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シーズン2 退屈な観測者と、論理を砕くバグ
第三話:論理との対決
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広間に響き渡る、無機質な宣戦布告。それを合図に、銀色の機械兵団が、まるで一体の巨大な金属生命体のように、一糸乱れぬ動きで俺たちに襲いかかってきた。その動きには、生物が持つ本能的な恐怖や躊躇、あるいは高揚といった感情の揺らぎが、一切存在しない。ただ、プログラムされた通りに、最も効率的に、敵対対象である俺たちを破壊するという目的のためだけに、冷たい鋼鉄の体が動いている。
戦いの火蓋は、切られた。だが、それはあまりにも一方的な、絶望的な展開だった。
「うおおおおおっ! セレブリアの女狐ども! この俺様の剣技に酔いしれな!」
ジンが、お得意のキザな決め台詞と共に、先陣を切って機械兵の一団へと突っ込む。彼の剣筋は、常人では目で追うことすら不可能な、まさに神速の域に達している。だが。
『――軌道予測、完了。最適迎撃パターン、算出』
玉座に座したまま、ロジカの赤い単眼が、不気味な光を明滅させた。 ジンの剣が機械兵の首を捉える、まさにその寸前。ジンの左右、そして背後にいた三体の機械兵が、まるで示し合わせたかのように、寸分の狂いもないタイミングで、同時にジンの死角へとその刃を滑り込ませた。
「なっ!?」
咄嗟に剣を引いて防御するジン。だが、その防御すらも予測されていたかのように、彼の体勢が崩れたその一点を狙い、別の兵士のレーザーが正確にその肩を撃ち抜いた。
「ぐあっ!?」
「ジンさん!」
倒れるジンを庇うように、アンジェラが前に出る。
「悪魔の手先め! 我が女神の正義の鉄槌を、その身に受けよ! 『聖罰』!」
天高く振り上げられたウォーハンマーが、凄まじい風切り音と共に、機械兵の頭上へと振り下ろされる。だが、その一撃が地面を砕く直前、機械兵はまるでスケートでもするかのように滑らかに後方へスライドし、完璧に攻撃を回避。がら空きになったアンジェラの胴体へ、強烈なカウンターの拳を叩き込んだ。
「ぬんっ!」という、カエルが潰れたような声を上げて吹き飛ぶアンジェラ。
完璧すぎる。こいつらの動きは、あまりにも完璧すぎる。まるで、未来でも見えているかのように、俺たちの次の一手を、そのさらに次の一手まで、全て読み切っている。
「師匠! 皆様! 私の魔法で援護いたします! いざ! 『ライトニング・ランス』!」
セレスティアの指先から放たれた数条の雷の槍が、轟音と共に広間を駆け巡る。だが、機械兵たちは、まるで雨の中を傘もささずに歩いているのに、一滴の雨粒にも濡れない人間のように、最小限の動きで、全ての雷撃をひらりひらりと躱していく。それどころか、一人が回避した雷撃が、その背後にいた別の機械兵に当たるように、巧みに誘導し、同士討ちのような形で魔法の威力を相殺させていた。
『対象:セレスティア。魔法詠唱パターン、解析完了。魔力収束地点及び着弾予測誤差、92.4%。脅威レベル、Dマイナスに下方修正』
ロジカの冷たい分析が、セレスティアの心を抉る。
「そ、そんな……。私の魔法が、ただの牽制にすらなっていないなんて……」
そう、俺たちは気づいてしまった。この戦いは、俺たちパーティと、機械兵の一団との戦いではない。俺たちパーティと、ロジカという、ただ一つの、巨大で、超高性能な演算装置との戦いなのだと。ロジカは、俺たち全員の動きを、癖を、思考パターンを、リアルタイムでスキャン、分析、予測し、その完璧な解答を、手足である機械兵たちに実行させているに過ぎないのだ。
俺は、ソフィアの祝福によって強化された身体能力で、なんとか攻撃を凌いではいるが、それだけだ。俺が右に動けば、右を塞がれ、左に跳べば、左に罠が待っている。このままでは、ジリ貧だ。スタミナが尽きた瞬間、俺たちは、一体の例外もなく、ここで「処理」されるだろう。
どうする。どうすれば、この完璧な予測を打ち破れる? 完璧な予測……。そうだ、予測。予測というのは、過去のデータと、論理に基づいている。ならば。
――論理で、予測できない動きをすれば、どうなる?
