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第14話:嵐の後の静けさ、そして深まる絆
しおりを挟む嵐が去り、雪が止んだ夜明けだった。ディスパイアラーの本拠地だった場所は、もはや禍々しい気配を失い、静謐な輝きに満ちていた。朝焼けの光が、雪に覆われた世界を優しく照らし始める。夜の闇が徐々に薄れていくにつれて、空には淡いオレンジ色とピンク色が混じり合った、美しいグラデーションが広がっていた。辺りには、澄み切った冷たい空気が満ち、雪の匂いと、どこか清らかな土の香りが混じり合う。風は完全に止み、しんとした静けさが、全てを洗い流したかのように、世界を包み込んでいた。
「田中君…っ!」
麗華様の悲痛な叫び声が、まだ残響のように耳に残っていた。
俺は、ディスパイアラーの核を無力化し、意識が遠のきそうになる中で、麗華様の温かい腕に抱きしめられた。その瞬間、俺の意識は、再び鮮明になった。
(麗華様が、俺を抱きしめてくれた…! 生きてる! 生きてるぞ俺!)
核が消滅し、ディスパイアラーたちが光の粒子となって昇華していくのを見届けた後、麗華様は俺に駆け寄ってきてくれたのだ。
彼女の瞳には、止めどなく涙が溢れ出している。その涙は、俺の頬に温かく落ちた。
「田中君…本当に…本当にありがとう…」
麗華様の声は、震えていた。その言葉には、心底からの安堵と、深い愛情が宿っているのが、俺の脳内お花畑にもビンビン伝わってくる。
「麗華様が無事なら…俺は…!」
俺は、麗華様の温かい腕の中で、幸福に包まれていた。このまま時間が止まってしまえばいいのに。いや、止まったら麗華様も困るだろうから、ゆっくり流れてほしい。
(麗華様が俺のために泣いてる…! しかも、抱きしめてくれた! 天国!!)
俺の脳内お花畑は、もはや言葉にならないほどの歓喜で満たされていた。ディスパイアラーとの戦いなんて、どうでもよくなった。麗華様がいてくれる。それだけで、俺の人生は最高だ。
麗華様は、しばらく俺を抱きしめた後、そっと体を離した。その瞳は、まだ涙で濡れていたが、深い愛情と、感謝の光が宿っている。
「もう…大丈夫よ…」
麗華様の言葉は、静かに、しかし力強く響いた。
その直後、凛さんたちが俺たちの元に駆け寄ってきた。
「おい、新入り! 無事か!?」
剛田さんが、俺の肩をバシバシと叩いた。その手に、力がこもっている。
「田中君! 君の行動は…無茶だったわ!」
リリが、涙目で俺に文句を言ってくる。
静さんは、俺たちの傍らに、そっと座り込んだ。彼女の顔色は、まだ完璧ではないが、その瞳には、安堵の光が宿っている。
「…みんな、ありがとう」
静さんの口から、感謝の言葉が漏れた。
彼女は、ディスパイアラーが光の粒子となって昇華していく姿を、まざまざと目にしていた。彼らが、かつて人間であり、苦しみから逃れるために異形の存在になったこと。そして、その苦しみから解放され、安らかに消えていく姿。
それは、静さんの心に深く刻まれた「憎悪」と「罪悪感」を、少しだけ和らげてくれたようだった。
「みんな…みんな人間だったのね…苦しんでいたのね…」
静さんの瞳から、再び涙が溢れ出した。だが、それは悲しみの涙だけではなかった。どこか、許しと、安堵の涙のように見えた。
白石は、俺のアーティファクトをじっと見つめていた。
「…田中君のアーティファクトは、核から放出されたエネルギーを、完全に吸収している。そして、そのデータから、彼の『勘』が、実は高度な情報処理能力だったことが解析された」
白石の声には、驚愕の色が隠せない。
「彼は…ディスパイアラーのネットワークの『仕組み』を、無意識のうちに把握し、その弱点を突いた。これは、複雑なものの中から、最も単純な解決策を見出す、ある種の才能だ。我々の予測を、遥かに超えていた…!」
白石は、眼鏡のブリッジをクイッと上げ、俺をまじまじと見つめる。
「田中君は…一体、何者なんだ…?」
彼の言葉に、凛さんも、剛田さんも、リリも、皆、俺に驚きの視線を向けた。
俺は、「えへへ、勘です!」と照れ笑いするしかなかった。まさか、俺の脳内お花畑が、そんな凄い能力を発揮していたとは。麗華様のためなら、俺はどんなことでもできるのだ。俺自身も、麗華様への想いだけで、こんなことができるなんて、正直驚きだ。
秘密基地に戻ると、メンバーたちは、それぞれゆっくりと休養を取った。
静さんの顔色も、徐々に良くなってきた。彼女は、今も心を痛めているだろうが、ディスパイアラーに対する見方が、少しだけ変わったようだった。
凛さんも、以前のような張り詰めた空気は少し和らぎ、時折、俺と麗華様の様子を見て、フッと笑みをこぼすようになった。剛田さんは、相変わらずトレーニングに励んでいるが、その目には、仲間への信頼が以前より増しているのが見て取れた。リリも、またいつものギャル言葉に戻り、「マジありえないんだけど~!」と騒いでいる。
ディスパイアラーの脅威は一時的に去り、俺たちはそれぞれの日常に戻っていった。
俺と麗華様も、再び学校生活に戻った。
だが、俺たちの関係は、以前とは全く異なるものになっていた。
毎日、登下校も、休み時間も、放課後も、常に一緒に行動するようになった。それは、命を共有するコンダクターとしての義務でもあったが、麗華様は、俺が隣にいることを、以前よりも心地よく感じているようだった。
廊下を歩くたびに、麗華様の髪からふわりと甘い香りがして、俺は心の中で「ハァァァァン」と息を吸い込む。昼休みには、二人で屋上に行って、麗華様の手作り弁当を食べる。俺の弁当は、麗華様が作ってくれるようになったのだ! 天国!
周囲からは、俺と麗華様が、常に一緒にいるのを見て、「公認カップル」のように見られ始めるようになった。
「おおい、田中! 白鳥さんと、またデートか!?」
クラスメイトの男子が、ニヤニヤしながら声をかけてくる。
麗華様は、「デートじゃないわよ!」と頬を少し赤らめて否定するが、その表情はどこか嬉しそうだ。
俺は、「麗華様との共同任務だぜ!」と心の中で叫びながら、全力でニヤけていた。
(麗華様が、俺のこと大好きになってくれたー!)
麗華様の言葉や態度に、俺の脳内お花畑はさらに加速していく。
「俺、麗華様のためなら何でもできる!」
俺は、心の中で、力強く宣言した。
麗華様は、そんな俺の隣で、時折、複雑な表情を浮かべる。
太郎が、自分の命の恩人であるだけでなく、自分の心に平穏をもたらし、仲間たちを救ってくれたことに気づいたのだ。彼が持つ、どんな困難も乗り越える無垢な心。それが、絶望に沈む自分たちを救ってくれた。
(田中君…あなたは、私にとって、かけがえのない存在だわ)
これは、純粋な「愛」へと昇華した感情だった。麗華様にとって、太郎はもう、ただのクラスメイトではない。命を預け、心を委ねられる、唯一無二のパートナーだった。
穏やかな、しかし確かな温かさが、麗華様の心を満たしていた。
雪が解け、春の足音が聞こえ始めた頃。
俺と麗華様の絆は、誰もが認めるほどに深まっていた。
俺の脳内お花畑は、今日も明日も、満開だ。
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