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第3話 寺に響くレクイエムと古文書の謎
しおりを挟む翌朝、俺、佐藤健太は、一枚の板になった。
いや、正確に言えば、ベッドの上で化石になりかけていた。昨日の初任務で、普段は使わない筋肉たちが、示し合わせたかのように一斉蜂起し、俺の体に対して「労働環境の改善を要求する!」と大規模なストライキを起こしているのだ。寝返りを打とうものなら、全身の関節という関節が「ギギギ…」「ゴゴゴ…」と、まるで錆びついたブリキの人形のような悲鳴を上げた。
「くっ…これが…時給五十万の代償…!」
俺は、ゾンビ映画のエキストラばりのぎこちない動きでなんとか体を起こし、壁に手をつきながらリビングへと向かった。窓から差し込む六月下旬の朝日は、やけに爽やかだ。空気中を漂う微細な埃が、光の筋の中でキラキラと舞っている。平和な朝。しかし、俺の体は昨日、電子の海で生パスタと死闘を繰り広げた戦場だった。このギャップに、思わず遠い目をしてしまう。
這うようにして事務所にたどり着くと、そこにはすでにいつものメンバーが揃っていた。
「お、来たか新人。見ろ、この無様な歩き方。生まれたての小鹿かよ」
ソファでスポーツ新聞を読んでいた姫川さんが、俺を見てゲラゲラと笑う。彼女は昨日、あれだけ動いたというのに、ケロッとしている。戦闘民族か何かか。
「…おはよう、ございます…」
俺の声は、カエルの潰れたような音になった。
「おはよう、佐藤くん」
キッチンでお茶を淹れていた鬼頭さんが、湯気の立つマグカップを俺に手渡してくれた。その温かさが、ガチガチに固まった筋肉にじんわりと染み渡る。この人、熊みたいだけど、こういう優しさが沁みるんだよな。だからこそ、その笑顔の裏にあるという面倒くさそうな過去には、絶対に関わりたくない。
俺がソファに沈み込んでいると、奥のオペレーションルームから、周防さんがすっと現れた。彼女は俺の前に一枚のタブレットを置くと、感情の読めない声で言った。
「佐藤さん。昨日の任務報告書、作成をお願いします。詳細かつ客観的な事実に基づき、今日の正午までに提出してください」
「はあ!? 報告書!?」
「当然です。我々の仕事は、依頼を完遂して終わりではありません。データを収集し、分析し、未来の活動に繋げる。そこまでがワンセットです。さあ、どうぞ」
タブレットに表示されたのは、いかにもお役所が作りそうな、クソ堅苦しいフォーマットの報告書だった。
俺は、絶望的な気分で入力を始めた。
【エクトの形状・特徴】…『茹ですぎてふやけたスパゲッティ、あるいはミミズ。うにょうにょと蠢き、大変気色悪い』
【捕獲時の反応】…『「ぴぎゃあ」という断末魔の悲鳴を上げる。意外とかわいい』
【特記事項】…『親玉はアルデンテには程遠い、きしめん状の群体だった』
「……佐藤さん」
背後から、周防さんの絶対零度の声がした。
「ふざけているのですか? これは公式な記録文章です。あなたの小学生レベルの感想文を提出する場所ではありません。『非晶質の管状形態を持つ浮遊性エネルギー体』、『周波数干渉に対し、高音域のノイズを発して抵抗』、そのように、客観的な言語で記述しなさい。やり直し」
「ひいっ!」
俺は、周防さんの無表情な圧力のもと、何度も報告書の書き直しを命じられた。筋肉痛の体で、慣れない科学用語と格闘する。もはや拷問だ。時給五十万には、精神的苦痛に対する慰謝料も含まれているに違いない。
そんな地獄のような時間が一時間ほど続いた頃だろうか。事務所のドアが、コンコン、と控えめにノックされた。
「はい」と鬼頭さんが応じると、ドアがゆっくりと開き、一人の老人が姿を現した。年の頃は七十代だろうか。綺麗に剃られた頭に、穏やかな目元。しかし、その背筋はすっと伸びており、年の功だけでは説明できない、凛とした空気をまとっていた。
「突然の訪問、失礼いたします。わたくし、緑町の土地の件でご連絡いたしました、長徳山 功徳院の住職、田中と申します」
その穏やかな声を聞いて、俺はピンときた。昨日のアラートのクライアントだ。
「おお、田中様でしたか。わざわざご足労いただき、恐縮です」
鬼頭さんが、慌てて立ち上がり、住職をソファへと案内した。