俺の脳裏に、これまでの旅路で、俺の頭を悩ませ続けてきた、仲間たちの、どうしようもなくポンコツで、非効率で、予測不能な行動の数々が、走馬灯のように駆け巡った。
そうだ。こいつらは、確かに、ポンコツだ。どうしようもない、バグだらけの集団だ。
――でも、だからこそ!
俺は、腹の底から、この絶望的な戦況を、心の底から楽しむように、叫んだ。
「サラさん! 右だ! 右翼の敵を一気に崩せ!」
俺の、司令塔としての、初めての明確な指示。それに、サラは、戦況を打開する英雄になったかのような、満面の笑みで、力強く応えた。
「任せろ、ユウキ! この私に、死角はない!」
彼女はそう叫ぶと、凄まじい勢いで、俺が指示した方向とは、寸分の狂いもなく、真逆の方向へと突進していった。
左翼にいた機械兵たちが、そのあまりに予想外の方向からの奇襲に、一瞬だけ、本当にコンマ数秒だけ、その反応が遅れた。
『――エラー。指示系統にノイズを確認。対象:サラの行動ベクトルが、予測モデルと180度乖離。再計算、実行』
ロジカの合成音声に、初めて、微かなノイズが混じった。その、ほんの一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。
「セレスティア! 広間の、ど真ん中! 天井の、一番でかいシャンデリアに向かって、ありったけの魔力で、氷の魔法をぶっ放せ!」
「え、ええ!? 師匠、本気ですか!? そんなことをしたら、ここが崩れて……」
「いいからやれ! 俺を信じろ!」
「わ、分かりました! やります、やりますから! 『ブリザード・ハンマー』!」
セレスティアが放った極大の氷塊は、もちろん、シャンデリアには当たらなかった。それは大きく軌道を逸れ、ロジカが座す玉座の、遥か後方の壁に激突し、凄まじい轟音と共に、塔の壁に巨大な風穴を穿った。
だが、その衝撃で、天井から吊るされていた巨大なシャンデリアが、ぐらりと大きく傾き、その固定具が、ミシミシと、悲鳴のような音を立て始めた。
『エラー:予測外の障害物、落下予測。危険区域、再設定。全機、回避行動に……』
ロジカの指示が、最後まで発せられることはなかった。なぜなら、そのシャンデリアは、落ちてこなかったからだ。
「リナ! ジンの旦那を助けに行け! 急げ!」
「う、うん! 分かった!」
斥候役のリナが、機械兵の猛攻に苦しむジンの元へと、俊敏な動きで駆け出す。だが、彼女は、その驚異的なドジスキルを、この土壇場でも、完璧に、寸分の狂いもなく発動させた。何もないはずの床で、見事に自分の足をもつれさせ、漫画のように派手な音を立てて、顔面から床に滑り込んだのだ。
その、あまりに初歩的で、あまりに非効率で、あまりに無駄な動き。それは、ロジカの、高度に計算され尽くした回避予測アルゴリズムの、完全なる盲点だった。
リナを回避するために、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、体勢を崩した機械兵。その隙を、ジンは見逃さなかった。
「もらったぜ、この鉄クズがぁ!」
閃光のような一撃が、機械兵の胴体を、綺麗に両断した。
『エラー。エラー。エラー。なぜだ……。なぜ、予測できない? こんな、非効率で、無駄で、ランダムで、バグだらけの動き! これでは、計算リソースが……! 理解不能、理解不能、理解不能!』
ロジカの合成音声が、明らかに乱れ始めている。その赤い単眼が、高速で、狂ったように明滅を繰り返す。完璧だったはずの機械の軍団の動きが、ほんの少しずつ、ぎこちなくなっていく。
そうだ。これが、俺たちの戦い方だ。 俺たちは、完璧じゃない。欠点だらけで、どうしようもないポンコツの集まりだ。だが、だからこそ、お前のような、完璧な論理だけの存在には、絶対に、予測できない!
