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10.寵姫ステファニア
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後宮入りした日、ステファニアのもとに渡ってきたゴドフレードに向かい、ステファニアは『子など、欲しいとも思いませぬ』とはっきり言い放ったのだ。
思い出せば、よくもあのような無礼なことを言えたものだとステファニアは思う。
だが、当時は心が空っぽになっていて、何もかもがどうでもよかった。自分を捨てた母のことを思い出し、捨てられるくらいならば最初からいなければよいと、子の立場として考えてしまったのだ。
ゴドフレードには、男子がいない。女子は、今は亡き正妃の娘である第一王女を始めとして数名いるのだが、王位継承権は男子が優先される。もし、寵姫たちの誰かが男子を産み落とせば、その子が世継ぎとなるのだ。
そのため、国内の有力貴族たちはこぞって娘を後宮に送り込んだ。ステファニアも送り込まれた一人である。
しかし、王の子を産むために後宮入りしたはずなのに、王の子など欲しくないとステファニアは言ったのだ。その場で切り捨てられてもおかしくないような暴言だろう。
「だが、余はその言葉に救われたといってもよい。寵愛が偏るのはよくないことなのだが……それでも、そなた以外の女のもとで眠ることなど、もはや無理だ」
そっぽを向いたままのステファニアにそっと手を伸ばし、ゴドフレードは微笑む。
「陛下……」
伸ばされた手をとり、ステファニアはようやくゴドフレードに視線を戻す。
無礼者と激昂されてもおかしくない言葉は、ステファニアに寵愛を引き寄せることとなった。孤独な国王の苦悩を思えば、ステファニアの胸はきゅっと締め付けられる。
ゴドフレードは、ステファニアの父親のような年齢だ。かつて初恋のときに感じたような胸の高鳴りはないが、少しでも彼の癒しになることができればよいといった、親愛の情はある。
「……今さら、国王が不能であるなど、よい笑いものになってしまうからな」
ゴドフレードは口元をわずかに歪め、苦い思いを吐き出す。
これこそが、子を望まないステファニアをゴドフレードが寵愛する理由だった。
若い頃は違ったようだが、ゴドフレードはあるときから子を作れなくなったのだという。
それなのに、後宮には世継ぎを産むため、意欲にあふれた娘たちが押し寄せてくる。
王母の座がかかっているのだ。実家の思惑云々だけではなく、娘本人にしても権力の座に上り詰める好機である。
美貌と若い肉体を武器に戦いを挑む娘たちだったが、当の国王本人は受けて立つ武器がすでに使い物にならなくなっていた。もはや国王は防戦一方、逃げることしかできない。
そのようなとき、誰よりも輝かしい武器を持ちながら、振りかざそうとしないステファニアが現れたのだ。ようやく逃げ場所を見つけた国王は、ステファニアを寵愛した。
他の寵姫たちを寄せ付けず、国王の寵愛を一身に浴びるステファニア。
しかし、毎日のように朝まで泊まっていく国王は、ただ同じ寝台に眠るだけであり、ステファニアは単なる添い寝役に過ぎないなど、信じられる者はいないだろう。
後宮入りして二年、その間に国王と夜を共に過ごした日は数え切れないほどでありながら、ステファニアの肉体が未だに男を知らない乙女のままであるなど、誰が想像するだろうか。
思い出せば、よくもあのような無礼なことを言えたものだとステファニアは思う。
だが、当時は心が空っぽになっていて、何もかもがどうでもよかった。自分を捨てた母のことを思い出し、捨てられるくらいならば最初からいなければよいと、子の立場として考えてしまったのだ。
ゴドフレードには、男子がいない。女子は、今は亡き正妃の娘である第一王女を始めとして数名いるのだが、王位継承権は男子が優先される。もし、寵姫たちの誰かが男子を産み落とせば、その子が世継ぎとなるのだ。
そのため、国内の有力貴族たちはこぞって娘を後宮に送り込んだ。ステファニアも送り込まれた一人である。
しかし、王の子を産むために後宮入りしたはずなのに、王の子など欲しくないとステファニアは言ったのだ。その場で切り捨てられてもおかしくないような暴言だろう。
「だが、余はその言葉に救われたといってもよい。寵愛が偏るのはよくないことなのだが……それでも、そなた以外の女のもとで眠ることなど、もはや無理だ」
そっぽを向いたままのステファニアにそっと手を伸ばし、ゴドフレードは微笑む。
「陛下……」
伸ばされた手をとり、ステファニアはようやくゴドフレードに視線を戻す。
無礼者と激昂されてもおかしくない言葉は、ステファニアに寵愛を引き寄せることとなった。孤独な国王の苦悩を思えば、ステファニアの胸はきゅっと締め付けられる。
ゴドフレードは、ステファニアの父親のような年齢だ。かつて初恋のときに感じたような胸の高鳴りはないが、少しでも彼の癒しになることができればよいといった、親愛の情はある。
「……今さら、国王が不能であるなど、よい笑いものになってしまうからな」
ゴドフレードは口元をわずかに歪め、苦い思いを吐き出す。
これこそが、子を望まないステファニアをゴドフレードが寵愛する理由だった。
若い頃は違ったようだが、ゴドフレードはあるときから子を作れなくなったのだという。
それなのに、後宮には世継ぎを産むため、意欲にあふれた娘たちが押し寄せてくる。
王母の座がかかっているのだ。実家の思惑云々だけではなく、娘本人にしても権力の座に上り詰める好機である。
美貌と若い肉体を武器に戦いを挑む娘たちだったが、当の国王本人は受けて立つ武器がすでに使い物にならなくなっていた。もはや国王は防戦一方、逃げることしかできない。
そのようなとき、誰よりも輝かしい武器を持ちながら、振りかざそうとしないステファニアが現れたのだ。ようやく逃げ場所を見つけた国王は、ステファニアを寵愛した。
他の寵姫たちを寄せ付けず、国王の寵愛を一身に浴びるステファニア。
しかし、毎日のように朝まで泊まっていく国王は、ただ同じ寝台に眠るだけであり、ステファニアは単なる添い寝役に過ぎないなど、信じられる者はいないだろう。
後宮入りして二年、その間に国王と夜を共に過ごした日は数え切れないほどでありながら、ステファニアの肉体が未だに男を知らない乙女のままであるなど、誰が想像するだろうか。
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