「いえいえ。昨日、あなたがたが設置してくださった観測装置から、異常を知らせる連絡をいただきましてな。あの廃工場の土地は、もともと寺の所有地でして。近々取り壊す予定だったものですから、気になっておりました」
「ええ。小規模なエクトの集積が確認されましたが、危険なレベルではありません。後ほど、我々で処理しておきますので、ご安心を」
「それは、ありがとうございます。…して、実は、今日お伺いしたのは、その件とは別にご相談したいことがありましてな」
田中住職は、そう言うと、少し表情を曇らせた。
「わたくしの寺…功徳院で、ですな。ここ数ヶ月、夜な夜な、本堂から奇妙な音が聞こえるのです。唸り声のような、地響きのような…。檀家さんたちも怖がっておりまして。もしや、これも『エクト』とやらに関係があるのではないかと…」
またエクトか…。俺の脳裏に、昨日のスパゲッティ地獄が蘇り、全身の筋肉が抗議の悲鳴を上げた。もうパスタは当分見たくない。
だが、鬼頭さんの反応は違った。彼は、じっと住職の目を見つめると、静かに言った。
「…分かりました。そのお話、詳しくお聞かせいただけますか」
その真剣な表情に、俺は、これがただの筋肉痛では済まない、新たな面倒ごとの始まりであることを、嫌というほど予感させられたのだった。
***
川口市安行にある長徳山 功徳院は、周囲を真新しい住宅街に囲まれながらも、そこだけが時を止めたかのような、荘厳な空気を漂わせていた。
タクシーを降り、巨大な山門をくぐった瞬間、空気が変わったのを肌で感じた。街の喧騒が嘘のように遠のき、代わりに、しん、と澄み渡った静寂が俺たちを包み込む。ひんやりとした風が、木々の葉を揺らす音と、どこからか聞こえる鳥のさえずりだけが、その静寂に彩りを添えていた。
「この静けさ…Wi-Fiの電波も届いてなさそうだな…」
俺がボソッと呟くと、隣を歩いていた姫川さんに「当たり前だろ、馬鹿」と頭をはたかれた。痛い。筋肉痛に響く。
境内は、見事なまでに手入れが行き届いていた。敷き詰められた玉砂利は、歩くたびに「ざっ、ざっ」と心地よい音を立てる。道の両脇には、苔むした石灯籠が並び、その緑のビロードのような質感は、長い年月の経過を物語っていた。季節を彩る紫陽花が、雨上がりの雫をきらめかせながら、青や紫の鮮やかな花を咲かせている。風に乗って、微かに線香の香りと、湿った土や草いきれの匂いが鼻腔をくすぐった。神聖、という言葉が、これほど似合う場所もそうそうないだろう。
だが、俺の不謹慎な脳みそは「この石灯籠、絶対夜中に位置が変わるタイプだ」とか「池で泳いでる鯉、目が全然笑ってない。絶対何か知ってる」とか、どうでもいいことを考えていた。
「こちらが、問題の本堂です」
田中住職に案内された本堂は、巨大な入母屋造りの屋根が、天を覆うかのような威圧感を放っていた。使い込まれて黒光りする太い柱、精緻な彫刻が施された欄間。建物そのものが、まるで一つの巨大な生命体のように、静かに呼吸しているかのようだ。
俺たちは、住職に促されて本堂に上がり、調査を開始した。
「どうだ、佐藤。何か見えるか?」
鬼頭さんの言葉に、俺はスペクターゴーグルを装着した。
視界が、いつものように情報過多の非日常風景に切り替わる。本堂の中は、長い年月の間に人々が捧げた祈りや想いがエネルギーとして残留しているのか、全体が穏やかな黄金色の光に満ちていた。
「いえ…特に異常な反応はありません。昨日のスパゲッティみたいな、明確なエクトの姿は見えないです」
「そうか…」
俺は、ゴーグルをつけたまま、本堂の中を歩き回った。巨大な仏像、年季の入った木魚、そして、本堂の隅に鎮座する、巨大な梵鐘。どれもが、穏やかで強いオーラを放っている。
だが、エクトの姿はどこにもない。
しかし、何か妙だった。何か、空間全体が、僅かに、本当に僅かにだが、水中の陽炎のように「歪んで」見えるのだ。映像のピントが、ほんの少しだけ合っていないような、奇妙な違和感。
「鬼頭さん。エクトはいませんけど、なんか、空間全体が揺らいで見えるっていうか…気持ち悪いです」
「空間の歪み…か」鬼頭さんが、顎に手を当てて考え込む。「犬飼、お前はどうだ?」
「…はい。聞こえます」
それまで黙っていた犬飼さんが、初めて口を開いた。
「まだ、とても小さいですが…この土地全体が、低い周波数で『鳴って』います。まるで、巨大な弦楽器のようです」
土地が、鳴っている?
