炎駒』じゃないのか!?


 伝説というよりは、もはや神話だ。
 遙か昔、各地を大暴れして荒らしまわり、魔獣の王として地上に君臨したあと、終いには神様に反逆して天罰を受けたという。
 おとぎ話のレベルだったけど、本当に存在していたとは……!

 しかし、人間に伝わっている話では、神のしもべになったなんて事実はない。
 吸血鬼一族に語り継がれている伝承とは、結末が全然違う。
 しょせん昔話と言われてしまえばそれまでだけど。

「神聖な魂を分けてほしいと思ってましゅたが、どうやらそういうわけにもいかないようでしゅね」

「どうするのだ? 退却するか?」

「……戦ってみるでしゅ。せっかくここまで来たんでしゅから、何もせずに逃げるのは納得いかないでしゅ!」

「ほう……気が合うなドワーフ。ワシも手ぶらでは帰れぬ。言い伝えが本当だったのかどうか確かめてやる」

 こんな怪物相手でも、2人は戦うつもりらしいな。
 僕としても、このまま帰るのは少々物足りないと思っていた。
 伝説の正体を、是非解き明かしたいところだ。

「あたいに任せろでしゅ! ここ数日坊主ぼうじゅの手料理を食べて、あたいの力は大幅にパワーアップしてるでしゅ。魔破門マハト流剣法の真髄を見せてやるでしゅよ!」

「ワシも小僧の血を何度も飲んで、パワーが漲っておる。今のワシに不可能はない!」

 ドマさんとゼルマが『赤き天馬』――『炎駒』へと向かって突進する。
 2人の勇ましさには感服するけど、さすがにちょっと無謀かな。僕が援護しよう。
 もちろん僕が戦ってもいいんだけど、この『炎駒』にはどうも気になるところがあるので、もう少し時間を掛けて分析がしたいんだ。

 危険は承知だけど、せっかくなので2人に任せてみるか。
 僕は素早く詠唱して、ドマさんとゼルマに『神域魔法』の防御結界を掛ける。

「炎熱消え失せよ、『耐熱多重断層障壁パイルヒート・プロテクション』っ!」

 もういっちょ!

「汝に金剛の加護あれ、『絶衝撃吸収防御殻ショック・アブソープション』っ!」

 僕の放った防御膜シールドが2人を包み込む。
 コレで守られていれば、『炎駒』の炎でも簡単にはダメージを受けないし、物理的な攻撃もほぼ無効だ。

「おおっ、こんな魔法まで持っておったとは……! 小僧、貴様なかなかやるではないか!」

坊主ぼうじゅ、援護かたじけないでしゅ!」

 一応、いま使った魔法よりもっと強力な、『極限遮断障壁フローレスシールド』という防御結界もあるんだけどね。熾光魔竜ゼインと戦ったときに使ったことがあるけど。
 ただ、これは場所に固定して張る結界なので、動いて戦闘するときにはちょっと向かない。

 守りの補強をしたあとは、次は全体的な戦闘面での強化だ。
 超強力な支援バフ魔法を2人に掛ける。

「その身、光の如くはやくなれ、『神速の騎士ヘルメスナイト』っ!」

 これは『時間魔法』の1つで、これによって2人は通常の5倍の速さで動けるようになった。
『時間魔法』レベル6の時は3倍の速さだったけど、今はレベル8まで上げたから、その効果も上がっている。持続時間も長くなったし。
 ちなみに、今の僕なら20分くらい時間を停止することができる。

「こ、これはどういうことでしゅか!? 『赤き天馬』の動きが、亀のようにノロマになったでしゅ!?」

「違うぞ、ワシらの動きが異常に速くなったのだ! まさか、これも小僧の魔法だというのか!? これほどの支援バフ魔法など、ワシは知らぬぞ!」

「これならば、敵の攻撃も怖くないでしゅね。まったく、とんでもない弟子を持ったでしゅ。もう一生手放せないでしゅ!」

「勘違いするなドワーフ、小僧はお前のモノではないぞ」

「ほほう、では坊主ぼうじゅを賭けて勝負でしゅ。この怪物を倒したほうがもらい受ける、いいでしゅね!」

「小僧などいらぬが、売られたケンカは買わねばならぬな。ワシの力を思い知るがいい」

 なんだ? 5倍速で喋ってるからイマイチ聞き取りづらかったけど、ドマさんとゼルマがよく分からないこと言ってたな。
 僕のこと弟子とかなんとかドマさんが言ってたような……まあいいけど。
 おっと、最後の仕上げに、『神遺魔法ロストマジック』も使っておこう。

「崇めよ、我この地を統べる覇王なり!! 『支配せし王国キングダム』っ!」

 この魔法は、相手の能力を大幅に下げる効果があるので、これでさらに有利に戦えるはず……と思ったら、なんと『炎駒』にはほぼ効果がなかった。
 うーむ、さすが伝説の怪物、能力弱体化デバフはあまり効かないか。

 同じような効果――異世界人礼威次レイジからコピーした『羅刹の睨み』もあるけど、レベルを上げてないんだよね。
『羅刹の睨み』はSSランクなので強化に必要な経験値が多いし、それに仮に上げたとしても『炎駒』には効果が薄いかもしれない。
 現在、経験値ストックが11億2000万しかないので、なるべく節約したいところ。

 まあゼルマたちをかなり強化したので、そう簡単にはピンチにならないはず。
 ただ、この異界では飛行能力が使えないので、巨大な『炎駒』相手には少し戦いづらそうだ。
 バフ効果にも時間制限はあるし、あまり悠長にはしていられないな。

 とりあえず、2人が戦っている間に、『炎駒』のことをもう少し分析しよう。
 この『炎駒』――『赤き天馬』には何か秘密がある。
 ただの魔獣じゃない。どうにも違和感があるんだ。

 そう、この『炎駒』からは神聖な気配を感じないけど、その身を包む『神の炎』からは聖なる力を感じる。
 さっき感知した神聖な力の正体はコレだ。
 なんでこんなちぐはぐな現象が起きてるんだ!?

 それが分かるまでは、しばらく様子を見ていたい。
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