32 / 115
結ばれた手と手
結ばれた手と手・3
しおりを挟む
「短い期間ではありますが、あの勇者と旅をして思いました。あの勇者には、ユウには、魔族を滅ぼす力などありません」
「そもそも勇者召喚が失敗していたと?故にただの少女が魔に魅入られたところで、自分に責はないと、そう言う事か」
長剣が半歩分、前へ。脅しなどではない。言葉を違えばその瞬間に王は刃を前に突き出すだろうということは明らかだった。
「いえ。彼女に何かしらの力があるということは確かです。現に彼女は、あの通りスライムを手懐けている」
「さきほど自分自身で勇者に魔族を滅ぼす力はないと言ったのはどの口だ?あまりに腑抜けた事を口走るようでは、ただの斬首ではすまさんぞ」
「勇者の力は、魔族を滅ぼすような力ではないのではないと、思うのです。仮にそのような力だったとしても、彼女自身がそれを魔族に用いることをよしとしないでしょう」
そのことがレイにはよく分かっていた。共に旅をしたセラも同じ考えを持っているだろう。
「――私は、思うのです。勇者召喚が、世界を救う運命を持つ者を召喚する界律魔法であるならば、そしてそれが成功していたというのならば……勇者の持つ力というものは、破壊や争いを有利するようなものである必要はないのではないかと」
魔族を打倒しうる力を、勇者は持っているはずだ。いや、持っていてほしい。そうレイは願っていた。だが、今となってはもうそうは思わない。
勇者がユウという少女である以上、そんな力にはなんの意味もないからだ。
だが、それでも彼女が世界を救う運命を持つというのならば。
「一の騎士団として、いや人間として、あり得ざることを口走ろうとしている自覚はあります。ですが、私は、この目で見てしまったのです」
顔を上げ、喉元に迫る刃の先、その奥にある鷹の目を正面から迎え撃つ。
これ以上を口にすれば、本当に命を断たれるやもしれない。だがそれでも、直接それを見た自分が言わねば。共にそれを見たセラともよく話し合って、彼女の想いも背負って今レイはここにいる。
二人で、あの少女を救うと決めたのだ。そのために、自分が王を説得するのだ。
たとえそれが、今までの自分の価値観を書き換えねばならぬ道だとしても。
「魔族が……自ら武器を捨てるところを」
ただの命乞いだとしても。それでも魔族が人間に対して降伏を示した。そのうえ、母や子がそれぞれをかばうようなそぶりを見せた。
まるで人間のように。
それは紛れもなく、ユウが命を賭けて彼らに訴えかけたからこそ垣間見えた情景だった。彼女がいなければ、魔族にもそんな感情があるのだとレイが知ることはなかっただろう。
「私は……勇者の為す平和とは、魔族の根絶ではないのではないか、少なくとも、一部の魔族とは和解できるのではないかと、思い始めています。故に、勇者の願いを聞き届けていただきたい。それが和解へと第一歩となるのです」
目を逸らさずに、騎士はそれを口にした。
鷹の目が細められる。視線はさらに、鋭く。
「――墜ちたな。レイ・ルーチス。貴様はもはや騎士に値せん」
レイは覚悟を決めた。
「私は武器を持たぬ者を斬る剣を持ちません。それが私の信じた騎士道です。それが騎士ではないと王が仰るのならば、私の信じる騎士道と、王の信じる騎士道が違うというだけです」
よもや、今まで数数多の魔族を討ち果たした自分が、魔族をかばって死ぬことになろうとは。運命とはかくも数奇なものかとレイは瞳を閉じた。
本心を言えば、あの小鬼族達の末路などレイにとってはあまり重要ではない。レイにとって重要なのは、あの黒髪の勇者を護ることだ。一の騎士団である以上に、レイの今の役目は勇者の護衛なのだ。小鬼族達を護ることが間接的にユウを護ることになる。故にこの道を選んだ。
後悔はない。一度護ると決めた者を護るため全霊を尽くした。例えそれが、王の信じる騎士道に反するものだとしても。
