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第5章 9月-旅行(1)
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第5章 9月-旅行
旅行前日の金曜日に実家に帰ってそのまま泊った高志は、土曜日の朝、最寄り駅まで茂を迎えに行った。
快晴で、午前中からもうかなり暑い。約束の時間の少し前に着き、しばらく待っていると、茂が改札の中から姿を現した。すぐに高志を見付け、足早に近付いてくる。
「藤代」
「細谷、お疲れ」
軽く挨拶を交わしてから、駅を出て高志の実家に向かう。茂は鞄の他に紙袋を手に提げている。
「十分くらい歩くけど」
「おう」
先週の金曜日に茂と旅行の計画を立てた後、高志は父親に連絡して、この土日に家の車を借りることができるかどうか聞いてみた。もし貸してもらえるのならレンタカーを借りる必要がなくなるから、予約する前に一応確認してみようと思ったのだ。特に外出の予定はないので使ってもいいと父親が言ってくれたので、高志はその旨を電話で茂に伝えた。
『まじで? サンキュ。そんじゃお前ん家まで行けばいい?』
「うん。駅で拾うよ」
そう言った高志は、本当は車で最寄り駅まで行き、茂を拾ってそのまま出発するつもりだった。しかし、車を借りるのなら一言挨拶しておきたいと茂が言うので、二人でいったん実家に戻ってから車に乗り込むことになった。
「これ、事務所の近くの有名っぽい店でロールケーキ買ってきたんだ。美味いみたい。家族の人、甘いもの食う?」
「うん、好きだけど、別に気遣わなくていいのに」
「でもレンタカー代も結構するしさ、それが浮くだけでありがたいだろ」
学生時代から数えきれないほど通った駅と自宅とをつなぐ道を、茂と並んで歩く。この景色の中に茂がいることが少しだけ奇妙に思えた。茂が自分の世界に一歩踏み込んできたような気がして、高志はかすかに面映ゆさを感じたが、しかしそれは悪い気分ではなかった。
住宅街をしばらく歩き、やがて自宅に着くと、高志は門を開けて茂を通し、玄関の扉を開けて奥に呼び掛けた。
「母さん。細谷が来た」
あらかじめ茂の来訪を伝えていたため、すぐに母親が出てくる。
「はーい。あら、こんにちはー」
「こんにちは。今回はありがとうございます」
茂がにこやかに挨拶する。茂なら誰に会わせても第一印象が悪くなりようがないな、と横から見ながら高志は思った。
「これ、ほんのお礼なんですけど、よかったら皆さんでどうぞ」
「まあまあ、そんな、いいのに」
案の定、ロールケーキの紙袋を差し出した茂に対して、母親はかなり愛想良く応対している。きっと感じの良い友達だと思っているのだろう。高志は先に車を出しておこうかと思ったが、友達の母親と二人で残されるのも気まずいかもしれないと思い直し、その場にとどまった。母親は話し出すと長い。今も茂に対して、せっかく来てくれたのに父親はあいにく仕事で留守にしていて、などと取りとめもなく話しているが、茂は笑顔でそれに応えている。
「お父さんにもよろしくお伝えください」
茂がそう言ったところで、高志は会話を切り上げるように踵を返した。それを見た茂も一礼して、高志の後に続く。玄関横のガレージスペースに行って、高志は門扉を開けた。
「先に出すな」
「うん」
茂に先に外に出ておいてもらい、高志が運転席に乗り込もうとしたところで、家の方から母親に呼ばれた。
「高志、ちょっと」
「何?」
高志が玄関まで戻ると、母親が何かを差し出してくる。受け取るとETCカードだった。
「これ、お父さんが使っていいって」
「ああ。うん」
「ちゃんとお父さんにお土産買ってきなさいよ」
「分かってる」
そう答えると、高志は足早に車に戻った。「気を付けてね! 安全運転で!」と後ろから母親の声がする。
旅行前日の金曜日に実家に帰ってそのまま泊った高志は、土曜日の朝、最寄り駅まで茂を迎えに行った。
快晴で、午前中からもうかなり暑い。約束の時間の少し前に着き、しばらく待っていると、茂が改札の中から姿を現した。すぐに高志を見付け、足早に近付いてくる。
「藤代」
「細谷、お疲れ」
軽く挨拶を交わしてから、駅を出て高志の実家に向かう。茂は鞄の他に紙袋を手に提げている。
「十分くらい歩くけど」
「おう」
先週の金曜日に茂と旅行の計画を立てた後、高志は父親に連絡して、この土日に家の車を借りることができるかどうか聞いてみた。もし貸してもらえるのならレンタカーを借りる必要がなくなるから、予約する前に一応確認してみようと思ったのだ。特に外出の予定はないので使ってもいいと父親が言ってくれたので、高志はその旨を電話で茂に伝えた。
『まじで? サンキュ。そんじゃお前ん家まで行けばいい?』
「うん。駅で拾うよ」
そう言った高志は、本当は車で最寄り駅まで行き、茂を拾ってそのまま出発するつもりだった。しかし、車を借りるのなら一言挨拶しておきたいと茂が言うので、二人でいったん実家に戻ってから車に乗り込むことになった。
「これ、事務所の近くの有名っぽい店でロールケーキ買ってきたんだ。美味いみたい。家族の人、甘いもの食う?」
「うん、好きだけど、別に気遣わなくていいのに」
「でもレンタカー代も結構するしさ、それが浮くだけでありがたいだろ」
学生時代から数えきれないほど通った駅と自宅とをつなぐ道を、茂と並んで歩く。この景色の中に茂がいることが少しだけ奇妙に思えた。茂が自分の世界に一歩踏み込んできたような気がして、高志はかすかに面映ゆさを感じたが、しかしそれは悪い気分ではなかった。
住宅街をしばらく歩き、やがて自宅に着くと、高志は門を開けて茂を通し、玄関の扉を開けて奥に呼び掛けた。
「母さん。細谷が来た」
あらかじめ茂の来訪を伝えていたため、すぐに母親が出てくる。
「はーい。あら、こんにちはー」
「こんにちは。今回はありがとうございます」
茂がにこやかに挨拶する。茂なら誰に会わせても第一印象が悪くなりようがないな、と横から見ながら高志は思った。
「これ、ほんのお礼なんですけど、よかったら皆さんでどうぞ」
「まあまあ、そんな、いいのに」
案の定、ロールケーキの紙袋を差し出した茂に対して、母親はかなり愛想良く応対している。きっと感じの良い友達だと思っているのだろう。高志は先に車を出しておこうかと思ったが、友達の母親と二人で残されるのも気まずいかもしれないと思い直し、その場にとどまった。母親は話し出すと長い。今も茂に対して、せっかく来てくれたのに父親はあいにく仕事で留守にしていて、などと取りとめもなく話しているが、茂は笑顔でそれに応えている。
「お父さんにもよろしくお伝えください」
茂がそう言ったところで、高志は会話を切り上げるように踵を返した。それを見た茂も一礼して、高志の後に続く。玄関横のガレージスペースに行って、高志は門扉を開けた。
「先に出すな」
「うん」
茂に先に外に出ておいてもらい、高志が運転席に乗り込もうとしたところで、家の方から母親に呼ばれた。
「高志、ちょっと」
「何?」
高志が玄関まで戻ると、母親が何かを差し出してくる。受け取るとETCカードだった。
「これ、お父さんが使っていいって」
「ああ。うん」
「ちゃんとお父さんにお土産買ってきなさいよ」
「分かってる」
そう答えると、高志は足早に車に戻った。「気を付けてね! 安全運転で!」と後ろから母親の声がする。
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