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結ばれた手と手
結ばれた手と手・1
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「どうしてユウに会っちゃダメなの!?帰ってきたのは知っているのよ!」
ダンッと執務室の机が小さな両の手の平で叩かれる。親子共々事あるごとに物にあたるのだから、そのうち壊れるのではないかと傍らに控えている宰相ケイネスは思った。
机を叩いたのは金の髪を持つ釣り目がちな少女。ラドカルミア王国の姫、リンシア。
姫に詰め寄られた鷹の目の偉丈夫はううむと唸る。
「聞き分けてくれ、リンシア。あの勇者はこともあろうにこの王宮に魔物を持ち込んだ。本当に危険がないのかよく調べる必要がある」
「それも聞いたわ!でもたかがスライムでしょう?武王と名高いお父様が、スライムごときにそんなに過敏になる必要があって?」
武王、ラドカルミア王国国王エルガスは今まで経験したどんな戦よりも苦戦した様子で唸る。
強大な魔族と討ち果たすよりも、年頃の娘をどうやってなだめるか考える方がよっぽどかの王にとって難しかった。もっとも、それは武王のみならず年頃の娘を持つ全ての父共通の悩みなのかもしれない。
「私は早くユウとお話がしたいの!私の、ただ一人の友達なのよ……」
強気な剣幕から一転、後半は伏し目がちに懇願する。
父としては娘の気持ちは分かるつもりだ。王族という立場は気安く友人などというものを作れる立場ではない。どれほど親しくなっても身分という差が切り立った崖のように他者と自分を隔てる。距離が近く見えてもそれは崖の上と下なのだ。
しかしそういった身分のしがらみをまったく意に介さない存在が勇者だ。勇者自身が身分というものを良くも悪くも理解しておらず、対外的にも救世という大役を担う勇者は王族に近しい権限を持つ。故に姫とも対等に会話できる数少ない存在だ。だからこそそんな真に対等な友人はリンシアにとってユウただ一人だ。今後ユウ以外にそんな存在ができることもないだろう。リンシアがユウに執着するのもエルガスにはよく分かる。
そうだとしても、父ではなく王として、今勇者を娘に合わせるわけにはいかなかった。
「――頼む。これ以上父を困らせないでくれ。調査が終わればすぐに知らせる」
これほど詰め寄っても父の態度が変わらないと知ったリンシアは、親譲りの鋭い眼光でしばし父親を睨んだ。交錯しる視線と視線。合間に余人が入り込めば居心地の悪さに失神しかねない。そしてリンシアは無言のまま踵を返し執務室を後にした。乱暴に扉が占められると、父の深い溜息が漏れる。
「まったく……どうしてこんなことになった……」
椅子の背もたれによりかかった王が心底疲れたように自らの眉間を揉み解す。勇者が召喚されてからというもの、主君の加齢の速度が五割増しになったようにケイネスは思う。
「勇者ですが、少なくとも今の所は大人しくしています。危険はなさそうですが、事が事ですからリンシア姫と会わせるのは控えたほうが良いでしょう」
「うむ……」
今朝早くのことだ。勇者が護衛二名と共に王都へと帰還した。
まず王を驚かせたのは彼女が魔物を引き連れていたことだ。それは魔物の中でも最弱のものだったが、決して御しうるようなものではないはずのものが勇者に寄り添っていた。
それだけでも驚愕に値するというのに、その勇者が帰還して早々王に要求した内容にエルガス王らは耳を疑うことになる。
魔族領から逃亡した魔族を保護する場所を用意してほしい。
それはとんでもないことだった。王は即座に情報が外に漏れないようにその場にいた者達に一切の口外を禁止し、勇者は王宮の一室にて待機するように命じた。事実上の軟禁だ。護衛の二人も城から外出することを禁じてある。
勇者の要求はともすれば魔族に寝返ったかのような要求だった。人間勢力にとってメリットがあるようには思えないし、第一このラドカルミア王国、いや、人間領の全ての諸国で魔族と取引を交わすことは大罪だ。少なくともその点ではすでに勇者は罪人だった。