戦況は、逆転した。 俺たちの、予測不能なカオスな連携が、ロジカの完璧な論理を、少しずつ、しかし確実に、蝕んでいく。やがて、追い詰められたロジカは、その怒りにも似た演算結果を、一つの行動へと集約させた。
体勢を崩していたアンジェラの、その目の前へと、ロジカ自身が、瞬間移動に近いほどの速度で移動した。
「――故障した部品は、廃棄します」
その、氷のように冷たい宣告と共に、ロジカの機械のアームが、アンジェラの愛用する巨大なウォーハンマーを、いとも容易く、手元から弾き飛ばした。重い鉄塊が、カランと虚しい音を立てて床を滑っていく。そして、無防備になった彼女の体に、無慈悲な追撃を加えようと、その鋼鉄の拳を、大きく振りかぶった。
その、光景を、見た、瞬間。
俺の中で、何かが、ぷっつりと、切れる、音がした。
思考が、真っ白に、なる。違う。真っ白になった思考が、次の瞬間には、灼熱の、マグマのような、真っ赤な、怒りに、染まって、いく。
仲間を。俺の、かけがえのない、どうしようもない、ポンコツな仲間を。
――部品、だと?
「俺の仲間を……部品だと言ったのか……?」
自分でも、信じられないほど、低く、冷たい声が、俺の口から、漏れた。
「ふざけるなあああああああああああああああああああああああっ!!!!」
魂からの、絶叫。 その、一点の曇りもない、純粋な怒りの奔流に、俺の隣にいたソフィアの、女神としての魂が、根源から、共鳴した。彼女の全身から、これまでとは比較にならないほどの、眩いばかりの黄金の神気が、光の奔流となって、俺の全身へと、注ぎ込まれる。
俺の体から、黄金のオーラが、後光のように迸った。
「単純な、直線軌道。迎撃、確率、100%」
ロジカが、俺の突撃を、冷静に、分析する。そして、その軌道上に、完璧なタイミングで、カウンターの刃を、突き出した。
だが、その刃が、俺の体に、触れることは、なかった。
俺の、聖剣が、ロジカの、分厚い装甲に、触れた、瞬間。
『――警告。警告。解析不能な、エネルギーパターンを、検出』
ロジカの、システム内部に、けたたましい、アラート音が、鳴り響く。
『カテゴリー:論理。カテゴリー:怒り。カテゴリー:愛。カテゴリー:絆? 矛盾したデータが、システム中枢に、流入。論理回路、臨界点、突破。理解、不能。理解、不能。理解、フノウ……』
『システム、ダウン』
俺の、仲間を想う、ただ、それだけの、不合理で、非効率で、何の生産性もない、純粋な「想い」の力が。 ロジカの、完璧だったはずの、論理回路を、根元から、焼き切った。
黄金の光をまとった俺の剣が、まるで熱したナイフがバターを切り裂くように、ロジカの装甲を貫き、その中枢にある、動力炉(コア)を、正確に、貫いた。
時間は、止まったように、感じられた。 やがて、ロジカは、その赤い単眼の光を、弱々しく、揺らめかせながら、静かに、本当に静かに、呟いた。
「理解、したかった……。感情、とは……、何、か……」
それが、彼の、最期の言葉だった。 次の瞬間、ロジカの体は、凄まじい光と共に、大爆発を起こし、その破片は、光の粒子となって、跡形もなく、消え去った。
――いや、跡形もなく、ではなかった。
カラン、と。
静まり返った広間の床に、乾いた音を立てて落ちたものがあった。それは、焼け焦げたような跡が残る、手のひらサイズの黒いプレート――データチップだった。
俺はそれを拾い上げ、静かに握りしめた。これが、彼が遺した、最初で最後の「答え」なのかもしれない。
