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62.ドロテアの訪れ
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ステファニアは後宮に戻された。
ゴドフレードが倒れたことに関してはすぐに緘口令が敷かれ、ステファニアとアドリアンの件についてはうやむやになった状態だ。ただ、アドリアンは牢に繋がれたままである。
逃避行の失敗を嘆きながらも、緘口令が敷かれたとはいえピリピリとした空気が流れる後宮で、ステファニアはこの先どうなるのだろうと不安に苛まれていた。
「ステファニア様……」
気遣わしそうに、リナがステファニアの様子を伺ってくる。
今のところはステファニアの待遇は何も変わらず、見張りも増えていなければ、行動が制限されているわけでもない。以前と同じままだ。
ルチアに相談したかったが、一度失敗してしまった以上、ステファニアから接触するのは迷惑になるかもしれない。ひとまず自分からの連絡は控え、ステファニアはじっとしていることにした。
やがて夕暮れを告げる、祈りの鐘が鳴り響いた。
ずっと祈ることをやめていたステファニアだったが、アドリアンの無事を願って数年ぶりの祈りを捧げる。
「どうか……どうか……」
血の気が引くほどに両手をぎゅっと組み合わせ、ステファニアは祈る。
かつてエルドナート侯爵邸の小礼拝堂で、毎日祈りを捧げていたことが思い出される。アドリアンとの逢瀬の時間でもあったのだと、懐かしい幸せな記憶が胸を満たし、ステファニアの閉じた目から涙が伝った。
「ドロテア様! ドロテア様!」
「落ち着いてくださいませ、ドロテア様!」
ところが、静かな祈りを妨げる声が響いてきた。
ステファニアが部屋から出ると、すっかり大きくなった腹を抱えながらも、ドロテアが向かってきているところだった。後ろでは侍女たちが落ち着かせようと声をかけているが、効果はないようだ。
「陛下がお倒れになったのですって!? そのとき、あなたが近くにいらしたそうですけれど、陛下は大丈夫ですの!」
どこから聞いてきたのか、ドロテアがステファニアを問い詰める。
ただ、ステファニアとアドリアンのことは聞いていないようだ。ドロテアの瞳には、純粋にゴドフレードを心配する、不安そうな輝きだけがあった。
「私も、その後は知らないわ……」
ドロテアの剣幕に押され、ステファニアは素直に答える。
倒れたゴドフレードは、兵たちがすぐに運んでいってしまったのだ。ステファニアはそのまま後宮に戻されたので、倒れた後のことは一切知らない。
「そう……役に立たない方ですこと。わかったわ、直接聞きに行ってくることにしますわ」
言い捨てると、ドロテアはステファニアに背を向けて歩き出す。
かなり乱暴な足取りで、見ているほうがハラハラしてしまう歩き方だ。
「ちょっ……ドロテア、身体に障るわよ」
思わずステファニアは声をかけてしまう。しかしドロテアは構うことなく、ずんずんと進み続ける。
危なくて見ていられず、ステファニアはドロテアを追いかけた。
ゴドフレードが倒れたことに関してはすぐに緘口令が敷かれ、ステファニアとアドリアンの件についてはうやむやになった状態だ。ただ、アドリアンは牢に繋がれたままである。
逃避行の失敗を嘆きながらも、緘口令が敷かれたとはいえピリピリとした空気が流れる後宮で、ステファニアはこの先どうなるのだろうと不安に苛まれていた。
「ステファニア様……」
気遣わしそうに、リナがステファニアの様子を伺ってくる。
今のところはステファニアの待遇は何も変わらず、見張りも増えていなければ、行動が制限されているわけでもない。以前と同じままだ。
ルチアに相談したかったが、一度失敗してしまった以上、ステファニアから接触するのは迷惑になるかもしれない。ひとまず自分からの連絡は控え、ステファニアはじっとしていることにした。
やがて夕暮れを告げる、祈りの鐘が鳴り響いた。
ずっと祈ることをやめていたステファニアだったが、アドリアンの無事を願って数年ぶりの祈りを捧げる。
「どうか……どうか……」
血の気が引くほどに両手をぎゅっと組み合わせ、ステファニアは祈る。
かつてエルドナート侯爵邸の小礼拝堂で、毎日祈りを捧げていたことが思い出される。アドリアンとの逢瀬の時間でもあったのだと、懐かしい幸せな記憶が胸を満たし、ステファニアの閉じた目から涙が伝った。
「ドロテア様! ドロテア様!」
「落ち着いてくださいませ、ドロテア様!」
ところが、静かな祈りを妨げる声が響いてきた。
ステファニアが部屋から出ると、すっかり大きくなった腹を抱えながらも、ドロテアが向かってきているところだった。後ろでは侍女たちが落ち着かせようと声をかけているが、効果はないようだ。
「陛下がお倒れになったのですって!? そのとき、あなたが近くにいらしたそうですけれど、陛下は大丈夫ですの!」
どこから聞いてきたのか、ドロテアがステファニアを問い詰める。
ただ、ステファニアとアドリアンのことは聞いていないようだ。ドロテアの瞳には、純粋にゴドフレードを心配する、不安そうな輝きだけがあった。
「私も、その後は知らないわ……」
ドロテアの剣幕に押され、ステファニアは素直に答える。
倒れたゴドフレードは、兵たちがすぐに運んでいってしまったのだ。ステファニアはそのまま後宮に戻されたので、倒れた後のことは一切知らない。
「そう……役に立たない方ですこと。わかったわ、直接聞きに行ってくることにしますわ」
言い捨てると、ドロテアはステファニアに背を向けて歩き出す。
かなり乱暴な足取りで、見ているほうがハラハラしてしまう歩き方だ。
「ちょっ……ドロテア、身体に障るわよ」
思わずステファニアは声をかけてしまう。しかしドロテアは構うことなく、ずんずんと進み続ける。
危なくて見ていられず、ステファニアはドロテアを追いかけた。
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