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結ばれた手と手
結ばれた手と手・3
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「短い期間ではありますが、あの勇者と旅をして思いました。あの勇者には、ユウには、魔族を滅ぼす力などありません」
「そもそも勇者召喚が失敗していたと?故にただの少女が魔に魅入られたところで、自分に責はないと、そう言う事か」
長剣が半歩分、前へ。脅しなどではない。言葉を違えばその瞬間に王は刃を前に突き出すだろうということは明らかだった。
「いえ。彼女に何かしらの力があるということは確かです。現に彼女は、あの通りスライムを手懐けている」
「さきほど自分自身で勇者に魔族を滅ぼす力はないと言ったのはどの口だ?あまりに腑抜けた事を口走るようでは、ただの斬首ではすまさんぞ」
「勇者の力は、魔族を滅ぼすような力ではないのではないと、思うのです。仮にそのような力だったとしても、彼女自身がそれを魔族に用いることをよしとしないでしょう」
そのことがレイにはよく分かっていた。共に旅をしたセラも同じ考えを持っているだろう。
「――私は、思うのです。勇者召喚が、世界を救う運命を持つ者を召喚する界律魔法であるならば、そしてそれが成功していたというのならば……勇者の持つ力というものは、破壊や争いを有利するようなものである必要はないのではないかと」
魔族を打倒しうる力を、勇者は持っているはずだ。いや、持っていてほしい。そうレイは願っていた。だが、今となってはもうそうは思わない。
勇者がユウという少女である以上、そんな力にはなんの意味もないからだ。
だが、それでも彼女が世界を救う運命を持つというのならば。
「一の騎士団として、いや人間として、あり得ざることを口走ろうとしている自覚はあります。ですが、私は、この目で見てしまったのです」
顔を上げ、喉元に迫る刃の先、その奥にある鷹の目を正面から迎え撃つ。
これ以上を口にすれば、本当に命を断たれるやもしれない。だがそれでも、直接それを見た自分が言わねば。共にそれを見たセラともよく話し合って、彼女の想いも背負って今レイはここにいる。
二人で、あの少女を救うと決めたのだ。そのために、自分が王を説得するのだ。
たとえそれが、今までの自分の価値観を書き換えねばならぬ道だとしても。
「魔族が……自ら武器を捨てるところを」
ただの命乞いだとしても。それでも魔族が人間に対して降伏を示した。そのうえ、母や子がそれぞれをかばうようなそぶりを見せた。
まるで人間のように。
それは紛れもなく、ユウが命を賭けて彼らに訴えかけたからこそ垣間見えた情景だった。彼女がいなければ、魔族にもそんな感情があるのだとレイが知ることはなかっただろう。
「私は……勇者の為す平和とは、魔族の根絶ではないのではないか、少なくとも、一部の魔族とは和解できるのではないかと、思い始めています。故に、勇者の願いを聞き届けていただきたい。それが和解へと第一歩となるのです」
目を逸らさずに、騎士はそれを口にした。
鷹の目が細められる。視線はさらに、鋭く。
「――墜ちたな。レイ・ルーチス。貴様はもはや騎士に値せん」
レイは覚悟を決めた。
「私は武器を持たぬ者を斬る剣を持ちません。それが私の信じた騎士道です。それが騎士ではないと王が仰るのならば、私の信じる騎士道と、王の信じる騎士道が違うというだけです」
よもや、今まで数数多の魔族を討ち果たした自分が、魔族をかばって死ぬことになろうとは。運命とはかくも数奇なものかとレイは瞳を閉じた。
本心を言えば、あの小鬼族達の末路などレイにとってはあまり重要ではない。レイにとって重要なのは、あの黒髪の勇者を護ることだ。一の騎士団である以上に、レイの今の役目は勇者の護衛なのだ。小鬼族達を護ることが間接的にユウを護ることになる。故にこの道を選んだ。
後悔はない。一度護ると決めた者を護るため全霊を尽くした。例えそれが、王の信じる騎士道に反するものだとしても。
レイの騎士道は最後まで貫かれたのだ。
しかし、死を覚悟したレイの耳に聴こえたのは、自身の喉から吹き出す鮮血の鼓動ではなく深く深い、武王の溜息だった。
「そもそも勇者召喚が失敗していたと?故にただの少女が魔に魅入られたところで、自分に責はないと、そう言う事か」
長剣が半歩分、前へ。脅しなどではない。言葉を違えばその瞬間に王は刃を前に突き出すだろうということは明らかだった。
「いえ。彼女に何かしらの力があるということは確かです。現に彼女は、あの通りスライムを手懐けている」
「さきほど自分自身で勇者に魔族を滅ぼす力はないと言ったのはどの口だ?あまりに腑抜けた事を口走るようでは、ただの斬首ではすまさんぞ」
「勇者の力は、魔族を滅ぼすような力ではないのではないと、思うのです。仮にそのような力だったとしても、彼女自身がそれを魔族に用いることをよしとしないでしょう」
そのことがレイにはよく分かっていた。共に旅をしたセラも同じ考えを持っているだろう。
「――私は、思うのです。勇者召喚が、世界を救う運命を持つ者を召喚する界律魔法であるならば、そしてそれが成功していたというのならば……勇者の持つ力というものは、破壊や争いを有利するようなものである必要はないのではないかと」
魔族を打倒しうる力を、勇者は持っているはずだ。いや、持っていてほしい。そうレイは願っていた。だが、今となってはもうそうは思わない。
勇者がユウという少女である以上、そんな力にはなんの意味もないからだ。
だが、それでも彼女が世界を救う運命を持つというのならば。
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顔を上げ、喉元に迫る刃の先、その奥にある鷹の目を正面から迎え撃つ。
これ以上を口にすれば、本当に命を断たれるやもしれない。だがそれでも、直接それを見た自分が言わねば。共にそれを見たセラともよく話し合って、彼女の想いも背負って今レイはここにいる。
二人で、あの少女を救うと決めたのだ。そのために、自分が王を説得するのだ。
たとえそれが、今までの自分の価値観を書き換えねばならぬ道だとしても。
「魔族が……自ら武器を捨てるところを」
ただの命乞いだとしても。それでも魔族が人間に対して降伏を示した。そのうえ、母や子がそれぞれをかばうようなそぶりを見せた。
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目を逸らさずに、騎士はそれを口にした。
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「――墜ちたな。レイ・ルーチス。貴様はもはや騎士に値せん」
レイは覚悟を決めた。
「私は武器を持たぬ者を斬る剣を持ちません。それが私の信じた騎士道です。それが騎士ではないと王が仰るのならば、私の信じる騎士道と、王の信じる騎士道が違うというだけです」
よもや、今まで数数多の魔族を討ち果たした自分が、魔族をかばって死ぬことになろうとは。運命とはかくも数奇なものかとレイは瞳を閉じた。
本心を言えば、あの小鬼族達の末路などレイにとってはあまり重要ではない。レイにとって重要なのは、あの黒髪の勇者を護ることだ。一の騎士団である以上に、レイの今の役目は勇者の護衛なのだ。小鬼族達を護ることが間接的にユウを護ることになる。故にこの道を選んだ。
後悔はない。一度護ると決めた者を護るため全霊を尽くした。例えそれが、王の信じる騎士道に反するものだとしても。
レイの騎士道は最後まで貫かれたのだ。
しかし、死を覚悟したレイの耳に聴こえたのは、自身の喉から吹き出す鮮血の鼓動ではなく深く深い、武王の溜息だった。
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