剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

文字の大きさ
30 / 115
結ばれた手と手

結ばれた手と手・1

しおりを挟む
「どうしてユウに会っちゃダメなの!?帰ってきたのは知っているのよ!」

 ダンッと執務室の机が小さな両の手の平で叩かれる。親子共々事あるごとに物にあたるのだから、そのうち壊れるのではないかと傍らに控えている宰相ケイネスは思った。

 机を叩いたのは金の髪を持つ釣り目がちな少女。ラドカルミア王国の姫、リンシア。

 姫に詰め寄られた鷹の目の偉丈夫はううむと唸る。

「聞き分けてくれ、リンシア。あの勇者はこともあろうにこの王宮に魔物を持ち込んだ。本当に危険がないのかよく調べる必要がある」

「それも聞いたわ!でもたかがスライムでしょう?武王と名高いお父様が、スライムごときにそんなに過敏になる必要があって?」

 武王、ラドカルミア王国国王エルガスは今まで経験したどんな戦よりも苦戦した様子で唸る。

 強大な魔族と討ち果たすよりも、年頃の娘をどうやってなだめるか考える方がよっぽどかの王にとって難しかった。もっとも、それは武王のみならず年頃の娘を持つ全ての父共通の悩みなのかもしれない。

「私は早くユウとお話がしたいの!私の、ただ一人の友達なのよ……」

 強気な剣幕から一転、後半は伏し目がちに懇願する。

 父としては娘の気持ちは分かるつもりだ。王族という立場は気安く友人などというものを作れる立場ではない。どれほど親しくなっても身分という差が切り立った崖のように他者と自分を隔てる。距離が近く見えてもそれは崖の上と下なのだ。

 しかしそういった身分のしがらみをまったく意に介さない存在が勇者だ。勇者自身が身分というものを良くも悪くも理解しておらず、対外的にも救世という大役を担う勇者は王族に近しい権限を持つ。故に姫とも対等に会話できる数少ない存在だ。だからこそそんな真に対等な友人はリンシアにとってユウただ一人だ。今後ユウ以外にそんな存在ができることもないだろう。リンシアがユウに執着するのもエルガスにはよく分かる。

 そうだとしても、父ではなく王として、今勇者を娘に合わせるわけにはいかなかった。

「――頼む。これ以上父を困らせないでくれ。調査が終わればすぐに知らせる」

 これほど詰め寄っても父の態度が変わらないと知ったリンシアは、親譲りの鋭い眼光でしばし父親を睨んだ。交錯しる視線と視線。合間に余人が入り込めば居心地の悪さに失神しかねない。そしてリンシアは無言のまま踵を返し執務室を後にした。乱暴に扉が占められると、父の深い溜息が漏れる。

「まったく……どうしてこんなことになった……」

 椅子の背もたれによりかかった王が心底疲れたように自らの眉間を揉み解す。勇者が召喚されてからというもの、主君の加齢の速度が五割増しになったようにケイネスは思う。

「勇者ですが、少なくとも今の所は大人しくしています。危険はなさそうですが、事が事ですからリンシア姫と会わせるのは控えたほうが良いでしょう」

「うむ……」

 今朝早くのことだ。勇者が護衛二名と共に王都へと帰還した。

 まず王を驚かせたのは彼女が魔物を引き連れていたことだ。それは魔物の中でも最弱のものだったが、決して御しうるようなものではないはずのものが勇者に寄り添っていた。

 それだけでも驚愕に値するというのに、その勇者が帰還して早々王に要求した内容にエルガス王らは耳を疑うことになる。

 魔族領から逃亡した魔族を保護する場所を用意してほしい。

 それはとんでもないことだった。王は即座に情報が外に漏れないようにその場にいた者達に一切の口外を禁止し、勇者は王宮の一室にて待機するように命じた。事実上の軟禁だ。護衛の二人も城から外出することを禁じてある。

 勇者の要求はともすれば魔族に寝返ったかのような要求だった。人間勢力にとってメリットがあるようには思えないし、第一このラドカルミア王国、いや、人間領の全ての諸国で魔族と取引を交わすことは大罪だ。少なくともその点ではすでに勇者は罪人だった。

 それから勇者の今後の処遇について王が宰相と話をしていた時に、王女が執務室に現れ、今に至る。

 エルガス王としては、魔族の息がかかっているかもしれない勇者を愛娘と会わせるわけにはいかなった。例え勇者が小娘であろうとも、娘の友人であったとしても。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...