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62.巡りあわせ

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 ヴァレンが部屋の外に向けて声をかけると、どことなく決まりが悪そうな顔をしながら、ネヴィルが部屋に入ってきた。
 ジリーメルは目を見開いてぽかんとしながら、ネヴィルを見つめる。

「え? え? ネヴィルさん……? もしかして、今の話……」

「うん、聞いていた。その……僕も、無理に押し付けすぎて悪かったと思っているんだ……。もし、きみがまた戻ってもいいって思えるんだったら、僕はきみに戻ってきてほしい……」

 やや気まずそうではあったが、ネヴィルはしっかりとジリーメルを見つめて口を開く。

「え? で、でも……僕は、ネヴィルさんを裏切って……」

「いや……裏切りなんていったら、僕は昔、ミゼアス兄さんやヴァレンにもっとひどいことをやらかしている。それでも、ミゼアス兄さんとヴァレンは僕のことを許してくれたんだ。そんな僕が、許さないなんてできるはずがない」

 戸惑うジリーメルに向かい、ネヴィルは微笑みかける。
 やや自嘲めいていたが、それも含めて自分を受け入れたような潔さすら伺える笑みだった。

「もし、きみがもう僕のところになんて戻りたくないっていうんだったら、無理強いはしないよ。でも、僕は昔、許してもらえてからは真面目に頑張った。もしあのとき、逃げ続けていたら後悔していたと思うんだ。だから……きみも、後悔しない道を選んでほしい。きみに心残りがあるのなら、戻っておいで」

 あくまで穏やかに、ネヴィルはジリーメルに語りかける。
 もしかしたら、ネヴィルとジリーメルは似ているのかもしれない。
 だからこそ、ネヴィルはジリーメルの葛藤がわかるのだろうと、ヴァレンは二人を眺めながら思う。

「……ごめんなさい……ごめん……なさい……ありがとう……ございます……」

 とうとうジリーメルも意地を張るのをやめたようだ。
 ネヴィルの胸に飛び込み、すすり泣く。その背中をネヴィルが優しく撫でているのを見て、ヴァレンはふとミゼアスを思い出した。
 ネヴィルもいつの間にか、受け止める側になっていたのだと、時の流れを感じる。

 かつてミゼアスに反発したこともあったネヴィルが、今度は自分に反発した子を受け入れているのだ。
 巡りあわせに奇妙な縁を感じ、くすりと笑いをこぼしながら、ヴァレンはもうネヴィルもジリーメルも大丈夫だろうと、そっと部屋を離れた。
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