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攻略編 1-3

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聖女になってからというもの、私の日常は大きく変わった。毎日の祈りに加えて、神殿内の見回りや周辺地域の人々との触れ合いなどやることは山積みだった。
そんな多忙な日々を送るうちに、いつの間にか私の心の中にはハルトの姿があった。最初は戸惑ったものの、今ではそれが当たり前のように感じている自分に驚きを隠せなかった。
「聖女殿。」
廊下ですれ違いざまにハルトに呼び止められて、私は振り返った。するとそこには微笑みながらこちらを見ている彼の姿があった。
「どうかなさいましたか?」
私が尋ねると彼は少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「いや……君に会いたくなってつい声をかけてしまったんだ……」
(会いたい?)その言葉に思わずドキッとする。しかしそれを悟られないように平静を装って答えた。
「そ、そうですか……」
(私も……ハルトに会いたいです)
そんなことを考えていると、ハルトがさらに続けた。
「今度一緒に食事でもどうかと思ってね。」
それを聞いて私は少し迷った後で小さく頷いた。すると彼は嬉しそうに微笑んだ後、その場を後にしたのだった……
*****
「聖女様! お祈りの時間ですよ!」
神官の女の子に声をかけられてハッと我に返った私は慌てて立ち上がった。そして急いで準備をすると、聖堂へと向かう。
「今日も平和でありますように……」
祈りを捧げていると、何故かハルトのことが頭に浮かんでしまった。
(違う……これはただのお祈りで……)
そんなことを考えていると不意に胸がドキドキしてきた。
(どうして……?)
困惑していると今度はハルトの顔が脳裏に浮かぶ。
(だめよ……こんなこと考えたら……)
必死に自分に言い聞かせるものの、一度意識してしまうともう駄目だった。どんどん胸が苦しくなっていくのがわかる。
「聖女様……?」
私が黙り込んでいることに気づいたのか、神官の子が心配そうに声をかけてきた。私はハッとして慌てて返事をする。
「な、なんでもないわ……」
すると彼女は首を傾げながらもそれ以上追及してくることはなかった。そのことにホッと胸を撫で下ろすと再び祈りを続けることにしたのだった……
*****
その日以来、私の生活は少しずつ変わり始めた。ハルトの顔を見るだけでドキドキしてしまい、まともに会話すらできないほどだった。それでもなんとか平静を装っていたのだが、ある日事件が起きた。
「聖女様! 大変です!」
神官の子が血相を変えて部屋に飛び込んできたのだ。何事かと思って話を聞いてみると、どうやらハルトが倒れたらしい。
「どういうことですか!?」
私が尋ねると、彼女は困惑した表情を浮かべながら話し始めた。
「それが……突然倒れてしまわれたのです! 幸い命に別状はないらしいのですが……」
それを聞いて私は愕然とした。
(どうしよう……)
そんなことを考えていると、神官の子が声をかけてきた。
「聖女様、ハルト様のところへ行かれないのですか?」
その問いに私は一瞬躊躇った後で小さく頷いた。
「ええ……そうですね……」
そう答えたものの不安でいっぱいだった。そんな私の様子を察してか、神官の子が微笑みながら言った。
「大丈夫です! きっとハルト王子はすぐに良くなりますよ!」
(そうだといいけど……)
そんなことを考えながら私は重い足取りで部屋を後にしたのだった……
*****
「ハルト様!」
私はハルトの部屋を訪れると急いで部屋の中に入った。そこにはベッドで横になっている彼の姿があった。
「聖女殿か……」
ハルトは起き上がると弱々しい笑みを浮かべた。その姿を見た瞬間、胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた。
(どうして?)
今まで感じたことのない感情に戸惑いながらも私は彼に話しかけた。
「大丈夫ですか?」
私が尋ねると彼は小さく頷いて答えた。
「ああ、問題ないよ……」
そうは言うものの彼の顔色は悪く、明らかに無理をしている様子だった。そんな彼を見ていると心配でたまらなくなると同時に愛おしさも湧いてくるのを感じた。
「無理しないでくださいね……」
私がそう言うと彼は嬉しそうな表情を浮かべながら口を開いた。
「ありがとう。」
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
(何これ……?)
