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11話.現実逃避をする
自分の扱いに若干の不安を感じつつ、現実逃避を終えた俺は、漸く周囲に目を向けることにした。
一番後ろにある席で、俺の横──左隣の窓際に座っているのは、爽やかワンコくんだ。白いタンクトップの上にカラフルなハワイアンシャツを羽織り、黒いショートパンツという、見るからに海を全力で楽しむ気満々なスタイルだ。
その前の席には左側にぶりっ子くん、右側に一条。そして助手席には鬼畜眼鏡くんが座っている。運転席で黙ってハンドルを動かしているのは、見たこともないスーツ姿の男性だ。きっと四人の保護者兼世話係なんだろう。
そんで、俺の顔面クッションとなってくれた、もぞもぞと動いてるお布団の塊は……。
「んー! んんっ!」
布団で簀巻きにされた時雨だった。ご丁寧にも口には白い布が巻かれ、完全に動けない状態で爽やかワンコくんの膝に頭を乗せられている。なんともシュールな光景だ。
どうやら俺が倒れ込んだのは、時雨の体の上だったらしい。これで一条が言っていた連絡や、ぶりっ子くんが時雨のスマホを持っていた理由が分かったな。
再び現実逃避したくなって、窓の外へと視線を向けた。住宅街を抜けて、車は広い道路を走ってる。澄んだ青空に、白い雲がポツポツと浮かんでいて、文句無しの海日和だね、タノシミー……とか心の中で明るく言ってみても、全然テンション上がらん。
観念して体を起こし、簀巻き状態の時雨をぽんぽんと軽く叩いた。
「……時雨、大丈夫か? なんでこんな漫画でしか見たことない状態になってんの?」
「ん~! んっんっんー!」
何かを必死で訴えているが、当然言葉なんて分からない。この状態を見る限り、無理やり拉致されたのは明白だけど。
俺が憐れみの目を向けると、時雨は暴れるのを止め、ガクリと力を抜いた。目が虚ろだ、可哀想に……。
「あの、さわや……じゃなくて。えーと……三ノ宮様。窮屈そうなので、時雨の拘束を解いてあげてもいいですか?」
でれっとした顔で時雨の頭を撫でている爽やかワンコくんに、俺は恐る恐る尋ねた。
「ん? あぁ……まぁ、もう逃げられそうにないっすからね。いいっすよ」
「あ、ありがとうございます……。時雨、解いてやるから、ちょっとだけ待っててな」
「んー……」
お許しが出たので、俺は手前にあった時雨の足元から紐を解き始めた。拘束を緩め、手が自由になった時雨は、爽やかワンコくんの「もうちょっとだけ、このままでいさせてもらいたいっす!」という未練たっぷりな声をスルーして起き上がる。口元の布を外し、深々と息を吐くその顔には、疲労感しかなかった。
「なんで葉まで捕まってるんだ。逃げろってメッセージ送ったのに……」
恨めしそうな顔を向けてくる時雨は、灰色のパーカー、白いTシャツ、紺色チェックのハーフパンツという部屋着姿だった。
もしかして、起きて早々着替える間もなく連れてこられた系か?
「そうは言っても『に』だけじゃ分かんないでしょ。俺だって逃げられるもんならとっくに逃げてるし、平和な夏休みを過ごしたかったよ」
「ああ、変換ミスったか……くそっ……」
頭をガリガリとかきながら、時雨は再び深い溜め息を吐いた。
「所でさ、何で俺まで拉致られたの?」
「それは──」
「時雨がお前と一緒じゃなきゃ遊びに行かないって言い張ったからだよ!」
俺の疑問に、一条が前の席から振り返りながら苛立ち混じりで答えた。
「俺様は嫌で気乗りしなかったが……そうしなけりゃ俺様たちとは遊ばないどころか、今後は口も利かないと言うんで、仕方なく貴様を連れてきてやったんだ。でなければ、誰が俺様の恋路を邪魔するヤツを誘うかっての!」
ですよね! 時雨が絡んでなけりゃ、俺なんて絶対誘わないだろうし。俺を連れ出した理由も分かってスッキリした。
ぐちぐちと一条は愚痴を垂れ流しているが、俺は無視して時雨に目を向けた。彼はげんなりしつつも、切なげな表情でこちらを見つめてくる。
はいはい、分かったよ。付き合えばいいんだろ。どうせこの状況じゃ逃げられないしね。
こくりと俺が頷くと、時雨はホッとしたようだった。お互い協力しながら頑張って、今日一日を乗り越えような!
