霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ

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野花怪異談集全100話

42話「かいだんのかいだん」

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【1】

 ーー「????」ーー

 かいだんの奥に、またかいだんがあった。
 目をこすっても見通せない暗闇に、ただそこだけがほのかに光っていた。
 私は、終わりのないかいだんを、ただ黙々と上っていた。

 どこへ向かうのか。
 何のために上るのか。
 答えはない。ただ、上らなければならない――という、不可解な確信だけがあった。

 頂が近づいた、と思ったその時だった。
 一段のつまずき。

 足が空を踏む。
 その瞬間、下方に続く段々が崩れはじめ、まるで闇が牙を剥いて私を呑み込もうとしていた。

 私は――落ちた。

 【2】

 ーー「嵐矢魔和好《あらしやま かずよし》の自宅/午前5時45分」ーー

 私はツインベッドの上で汗にまみれて目を覚ました。
 隣には、妻の安らかな寝息。
 手足を動かし、異常がないことを確かめる。次に、慎重に首筋を触る――異常なし。

 ……まだ、生きている。

 夢だと知っている。だが、現実に影響している。
 私の名は嵐矢魔和好。58歳。
 定年を過ぎ、静かな生活を送っていた……はずだった。

 いつからだろう。
 毎晩、「かいだん」の夢を見るようになったのは。
 そして現実でも、自宅の2階に「アレ」が現れてから、私は階段を上れなくなった。

 かいだんと、もうひとつの“かいだん”。
 これが、私を夜も昼も苛み続ける二重の呪いだった。

 
【3】

 ーー「石山県野花市・鶴坂町/午後3時35分」ーー

「楓ちゃん、ごめんね。僕のわがままに付き合わせちゃって」
「いえ、神木さんとあかねさんがお手上げになるレベルの“何か”というのが気になりまして」
「正直、俺ら行ってどうにかなるもんでもないと思うが……」

 休日の午後。八木楓、梅田虫男、花郎の三人は、旧友・嵐矢魔の家に向かっていた。

「まあね~。でも、僕としては放っておけなかったんだ。アイツ、あれからずっと夢を見てるらしいし」
「たしかに“かいだんの夢”が一つ。そして“アレ”がもう一つ……」
「うん。二階にだけ現れるらしくてね。和好の話だと、どうしてもあのが見えてしまうんだって」

「じゃあ逆に言えば、近づかなければ平気ってことか?」

「それがね、最近になって夢が変わってきてるんだ。頂上が“近づいてる”って……。
 何があるのかは言わなかったけど、日に日にやつれていくのが目に見えてわかる」

「兄貴の演歌で励ませば元気になるんじゃ?」
「虫男、僕が演歌を封印した理由を忘れたの? “あっち”を呼ぶからだよ」
「それ、ガチだったのかよ……」

 楓は肩をすくめながらも、表情は冗談に見えなかった。

「4」

 花郎は嵐矢魔の自宅に早速インターホンを鳴らした。
『どちら様ですか?』
 中年女性がインターホンごしに応対する。
「奥様お久しぶりです。花郎です」
『あらまぁ~やだわ。花郎さん。少しお待ちになって』
 と声色が変わったかのように応対する。
 花郎はファンから別名『マダムキラービー』と呼ばれており、中年女性層をしっかり狙って言葉にかける声が蜂のように刺されることからの由来する。
 しばらくすると玄関からお化粧を整えた嵐矢魔の妻が迎えてきた。
「まあまあ、花郎さんお久しゅうございます。さっさっ、立ち話もなんだから皆様方上がってちょうだい。主人は今、犬の散歩してますわ」
「奥様。お邪魔します」
「俺らはお邪魔ムシかなと」
 と、楓達は嵐矢魔の自宅に上がり込んだ。

 ーー「嵐矢魔の自宅内」ーー

「こんな物しかないけどよかったらどうぞ」
 と客間に案内されて和好の妻が出してくれたのは草山村名物草茶と草山イナゴせんべいだった。
「奥様お構いなく」とゆっくり腰を下ろした花郎は草茶を飲んであークサと言った。
 虫男は草山イナゴせんべいの袋を開けてにおいを嗅いで自分の靴下のにおいと同じだと言っても無視される。
「花郎さん。嵐矢魔さんがかいだんに巻きこまれるきっかけて、ご存知ありませんか?」
「かいだんのきっかけ……」
 う~んと唸りだす花郎。
 う~んと草山イナゴせんべいで自分の舌で舐めてにおいを確かめようとする虫男はムシされる。
 あっと花郎はあることに気がつく。
 あっと虫男は耳の付け根にクサイことに気がつきみんなに教えるがムシされる。
「そういえばあの出来事の一件以来毎晩かいだんの夢を見るようになってた気がするね」
「あの出来事?」
 と楓はキョトンと首をかしげる。そして虫男はカチャカチャと歌詞を披露すると楓はそこにあった『ムシイヤヤ』の芳香剤を虫男にかけて悶え苦しむ。
「そうだね。詳しくは彼に聞くといいよ」
 と、花郎は草茶で飲んで落ち着き草ついたところ、そこにあった『ムシバズーカイヤーン』の強力芳香剤を取り出してカチャカチャと悶え苦しむ虫男にトドメとしてボンと爆音して吹きかけて虫男がカチャンと糸が切れたように気絶した同時に玄関のドアが開く。
「む。お客さんかな?あー。イヤー。これはこれは花郎さんじゃないですかー。イヤー。イヤー」
 和好が犬の散歩から帰宅して花郎達をイヤーを連発して出迎えする。ペットの草犬は早速クサイ草髪の虫男の髪をがじがじとかじられていた。