俺には、何のことだかさっぱり分からなかった。
***
結局、昼間の調査では、決定的な原因は掴めなかった。
俺たちは、一旦事務所に戻ることも考えたが、田中住職の「よろしければ、簡単な夕食でも」というありがたい申し出に、鬼頭さんが即答で「いただきます」と答えたため、そのまま寺に残ることになった。
そして、夜。
太陽が西の稜線に沈み、境内が深い藍色の闇に包まれると、寺の雰囲気は昼間とは一変した。虫の声が、まるで黒いビロードの闇に縫い付けられた音の宝石のように、りんりんと響き渡っている。風が木々の梢を揺らす音が、昼間よりもずっと大きく、何か得体の知れないものの息遣いのようにも聞こえた。
俺たちは、本堂の縁側に座り、その「時」が来るのを、息を殺して待っていた。
やがて、腕時計の針が、夜の十時を指した、その時だった。
——ヴゥゥゥゥンンンンン………。
来た。
それは、確かに音だった。しかし、耳で聞いている、という感覚とは少し違う。腹の底に、頭蓋骨の内側に、直接響いてくるような、不快な振動。唸り声のようでもあり、巨大な機械が立てる地響きのようでもあった。
周波数が低すぎて、音として認識できない。だが、体は確実にその振動を捉えている。三半規管が、まるで巨大なミキサーに放り込まれたかのように、ぐわんぐわんと揺さぶられる感覚。吐き気がする。
「うっ…気持ち悪ぃ…」
俺が呻くと、隣にいた姫川さんも、顔をしかめてこめかみを押さえている。
『皆さん、聞こえますか』インカムから、事務所で待機している周防さんの声がした。『周波数分析、完了しました。やはり、インフラサウンドです。18.2ヘルツ。人間の可聴領域を、わずかに下回る、極めて強力な超低周波音です。長時間暴露されると、不安感、幻聴、そして内臓機能への悪影響も懸念されます』
「原因はなんだ!」鬼頭さんが叫ぶ。
『このお寺の地下にある、特殊な地質構造…おそらく、石灰岩質の層にできた広大な空洞が、第一の原因です。そして、特定の気圧と湿度の条件下で、その空洞と、本堂の建物自体、特にあの巨大な梵鐘の持つ固有振動数が、完全に共振…共鳴現象を起こしています。お寺全体が、一つの巨大なスピーカーになっている状態です』
科学的な説明を聞いても、この不快感は少しも和らがない。
つまり、幽霊の唸り声ではなく、土地と建物が奏でる、呪いのコンサートだったというわけか。
***
「原因が分かれば、対策は簡単だ」
鬼頭さんが言った。
「犬飼、やれるか?」
「…はい。問題ありません」
犬飼さんは、持参した機材ケースを開けると、中から金属製の杭のようなものを数本取り出した。
「『アクティブ・ノイズ・キャンセラー』です。問題の共振周波数と、全く逆位相の周波数を発生させ、音波を相殺します」
彼は、まるで熟練の庭師が木を植えるかのように、計算され尽くした位置の地面に、その杭を次々と打ち込んでいく。その動きに、一切の無駄がない。
そして、最後の杭を打ち込み、彼が腕時計型の端末を操作した、その瞬間。
すぅっ…と、あの不快な振動が、嘘のように消え去った。
嵐が過ぎ去ったかのような、完全な静寂。さっきまで俺の頭蓋骨を揺さぶっていた不快な圧力から解放され、俺は大きく息を吐いた。
「おお…! 止まった…! 音が、止まりましたぞ…!」
田中住職が、感動したように声を上げた。
「お見事です…。長年、我々を悩ませてきたモノノケの正体が、まさかこのような形で解明されるとは…」
住職は、深く頭を下げると、本堂の奥から、桐の箱に収められた、一冊の古い和綴じの書物を持ってきた。
「これは、当寺に代々伝わる古文書です。実は、この中にも、今回の現象に関する記述がありましてな」
彼が指し示したページには、達筆な崩し字で、こう書かれていた。
『土地唸り、人の心を惑わすモノノケ出づる時、庭の北東にある『鎮めの石』の傍らに、清めたる五つの小石を円に置くべし。然らば、モノノケは静まり、安寧訪れん』
「わたくしは、この『モノノケ』の正体を、長年知りたいと思っておりました。そして、古文書が示す『五つの小石を置く場所』。それが、まさに、あなたがたが先ほど杭を打った場所と、ほぼ一致するのです」
住職の言葉に、俺たちは息を呑んだ。
「古の人々は、科学的な知識はなくとも、経験則で、この共振現象を理解していたのでしょう。そして、石を置くという、ごく僅かな質量の変化で、共振点を微妙にずらし、音を鎮めていたのです。…わたくしは、古の知恵と、あなたがたの持つ最新の科学、その両方に、深い感銘を受けました。もし、よろしければ…この老いぼれの知識が、何かの役に立つのであれば、ぜひ、あなたがたの活動に協力させてはくれまいか」
こうして、ATSに、最強の知識を持つ顧問が誕生した瞬間だった。
帰り道、俺はタクシーの窓にもたれかかりながら、ぼんやりと考えていた。
「結局、今日はエクトは出ませんでしたね。筋肉痛だけで済んで、よかったー」
俺が安堵の声を漏らすと、助手席に座っていた鬼頭さんが、バックミラー越しに、鋭い目で俺を見た。
「いや…そうでもない」
「え?」
「妙だ。あの土地、確かによく鳴る土地だ。だが、それだけじゃない。何か…もっと巨大で、強力な周波数の存在を、無理やり『抑え込んでいる』ような、奇妙な『蓋』の感覚があった。今日のインフラサウンドは、その蓋が軋む音だったのかもしれん…」
鬼頭さんの意味深な言葉に、俺の背筋を、インフラサウンドとはまた別の、冷たい悪寒が走り抜けていった。
どうやら俺は、この仕事の面倒くささを、まだほんの入り口しか、知らなかったらしい。
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