戦いの火蓋は、切られた。だが、それはあまりにも一方的な、絶望的な展開だった。
「うおおおおおっ! セレブリアの女狐ども! この俺様の剣技に酔いしれな!」
ジンが、お得意のキザな決め台詞と共に、先陣を切って機械兵の一団へと突っ込む。彼の剣筋は、常人では目で追うことすら不可能な、まさに神速の域に達している。だが。
『――軌道予測、完了。最適迎撃パターン、算出』
玉座に座したまま、ロジカの赤い単眼が、不気味な光を明滅させた。 ジンの剣が機械兵の首を捉える、まさにその寸前。ジンの左右、そして背後にいた三体の機械兵が、まるで示し合わせたかのように、寸分の狂いもないタイミングで、同時にジンの死角へとその刃を滑り込ませた。
「なっ!?」
咄嗟に剣を引いて防御するジン。だが、その防御すらも予測されていたかのように、彼の体勢が崩れたその一点を狙い、別の兵士のレーザーが正確にその肩を撃ち抜いた。
「ぐあっ!?」
「ジンさん!」
倒れるジンを庇うように、アンジェラが前に出る。
「悪魔の手先め! 我が女神の正義の鉄槌を、その身に受けよ! 『聖罰』!」
天高く振り上げられたウォーハンマーが、凄まじい風切り音と共に、機械兵の頭上へと振り下ろされる。だが、その一撃が地面を砕く直前、機械兵はまるでスケートでもするかのように滑らかに後方へスライドし、完璧に攻撃を回避。がら空きになったアンジェラの胴体へ、強烈なカウンターの拳を叩き込んだ。
「ぬんっ!」という、カエルが潰れたような声を上げて吹き飛ぶアンジェラ。
完璧すぎる。こいつらの動きは、あまりにも完璧すぎる。まるで、未来でも見えているかのように、俺たちの次の一手を、そのさらに次の一手まで、全て読み切っている。
「師匠! 皆様! 私の魔法で援護いたします! いざ! 『ライトニング・ランス』!」
セレスティアの指先から放たれた数条の雷の槍が、轟音と共に広間を駆け巡る。だが、機械兵たちは、まるで雨の中を傘もささずに歩いているのに、一滴の雨粒にも濡れない人間のように、最小限の動きで、全ての雷撃をひらりひらりと躱していく。それどころか、一人が回避した雷撃が、その背後にいた別の機械兵に当たるように、巧みに誘導し、同士討ちのような形で魔法の威力を相殺させていた。
『対象:セレスティア。魔法詠唱パターン、解析完了。魔力収束地点及び着弾予測誤差、92.4%。脅威レベル、Dマイナスに下方修正』
ロジカの冷たい分析が、セレスティアの心を抉る。
「そ、そんな……。私の魔法が、ただの牽制にすらなっていないなんて……」
そう、俺たちは気づいてしまった。この戦いは、俺たちパーティと、機械兵の一団との戦いではない。俺たちパーティと、ロジカという、ただ一つの、巨大で、超高性能な演算装置との戦いなのだと。ロジカは、俺たち全員の動きを、癖を、思考パターンを、リアルタイムでスキャン、分析、予測し、その完璧な解答を、手足である機械兵たちに実行させているに過ぎないのだ。
俺は、ソフィアの祝福によって強化された身体能力で、なんとか攻撃を凌いではいるが、それだけだ。俺が右に動けば、右を塞がれ、左に跳べば、左に罠が待っている。このままでは、ジリ貧だ。スタミナが尽きた瞬間、俺たちは、一体の例外もなく、ここで「処理」されるだろう。
どうする。どうすれば、この完璧な予測を打ち破れる? 完璧な予測……。そうだ、予測。予測というのは、過去のデータと、論理に基づいている。ならば。
――論理で、予測できない動きをすれば、どうなる?