今まで経験したことのない感覚に戸惑っていると、不意に彼がこちらに手を伸ばしてきた。そしてそのまま私の手を取ると優しく握りしめてきた。
(えっ……!?)突然のことに驚いているうちに、どんどん顔が赤くなっていくのがわかった。心臓の音がうるさいくらいに鳴り響き、その音で彼にも聞こえてしまうのではないかと思ってしまうほどだ。
(ど、どうしよう……)
頭の中はパニック状態で何も考えられなくなる。
「聖女殿……?」
そんな私の様子を不審に思ったのか、ハルトが声をかけてきた。その瞬間私は我に返ると同時に慌てて手を引っ込めた。
「す、すみません……」
そう言って俯くと、彼がクスッと笑ったような気がした。思わず顔を上げるとそこには優しい笑みを浮かべたハルトの姿があった。その表情を見た瞬間、再び胸が高鳴るのを感じる。
(ああ……そうか……)
そこでようやく私は自分の気持ちを理解した。
(私、この人のことが好きなんだ……)
今まで感じたことのない感情の正体に気づいた途端、なんだかとても幸せな気分になった。自然と笑みが溢れてくるのを感じる。
「聖女殿……?」
そんな私の様子を不審に思ったのかハルトが声をかけてきた。そこで私は慌てて表情を引き締めると口を開いた。
「何でもありません。」
そう言うとハルトは再び微笑んだ後、優しく頭を撫でてくれたのだった……
*****
「はぁ……」
溜息混じりに窓の外を眺めていると不意に声をかけられた。
「どうかしましたか?」
振り返るとそこにはハルトの姿があった。私は慌てて首を振ると笑顔で答えた。
「い、いえ! なんでもありません!」
するとハルトは首を傾げながらもそれ以上追及してくることはなかった。そのことにホッと胸を撫で下ろすと再び窓の外に視線を戻すのだった……
*****
聖女になってからの日々は本当に目まぐるしく過ぎていった。毎日のお祈りに加えて、神殿内の見回りや周辺地域の人々との交流などやることがたくさんあったからだ。しかしそんな慌ただしい日々の中で私は充実感を感じていた。何故なら……
「聖女様、ご機嫌ですね。」
神官の女の子に声をかけられて、私は思わず頬を赤らめた。
「そ、そうかな?」
私がそう答えると彼女は微笑みながら続けた。
「はい! なんだかとても幸せそうなお顔をされています!」
そう言われて私の顔はさらに赤く染まってしまうのだった……
*****
そんな忙しい日々の中でも私はハルトに会える時間を大切にしていた。彼と話しているだけで心が満たされていくような気がするからだ。
「聖女殿、最近は少し元気がないように見えるのだが何かあったのか?」
ハルトが心配そうな表情で尋ねてくる。私は慌てて首を横に振って答えた。
「い、いえ! なんでもありません!」
しかしハルトは私の言葉を全く信じていない様子だった。彼はさらに続ける。
「もし何かあるなら遠慮なく言ってくれ。俺は君の力になりたいんだ」
彼の言葉に胸が高鳴るのを感じた私は思わず黙り込んでしまった。するとハルトは小さく笑いながら言った。
「俺で良ければいつでも相談に乗るよ」
その言葉に私は小さく頷いた。そして思い切って口を開く。
「あの……実は……」
そこまで言いかけたところで我に返った私は慌てて口を噤んだ。
(私ったら何を言おうとしてたの!?)
そんなことを考えているとハルトが不思議そうな顔でこちらを見ていることに気づいた。
「聖女殿、どうかしたのか?」
彼は首を傾げながら尋ねてきた。私は誤魔化すように笑みを浮かべた後で答えた。
「いえ……何でもないんです……」
(言えないよ、だってあなたのことを考えてたなんて……)
心の中で葛藤していると、ふとある考えが頭に浮かんだ。
(そうだ! それならいっそ告白してみようかな?)
そう思った瞬間、胸がドキドキしてきたのがわかった。心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いているのがわかる。
(ああ……どうしよう……緊張してきたわ……)
私が悩んでいる間もハルトはこちらをジッと見つめていた。その視線を感じながら私は意を決して口を開いた。
「あ、あの……私……!」
しかしそこまで言ったところでハルトが突然咳き込んだかと思うと、その場に倒れ込んでしまった。
「ハルト様!?」
慌てて駆け寄ると彼は苦しそうに咳き込んでいた。その額に触れてみると、尋常ではない熱さを感じた。どうやら熱があるようだ。
(大変!)
そう思った私は急いで神官の女の子を呼びに行ったのだった……
*****
その後すぐに駆けつけた神官の女の子によって、ハルトは医務室へと運ばれた。その様子を見届けた後で私は自室に戻ることにした。
部屋に戻った後も不安な気持ちでいっぱいだったが、どうすることもできなかったので大人しく休むことにしたのだった……
*****
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