「5」

 ーー「嵐矢魔宅・2階」ーー

「ここです」

 和好が階段の先を指すが、そこには何も見えなかった。

「我々には“見えない”ようですね」

 楓と花郎は2階へ上り、各部屋を調べるが、目に見える異常は何もない。

「娘たちが家を出て以来、上は使ってません。……アレを見てからは特に」

「アレ……?」

「昔、私が仕事で“あるモノ”を使ったことがありましてね。それ以来なんです。夢も、アレも……」

「その“あるモノ”とは……?」

 和好は静かに言った。

「死者の最期を“見届ける”役職でした。私は“看取る”ことで、生きている実感を得ていたのかもしれません。
 でもあるとき、“見送りたくない命”を、あのかいだんにいかせてしまったんです」

「……」

「アレはその報いなんでしょう」

「6」

 ーー「????」ーー

 今夜もまた、夢の中でかいだんを上っていた。
 無数の顔が、かいだんの壁に浮かびあがる。
 笑う者、怒る者、泣く者――すべて、自分が“いかせた”命。

 頂上に近づく。
 あと一歩。

 そこに、少女の声が響いた。

『だめ!!そこに行っちゃダメ!!』

 ――目が覚めた。

 私は、すでに2階のかいだんの上に立っていた。
 目の前には、――ぶら下がる青白いリング。

 私はかいだんを転げ落ちた。

【7】

 以来、私は睡眠を避けるようになった。
 目の下の隈が濃くなる中、ある朝――

「おじさん、だめだよ。かいだん、上っちゃ」

 夢見亜華葉――娘の夫の親戚の少女が心配そうに言った。
「……わかった。もう上らない。約束するよ」

 私は微笑んだ。泣きじゃくる彼女に、少しだけ救われた気がした。

 ーー「????」ーー

 今日もあのかいだんの夢を見る。
 そしていつものように上ろうとするが途中でやめてしまう。
『どうして、かいだんを上らないの?』
 と、どこからか幼い少年の声がする。私は周囲をよく確認するが誰もいなかった。そして私はつぶやいた。
「彼女と約束したからだ。だからもうかいだんは上らないよ」
『えー?上ろうよ。楽しいよー♪こんな楽しい物を逃すと後はないよー?』
 と、どこから黒いうずから現れてきた。私はおっと少し驚いてしまった。
「さー。一緒に上ろうよ♪楽しいよ♪」
 現れたのは道化のピエロ少年だった。
「で、でも私は」
「いいから。僕についてきて」
 と少年は私のことを手を引っ張っていくすると、あるかいだんが柔らかくて思わず飛び跳ねてしまう。そしてかいだんがグニャリと変わり華やかなテーマパークの遊園地に変わる。そこには老若男女の集団が楽しそうにかいだんを楽しんでいた。私も思わずウキウキするほどかいだんの楽しさにハマっていた。
「さぁー。もうすぐ頂上だよ。ほら早く急いで」
 と少年は私をリードしながら、かいだんの頂上を向かおうとする私はもうすぐのところで、
『そこはとんじゃだめ!!』
 私は懐かしい少女の声がしたので思わず目を覚ました。その視界が入った途端思わず腰が抜かしてしまった。
 なぜなら目の前にアレがぶら下がっていた。私は夢じゃなかった。
 気がつくと私はすでに2階を上っていたからだ。
 私は急いで慌ててかいだんを下った。

「8」

 私はあれ以来眠るのが怖くなってしまった。おかげで妻から寝不足なの?と心配するくらい目の下が隈になってしまった。
 私はある日早く起きていつものように玄関口を掃除してると、亜華葉ちゃんとこの前にきた楓さんという方が学校の制服姿で直接会いに来てくれた。
「君たちはどうしたんだい?こんな朝早く時間に」
「私たち、おじさんのことを心配だから用があって早めに来たの!あっ、学校は一応まだ間に合うから、それは気にしないでね」
 とあたふた慌ててる亜華葉ちゃん。
 楓さんが指輪を手渡してくれた。
「これは?」
「これはねー。命ちゃん特製&私の愛情込めて結んだ久佐野村の草で出来た草リングだよ!つけてみて」
「ああ」と私は草リングを指につけると見事に吸い込まれるようにハマった。
「もう、これでかいだんの夢は見ないよ!あとは2階のかいだんに近づかなければ安心だから。じゃあ、わたしはこれで」
 亜華葉ちゃんたちはそのまま学校に向かった。

「9」

 それから数ヶ月。
 かいだんの夢はぴたりと止んだ。

 ただし、“アレ”はまだ残っている。
 2階のかいだんの奥、誰にも見えないその先に。

 そして、ある日。

「嵐矢魔さん、そのは……」
「まだあります。見えてます。だが、もう上りません」

「安心しました。それさえ約束していただければ、命に関わることはないでしょう」

 神木親子は安堵の表情を浮かべ、帰っていった。

 私だけが知っている。
 あの毛皮のようなが、未だに“誰かが来るのを待っている”ことを――

 かいだんのかいだん  完
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