剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

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結ばれた手と手

結ばれた手と手・2

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「まさか、勇者が魔族を利するような要求をしてくるとは……。世界を救う運命とは、我ら人間を救うものではなかったのか……」

 エルガス王は高い王宮の天井を仰いだ。

 多くの歳月と費用を用いて行われた、世界を救う運命を持つ者を呼び出す儀式、勇者召喚。その結果呼び出されたのは何の力もなさそうな少女だった。

 しかしそれでも彼女には秘められた力があるのだと信じて旅に出したはいいものの、帰ってくればこれだ。これではあまりにも報われなさすぎる。

 召喚が為された際、武王はこれで魔族の襲撃に怯えている全ての人間を救えるのだと思った。しかしその期待は最悪の結果で裏切られた。

「勇者召喚は失敗した、ということでしょうか」

 ケイネスが沈痛な面持ちで呟いた。

「そうとしか、言えまい」

 もとより、あのような少女が召喚された時点でそのことを認めるべきだったのかもしれない。失敗を認めず、旅になど出したのが間違いだったのだ。

 エルガス王は、机に両肘をついて頭を抱えた。

 これからあの勇者をどうするべきか。魔族と取引を交わした罪人だ。通常なら有無を言わさず処刑である。だがそんなことをすれば娘のリンシアがどれほど心を痛めるか。下手をすれば処刑を決行した父との間に一生埋まらない溝ができるやもしれない。理由はどうあれあのような少女の命を奪うということに心ある人間としての抵抗感もある。公になれば王は血も涙もない冷血漢だと揶揄やゆする者も現れるだろう。

 それでも法に則れば結論は決まっている。だがそれを素直に実行できない。その葛藤がかの武王を苦しめていた。

 苦しむ王の思考は、再び執務室の戸がノックされたことによってまた中断された。

「――一の騎士団ナイツ・オブ・ザ・ワン、レイ・ルーチスです。王と話をさせていただきたく、無礼を承知で参上いたしました」

 戸の向こうから聞こえたその言葉にケイネスが目を細めて王を見やる。エルガス王が一つ頷く。

「……入りなさい」

 ケイネスの言葉を聞き届けると、勇者の護衛の一人がその戸を開けて王の執務室へと入室した。

 その恰好は武器や兜こそ付けていないが、全身を覆う金属鎧プレートアーマー。騎士としての正装を意味していた。

「よくもぬけぬけと姿を現せたものだな」

 ありありと怒りの籠った眼光がレイへと向けられた。鷹の目と呼ばれるその双眸は睨んだだけで小鬼族ゴブリンを失神させたという逸話すらある。常人ならその視線に射抜かれただけで委縮し、まともな思考などできなくなってしまう。

 その眼光をレイは正面から受け止めた。

「一の騎士団である貴様が付いていながら、このような事態になろうとは。貴様はいったい何をしていたのだ?」

「……………」

 騎士は答えない。この場に立ってなお、自分の考えを整理しているような、そんな葛藤が表情から伺えた。その様子をただただ恐縮しているだけととった王はさらに言葉に怒気を込めて立ち上がる。

「貴様のせいで、勇者は魔に魅入られたッ!魔物を連れ、魔族を保護したいなどと口にする者を、もはや勇者などと呼べようものかッ!!」

 椅子から荒々しく立ち上がった王は、宰相が止める間もなく壁に飾ってあった長剣ロングソードを手に取った。

 それは飾りではない。幾度も実践で振るわれた、何体もの魔族の首を落した本物の剣だ。答えの出せない葛藤に苛まれることによって溜まった鬱憤が、目の前に責任を追及できる人物が現れたことで爆発した。

 エルガス王が長剣をレイの首元へと突き付ける。あと一歩王が前進すればその鋭い切っ先が喉を貫くだろう。

 地面と垂直に伸ばされた腕は中空で一切の震えもなく制止している。それを為すためにどれほどの筋力が必要か、実際に剣を振るったことのないものには分からないだろう。

 武王エルガス・フォン・ラドカルミア三世。年老いてなお、その剣技は並みの騎士を遥かに凌駕するという。

「王よ、私は……」

 鷹の眼光に射抜かれ、剣を突き付けられ、ようやっと決心がついたのか。騎士が口を開いた。
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