「あ、でもさ、お前バイトは大丈夫なのか? 今日は休み?」
「いや、午後からシフトが入ってたけど……」
「ボクが時雨ちゃんの代わりにねぇ、親衛隊の子ブタちゃんたちを使って穴埋めしておいたから大丈夫だよぉ。えへへ~、気が利くでしょ? 誉めて誉めてぇ」
一条の隣に座るぶりっ子くんが、時雨に向かってピースをしながら、自慢げに笑顔を浮かべる。
なるほど、時雨は本来休みでもないのに、レガフォーが海で遊ぶために拉致されたのか。その穴埋めとして別の労働者を送り込まれた訳だが、その分稼ぐ筈だった時雨の給料は一体どうなるんだろう。
「いや……うん、それはありがたいけどさ。急に知らない人が俺の代わりでシフトに入るなんて、バイト先に迷惑かけたことには変わりないだろ?」
時雨が困ったように嗜めると、爽やかワンコくんが横からにこやかに口を挟んできた。
「時雨さん、ホント優しいっすよね。でも心配いらないっすよ! あそこ、オレん家のホテル系列なんで、責任者呼んだら『全然問題ない』って感じでOKもらえたんで!」
さらっと告げる爽やかワンコくんに、俺と時雨は顔を見合わせた。
まぁ、お偉いさんの坊っちゃんがそう言うなら、問題あっても大丈夫と答えるしかないだろうなぁ。ホテルのスタッフ一同も可哀想に……。
「そういう訳だから、貴様は時雨の優しさに感謝しとけよ! 平凡で貧乏人な貴様が、普通なら一生縁のねぇプライベートビーチを満喫できるんだからな!」
「正しくは『私のプライベートビーチを』です。勿論、タダで使わせるつもりはありませんからね。後でみっちり働いてもらいますよ」
「ハハッ! 働け働け!」
助手席に座る鬼畜眼鏡くんが淡々と補足し、一条は満足げに高笑いを上げる。俺に向けられた鬼畜眼鏡くんの薄い笑みが、どうにも嫌な予感がする。
まさか、夏休み中まで俺は鬼畜眼鏡くんにこき使われるのか? やだーっ!
時雨に助けを求めようと隣を見るが、あっちの状況もなかなかに悲惨だった。
ぶりっ子くんには無理矢理ポッキーをくわえさせられ、爽やかワンコくんには腕をがっしり組まれた挙げ句、肩にもたれ掛かった頭を撫でさせられている。完全に諦めの境地に入っているのか、時雨の表情は……虚無だ。可哀想!
「おい、貴様らずるいだろ! 特に三ノ宮だ! 今すぐそこを替われ。その席を俺様に譲れって!!」
その様子に気付いた一条が、噛みつくような勢いで声を上げる。
「へへっ、ダメっすよ、一条さん。さっきの ジャンケン勝負ではオレが勝ったんで、今はオレのターンっす!」
「そうだよ、一条ぉ。次のサービスエリアまでのガマンガマン。でもぉ、次はきっとボクが勝つと思うけどね~」
「次もジャンケンっすね。オレ、負ける気ないっすから!」
「なんだと? 次こそは俺様が勝って、時雨と優雅な時間を過ごしてやる!」
車内はジャンケンの勝敗を巡る争いで一気に騒がしくなった。一条、爽やかワンコくん、ぶりっ子くんの三人がヒートアップする中、俺はちょっとドン引きしていた。
なんなんだよ、この状況は……。
「まったく……騒がしいですね。少しは落ち着きなさい。長谷川、次のサービスエリアまではあとどれ位かかりますか?」
鬼畜眼鏡くんが冷ややかな声で三人を一喝し、運転席へと視線を送る。運転手の顔はよく見えないが、低く落ち着いた声で答えが返ってきた。
「あと一時間ほどで到着致します」
「……だそうです。それまでは大人しく座っていなさい」
そう鬼畜眼鏡くんが一同に告げると、三人はそれぞれ異なる反応を見せる。
「くっ……あと一時間か。長いったらありゃしねぇ」
「ちぇっ、一時間って意外と短いっすね。でもその間に時雨さんをしっかり堪能しとくっすよ! ハァハァ……なんかめっちゃいい匂いする……」
「なら、もうちょっとの我慢か~。ねぇねぇ、時雨ちゃん。次は何食べたい? 飴とチョコもあるから、好きなの食べさせてあげるからねぇ」
「……いらない」
一条が悔しそうに呟き、爽やかワンコくんは頬を赤らめながら時雨の服を嗅ぎ、ぶりっ子くんは笑顔でお菓子袋を揺らしてアピールしている。
うわぁ……とドン引きしながら横目で時雨を見ると『助けて』と視線で訴えてきた気がしたが、俺にはどうすることも出来ない。
それに目的地に着いたら、俺は鬼畜眼鏡くんに強制労働をさせられる運命。今は出来るだけ体力を温存しておきたいんだよ。一応、車内だから貞操の危機はない筈だし、ヤバそうになったら割り込むからさ。許せ、時雨。
俺がそう心の中で言い訳をして顔を窓際に向けると、左手をぎゅっと握られる感触を感じたが、振り返らなかった。
ワー、オソト……トッテモキレイダナー。
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