私、悪役令嬢でしたっけ?……あら、茶柱が立ちましたわ

にとこん。

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33話

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「……グレイ、それは、いったいどこから持ってこられましたの?」

シャルロットは穏やかに問いながら、黒猫が前足で押し出した布巻の包みを眺めていた。

朝の陽が射し込むレーヴェンロー邸の広間。  
窓辺には香りの強いローズマリーが活けられ、空気は落ち着いていた。

その空間の中心に、グレイが得意げな顔で佇み、爪先にそっと触れるようにして古びた巻物を押し出している。

「配達猫になったつもりかしら?」

微笑んで包みを開いたシャルロットの目に入ったのは、見覚えのある、だが明らかに異なる構造の神殿封印印だった。

「ロジーナを、お呼びいたしましょうね」

しばらくして現れたロジーナは、その包みを一目見て顔色を変えた。

「これ……神殿の写本よ、しかも……これは、聖典庫最奥の封印記録……!」

その言葉に、セバスティアンがすっと背筋を伸ばした。

「神殿が厳重に保管している“真の神託”……? なぜ、うちの猫が持ち帰ってきたのか、問いただすべきですな」

グレイは無言で耳をひくつかせ、また一度、巻物の端に触れた。  
それはまるで――“見てごらんなさい”と言わんばかりだった。

ロジーナは巻物を丁寧に開き、記述を読み進める。

「……予言選定記録。これは、最初に記された聖女の名を記録した文書よ。書き換えられる前の……」

その指が、ある一行で止まった。

呼吸が止まったような静寂が流れる。

「……うそ」

絞り出すように、ロジーナが言った。

「ここに……最初に選ばれた聖女の名が、あるわ……あなたの名前よ。シャルロット=ド=レーヴェンロー」

「まあ」

シャルロットは、驚くでもなく、ただ、紅茶のポットに目を移した。

「それは、なかなかに珍しいお届け物ですわね。お茶請けが必要かもしれませんわ」

「……あんた、本気で言ってる? これ、本当に……“あなたが選ばれていた”っていう証よ?」

「でも、そうでしたとしても。選ばれていない現実があったということは、それもまた意味のあることだったのではなくて?」

ロジーナは言葉を失った。

そのとき、セバスティアンが小声で告げた。

「……神殿内にて、封印写本の紛失騒ぎが起きているとの報が入りました」

「まさか、ここにあるとは思ってないでしょうね……」

「思いたくもないでしょうな」

神殿の記録官たちは、聖典庫の封印が一箇所だけ、猫の爪痕のように破られていたことをまだ受け止めきれずにいた。

ロジーナは巻物をもう一度見つめ、言葉を紡ぐ。

「これはもう、“偶然”じゃない。猫が運んだかどうかなんて、もはや問題じゃないの。……真実は、すでに姿を見せ始めてる」

シャルロットは小さく微笑みながら、茶を淹れ直した。

香りは、静かに広間を包む。  
その香りの中に――書き換えられた運命の記憶が、そっと広がり始めていた。
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