俺の脳裏に、これまでの旅路で、俺の頭を悩ませ続けてきた、仲間たちの、どうしようもなくポンコツで、非効率で、予測不能な行動の数々が、走馬灯のように駆け巡った。
そうだ。こいつらは、確かに、ポンコツだ。どうしようもない、バグだらけの集団だ。
――でも、だからこそ!
俺は、腹の底から、この絶望的な戦況を、心の底から楽しむように、叫んだ。
「サラさん! 右だ! 右翼の敵を一気に崩せ!」
俺の、司令塔としての、初めての明確な指示。それに、サラは、戦況を打開する英雄になったかのような、満面の笑みで、力強く応えた。
「任せろ、ユウキ! この私に、死角はない!」
彼女はそう叫ぶと、凄まじい勢いで、俺が指示した方向とは、寸分の狂いもなく、真逆の方向へと突進していった。
左翼にいた機械兵たちが、そのあまりに予想外の方向からの奇襲に、一瞬だけ、本当にコンマ数秒だけ、その反応が遅れた。
『――エラー。指示系統にノイズを確認。対象:サラの行動ベクトルが、予測モデルと180度乖離。再計算、実行』
ロジカの合成音声に、初めて、微かなノイズが混じった。その、ほんの一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。
「セレスティア! 広間の、ど真ん中! 天井の、一番でかいシャンデリアに向かって、ありったけの魔力で、氷の魔法をぶっ放せ!」
「え、ええ!? 師匠、本気ですか!? そんなことをしたら、ここが崩れて……」
「いいからやれ! 俺を信じろ!」
「わ、分かりました! やります、やりますから! 『ブリザード・ハンマー』!」
セレスティアが放った極大の氷塊は、もちろん、シャンデリアには当たらなかった。それは大きく軌道を逸れ、ロジカが座す玉座の、遥か後方の壁に激突し、凄まじい轟音と共に、塔の壁に巨大な風穴を穿った。
だが、その衝撃で、天井から吊るされていた巨大なシャンデリアが、ぐらりと大きく傾き、その固定具が、ミシミシと、悲鳴のような音を立て始めた。
『エラー:予測外の障害物、落下予測。危険区域、再設定。全機、回避行動に……』
ロジカの指示が、最後まで発せられることはなかった。なぜなら、そのシャンデリアは、落ちてこなかったからだ。
「リナ! ジンの旦那を助けに行け! 急げ!」
「う、うん! 分かった!」
斥候役のリナが、機械兵の猛攻に苦しむジンの元へと、俊敏な動きで駆け出す。だが、彼女は、その驚異的なドジスキルを、この土壇場でも、完璧に、寸分の狂いもなく発動させた。何もないはずの床で、見事に自分の足をもつれさせ、漫画のように派手な音を立てて、顔面から床に滑り込んだのだ。
その、あまりに初歩的で、あまりに非効率で、あまりに無駄な動き。それは、ロジカの、高度に計算され尽くした回避予測アルゴリズムの、完全なる盲点だった。
リナを回避するために、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、体勢を崩した機械兵。その隙を、ジンは見逃さなかった。
「もらったぜ、この鉄クズがぁ!」
閃光のような一撃が、機械兵の胴体を、綺麗に両断した。
『エラー。エラー。エラー。なぜだ……。なぜ、予測できない? こんな、非効率で、無駄で、ランダムで、バグだらけの動き! これでは、計算リソースが……! 理解不能、理解不能、理解不能!』
ロジカの合成音声が、明らかに乱れ始めている。その赤い単眼が、高速で、狂ったように明滅を繰り返す。完璧だったはずの機械の軍団の動きが、ほんの少しずつ、ぎこちなくなっていく。
そうだ。これが、俺たちの戦い方だ。 俺たちは、完璧じゃない。欠点だらけで、どうしようもないポンコツの集まりだ。だが、だからこそ、お前のような、完璧な論理だけの存在には、絶対に、予測できない!
