不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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見習いが増えた日 4

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「初めまして……コリンです……」

 ミゼアスの部屋に通された子供は、おずおずとしながらも真っ直ぐにミゼアスの目を見て挨拶をした。
 育ちを考えるともっと虚ろな目をしているのかと思っていたが、汚れのない純粋な瞳だった。じっと見つめられたら、わけもなくたじろいでしまいそうだ。

「初めまして、僕はミゼアス。かたくならないで、一緒にお菓子でも食べながらお話ししようね」

 安心させるように微笑みかけ、ミゼアスはコリンに菓子をすすめる。花型の焼き菓子や星型の砂糖菓子など、色とりどりの菓子が盛られた皿だ。コリンの目が大きく見開かれ、口元が綻んでいく。うっとりと夢見るような顔が愛らしい。
 しかし、次の瞬間には何かを思い出したらしく、コリンの表情が引き締まる。

「あ……ありがとうございます。お礼をさせてください」

 そう言ってコリンはミゼアスの足下に跪き、腰紐に手を伸ばそうとする。
 いきなりの出来事だったが、半ば予想していたミゼアスはやんわりとコリンの手を包み込み、動きを止めさせた。

「それはいらないよ。お礼なら、言葉だけで十分だよ」

 ミゼアスは優しく言ったつもりだったが、コリンの顔が曇り、泣きそうになる。

「あ……あの……何か粗相をしましたか? きちんとお礼をしないと叱られます……」

 潤んだ瞳でじっとミゼアスを見つめるコリン。
 胸の内にわきあがったやりきれなさを押し込め、ミゼアスは微笑んでコリンの頭を撫でた。

「誰も叱る奴はいないよ。いきなりそんなことはしなくていいんだ」

 『もう、しなくてもいい』と言えないのが心苦しい。いずれは結局、客を取ることになるのだ。

「でも……えっと、ミゼアス様?」

 ミゼアスは困った顔のコリンを抱き上げ、自らの膝に乗せた。片手で身体を押さえ、もう片方の手で頭を撫でてやる。

「僕のことは『ミゼアス兄さん』とお呼び。今日から僕がきみの上役だよ」
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