魔法少女 ミルティ=クラウゼ

桜雨ゆか

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【おまけ話】4の合同任務の裏側で起きてたこと

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 旧市街の外れ。風が通らない崩れかけた建造物の上で、ノクスはひとり、視線を向けていた。

 瓦礫の広場。
 白い閃光が駆ける。魔法少女の攻撃魔法だ。
 次いで黒い影が舞う。長身の男が、跳躍とともに暴走魔導機の装甲を蹴り砕いた。
 ふたりの呼吸は合っていた。
 声は交わしていないのに、位置取りも、攻撃のタイミングも、まるで打ち合わせでもしたかのように。

 ――面白くない。

 ノクスは小さく舌打ちをし、壁に指を這わせた。
 ざらついた感触が、ひどく煩わしい。

(あいつ……。暗刃会か……)

 黒い装束をまとった男――たしか、名はキザシだったはず。直接関わったことはないが、その名前は何度か聞いたことがあった。
 視線の先、彼女――魔法少ミルティ=クラウゼはそいつと肩を並べて戦っている。そのことを考えるだけで、 舌の奥に鉄の味が広がる気がした。

「…………」

 戦うミルティの顔は、真剣で、凛としていて――。そして、時おり見せる、あの男への小さな微笑。

(……なに、その顔)

 ノクスの指が、石壁にめり込む。
 微かな魔力が滲んで、壁の表面を焼いた。

 ノクスは今、戦いを見守っているわけではない。
 ただ『見ているだけ』だ。
 彼の指先は動かない。
 たとえ、そこに異形が現れようと。たとえ、ミルティが魔法少女として危うい立場になろうと。
 それは『彼の仕事』ではないのだ。

 怪人ノクス。
 彼には彼の『役割』がある。
 秩序を乱す存在であること。
 混乱を撒く存在であること。
 正義に与する者を助けるなど、論外だった。
 ――その相手が、誰であっても。




 戦いはあっけなかった。
 暴走魔導機は、白輝会と暗刃会の合同によって完全に無力化された。
 最後にコアを砕いたのはキザシだった。
 その手際のよさに、ミルティが小さく笑って何かを口にした。
 声までは届かないが、口の動きだけで分かる。

 ――さすがですね。

 その言葉を、ノクスの脳内が忠実に再生した。
 瞬間、吐き気にも似た熱が、喉の奥から湧き上がる。

(さすが、ね。……なにが?)

 ノクスの碧い目が、すっと細められる。
 ミルティが笑っている。自分以外の男の隣を歩いている。
 崩れた旧市街の夕焼け道を、ふたりで、帰っていく。
 彼女と敵対する組織に属する自分には決して出来ないこと。

「――……っ」

 ノクスは息を吸った。
 そして、ゆっくりと右手を持ち上げる。
 手のひらの中央に、微細な呪紋が浮かんだ。
 指先でなぞるようにして紋を撫で、ぽつりと呟く。

「……起きていいぞ。残りカス」

 遠く、瓦礫の影が蠢いた。
 さきほどの魔導機からこぼれ落ちた呪素が、微かに形を帯び始める。
 かろうじての知性もない、最下級の異形。
 名を――魔導人・穢れ残渣。
 ただのノイズ、ただの残り滓。
 それでも、誰かに牙を剥くくらいの衝動はある。
 ノクスは足を組み替えながら、ゆっくりと身を起こした。
 街に戻っていくミルティの後ろ姿を、じっと見つめながら。


「……少し困らせるくらい、いいよね?」

 誰にも届かない独白だった。
 言い訳のような、呪いのような。

「君には造作もない相手だ」

 指をひと振り。呪素が解け、影が瓦礫を抜け出した。
 よろよろと歩き出す不定形の異形が、夕闇にまぎれてふたりの背中を追っていく。
 ノクスの口元が、ゆっくりと吊り上がる。
 笑っている。だがその目には、一切の愉悦がない。

「さわるなよ。……僕の、だ」

 魔導人は、崩れた瓦礫の隙間から這い出た。
 人に似てるが、人にはほど遠い歪なシルエット。
 崩壊しかけた魔導機の呪素が不完全な形で寄り集まっただけの、寄せ集めの怪物。
 だが、魔力を求める飢えは本物だ。




 ミルティが防御壁でキザシを守る。直後、キザシの一撃が魔導人に叩き込まれる。
 またたく間に敵を殲滅したふたりは言葉を交わすが、そのさなか、キザシの身体がぎこちなく固まった。ミルティの戦闘服の胸元が大きく裂かれ、そこから深い谷間が覗いているのを目の当たりにしたためだ。
 キザシは慌てた様子で弾かれるように視線をそらしたが、ほんの刹那、ミルティの首筋に熱い視線を注いでいた。
 そのことに、もちろんミルティは気づいていない。
 


 しかし──その一部始終を、見ていた者がいた。

 上空の影。
 崩れたビルの屋上で、ノクスが血のような赤い舌をゆっくりと歯に這わせていた。

「……は?」

 笑っているのに、声が震えていた。
 口角が吊り上がっているのに、全身から怒りの魔素が漏れていた。

(なにしてんだ、あのクソ男……)

 ノクスの爪が、拳に埋まるほど強く握り込まれた。

「あ゛ー……やっば。やっばいな」 

 理性がきしむ。
 気がついたときには、ノクスの脚は勝手に動きだしていた。
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