戦況は、逆転した。 俺たちの、予測不能なカオスな連携が、ロジカの完璧な論理を、少しずつ、しかし確実に、蝕んでいく。やがて、追い詰められたロジカは、その怒りにも似た演算結果を、一つの行動へと集約させた。
体勢を崩していたアンジェラの、その目の前へと、ロジカ自身が、瞬間移動に近いほどの速度で移動した。
「――故障した部品は、廃棄します」
その、氷のように冷たい宣告と共に、ロジカの機械のアームが、アンジェラの愛用する巨大なウォーハンマーを、いとも容易く、手元から弾き飛ばした。重い鉄塊が、カランと虚しい音を立てて床を滑っていく。そして、無防備になった彼女の体に、無慈悲な追撃を加えようと、その鋼鉄の拳を、大きく振りかぶった。
その、光景を、見た、瞬間。
俺の中で、何かが、ぷっつりと、切れる、音がした。
思考が、真っ白に、なる。違う。真っ白になった思考が、次の瞬間には、灼熱の、マグマのような、真っ赤な、怒りに、染まって、いく。
仲間を。俺の、かけがえのない、どうしようもない、ポンコツな仲間を。
――部品、だと?
「俺の仲間を……部品だと言ったのか……?」
自分でも、信じられないほど、低く、冷たい声が、俺の口から、漏れた。
「ふざけるなあああああああああああああああああああああああっ!!!!」
魂からの、絶叫。 その、一点の曇りもない、純粋な怒りの奔流に、俺の隣にいたソフィアの、女神としての魂が、根源から、共鳴した。彼女の全身から、これまでとは比較にならないほどの、眩いばかりの黄金の神気が、光の奔流となって、俺の全身へと、注ぎ込まれる。
俺の体から、黄金のオーラが、後光のように迸った。
「単純な、直線軌道。迎撃、確率、100%」
ロジカが、俺の突撃を、冷静に、分析する。そして、その軌道上に、完璧なタイミングで、カウンターの刃を、突き出した。
だが、その刃が、俺の体に、触れることは、なかった。
俺の、聖剣が、ロジカの、分厚い装甲に、触れた、瞬間。
『――警告。警告。解析不能な、エネルギーパターンを、検出』
ロジカの、システム内部に、けたたましい、アラート音が、鳴り響く。
『カテゴリー:論理。カテゴリー:怒り。カテゴリー:愛。カテゴリー:絆? 矛盾したデータが、システム中枢に、流入。論理回路、臨界点、突破。理解、不能。理解、不能。理解、フノウ……』
『システム、ダウン』
俺の、仲間を想う、ただ、それだけの、不合理で、非効率で、何の生産性もない、純粋な「想い」の力が。 ロジカの、完璧だったはずの、論理回路を、根元から、焼き切った。
黄金の光をまとった俺の剣が、まるで熱したナイフがバターを切り裂くように、ロジカの装甲を貫き、その中枢にある、動力炉(コア)を、正確に、貫いた。
時間は、止まったように、感じられた。 やがて、ロジカは、その赤い単眼の光を、弱々しく、揺らめかせながら、静かに、本当に静かに、呟いた。
「理解、したかった……。感情、とは……、何、か……」
それが、彼の、最期の言葉だった。 次の瞬間、ロジカの体は、凄まじい光と共に、大爆発を起こし、その破片は、光の粒子となって、跡形もなく、消え去った。
――いや、跡形もなく、ではなかった。
カラン、と。
静まり返った広間の床に、乾いた音を立てて落ちたものがあった。それは、焼け焦げたような跡が残る、手のひらサイズの黒いプレート――データチップだった。
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「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
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