それから勇者の今後の処遇について王が宰相と話をしていた時に、王女が執務室に現れ、今に至る。
エルガス王としては、魔族の息がかかっているかもしれない勇者を愛娘と会わせるわけにはいかなった。例え勇者が小娘であろうとも、娘の友人であったとしても。
ダンッと執務室の机が小さな両の手の平で叩かれる。親子共々事あるごとに物にあたるのだから、そのうち壊れるのではないかと傍らに控えている宰相ケイネスは思った。
机を叩いたのは金の髪を持つ釣り目がちな少女。ラドカルミア王国の姫、リンシア。
姫に詰め寄られた鷹の目の偉丈夫はううむと唸る。
「聞き分けてくれ、リンシア。あの勇者はこともあろうにこの王宮に魔物を持ち込んだ。本当に危険がないのかよく調べる必要がある」
「それも聞いたわ!でもたかがスライムでしょう?武王と名高いお父様が、スライムごときにそんなに過敏になる必要があって?」
武王、ラドカルミア王国国王エルガスは今まで経験したどんな戦よりも苦戦した様子で唸る。
強大な魔族と討ち果たすよりも、年頃の娘をどうやってなだめるか考える方がよっぽどかの王にとって難しかった。もっとも、それは武王のみならず年頃の娘を持つ全ての父共通の悩みなのかもしれない。
「私は早くユウとお話がしたいの!私の、ただ一人の友達なのよ……」
強気な剣幕から一転、後半は伏し目がちに懇願する。
父としては娘の気持ちは分かるつもりだ。王族という立場は気安く友人などというものを作れる立場ではない。どれほど親しくなっても身分という差が切り立った崖のように他者と自分を隔てる。距離が近く見えてもそれは崖の上と下なのだ。
しかしそういった身分のしがらみをまったく意に介さない存在が勇者だ。勇者自身が身分というものを良くも悪くも理解しておらず、対外的にも救世という大役を担う勇者は王族に近しい権限を持つ。故に姫とも対等に会話できる数少ない存在だ。だからこそそんな真に対等な友人はリンシアにとってユウただ一人だ。今後ユウ以外にそんな存在ができることもないだろう。リンシアがユウに執着するのもエルガスにはよく分かる。
そうだとしても、父ではなく王として、今勇者を娘に合わせるわけにはいかなかった。
「――頼む。これ以上父を困らせないでくれ。調査が終わればすぐに知らせる」
これほど詰め寄っても父の態度が変わらないと知ったリンシアは、親譲りの鋭い眼光でしばし父親を睨んだ。交錯しる視線と視線。合間に余人が入り込めば居心地の悪さに失神しかねない。そしてリンシアは無言のまま踵を返し執務室を後にした。乱暴に扉が占められると、父の深い溜息が漏れる。
「まったく……どうしてこんなことになった……」
椅子の背もたれによりかかった王が心底疲れたように自らの眉間を揉み解す。勇者が召喚されてからというもの、主君の加齢の速度が五割増しになったようにケイネスは思う。
「勇者ですが、少なくとも今の所は大人しくしています。危険はなさそうですが、事が事ですからリンシア姫と会わせるのは控えたほうが良いでしょう」
「うむ……」
今朝早くのことだ。勇者が護衛二名と共に王都へと帰還した。
まず王を驚かせたのは彼女が魔物を引き連れていたことだ。それは魔物の中でも最弱のものだったが、決して御しうるようなものではないはずのものが勇者に寄り添っていた。
それだけでも驚愕に値するというのに、その勇者が帰還して早々王に要求した内容にエルガス王らは耳を疑うことになる。
魔族領から逃亡した魔族を保護する場所を用意してほしい。
それはとんでもないことだった。王は即座に情報が外に漏れないようにその場にいた者達に一切の口外を禁止し、勇者は王宮の一室にて待機するように命じた。事実上の軟禁だ。護衛の二人も城から外出することを禁じてある。
勇者の要求はともすれば魔族に寝返ったかのような要求だった。人間勢力にとってメリットがあるようには思えないし、第一このラドカルミア王国、いや、人間領の全ての諸国で魔族と取引を交わすことは大罪だ。少なくともその点ではすでに勇者は罪人だった。
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