レイの騎士道は最後まで貫かれたのだ。
しかし、死を覚悟したレイの耳に聴こえたのは、自身の喉から吹き出す鮮血の鼓動ではなく深く深い、武王の溜息だった。
「そもそも勇者召喚が失敗していたと?故にただの少女が魔に魅入られたところで、自分に責はないと、そう言う事か」
長剣が半歩分、前へ。脅しなどではない。言葉を違えばその瞬間に王は刃を前に突き出すだろうということは明らかだった。
「いえ。彼女に何かしらの力があるということは確かです。現に彼女は、あの通りスライムを手懐けている」
「さきほど自分自身で勇者に魔族を滅ぼす力はないと言ったのはどの口だ?あまりに腑抜けた事を口走るようでは、ただの斬首ではすまさんぞ」
「勇者の力は、魔族を滅ぼすような力ではないのではないと、思うのです。仮にそのような力だったとしても、彼女自身がそれを魔族に用いることをよしとしないでしょう」
そのことがレイにはよく分かっていた。共に旅をしたセラも同じ考えを持っているだろう。
「――私は、思うのです。勇者召喚が、世界を救う運命を持つ者を召喚する界律魔法であるならば、そしてそれが成功していたというのならば……勇者の持つ力というものは、破壊や争いを有利するようなものである必要はないのではないかと」
魔族を打倒しうる力を、勇者は持っているはずだ。いや、持っていてほしい。そうレイは願っていた。だが、今となってはもうそうは思わない。
勇者がユウという少女である以上、そんな力にはなんの意味もないからだ。
だが、それでも彼女が世界を救う運命を持つというのならば。
「一の騎士団として、いや人間として、あり得ざることを口走ろうとしている自覚はあります。ですが、私は、この目で見てしまったのです」
顔を上げ、喉元に迫る刃の先、その奥にある鷹の目を正面から迎え撃つ。
これ以上を口にすれば、本当に命を断たれるやもしれない。だがそれでも、直接それを見た自分が言わねば。共にそれを見たセラともよく話し合って、彼女の想いも背負って今レイはここにいる。
二人で、あの少女を救うと決めたのだ。そのために、自分が王を説得するのだ。
たとえそれが、今までの自分の価値観を書き換えねばならぬ道だとしても。
「魔族が……自ら武器を捨てるところを」
ただの命乞いだとしても。それでも魔族が人間に対して降伏を示した。そのうえ、母や子がそれぞれをかばうようなそぶりを見せた。
まるで人間のように。
それは紛れもなく、ユウが命を賭けて彼らに訴えかけたからこそ垣間見えた情景だった。彼女がいなければ、魔族にもそんな感情があるのだとレイが知ることはなかっただろう。
「私は……勇者の為す平和とは、魔族の根絶ではないのではないか、少なくとも、一部の魔族とは和解できるのではないかと、思い始めています。故に、勇者の願いを聞き届けていただきたい。それが和解へと第一歩となるのです」
目を逸らさずに、騎士はそれを口にした。
鷹の目が細められる。視線はさらに、鋭く。
「――墜ちたな。レイ・ルーチス。貴様はもはや騎士に値せん」
レイは覚悟を決めた。
「私は武器を持たぬ者を斬る剣を持ちません。それが私の信じた騎士道です。それが騎士ではないと王が仰るのならば、私の信じる騎士道と、王の信じる騎士道が違うというだけです」
よもや、今まで数数多の魔族を討ち果たした自分が、魔族をかばって死ぬことになろうとは。運命とはかくも数奇なものかとレイは瞳を閉じた。
本心を言えば、あの小鬼族達の末路などレイにとってはあまり重要ではない。レイにとって重要なのは、あの黒髪の勇者を護ることだ。一の騎士団である以上に、レイの今の役目は勇者の護衛なのだ。小鬼族達を護ることが間接的にユウを護ることになる。故にこの道を選んだ。
後悔はない。一度護ると決めた者を護るため全霊を尽くした。例えそれが、王の信じる騎士道に反するものだとしても。
レイの騎士道は最後まで貫かれたのだ。
しかし、死を覚悟したレイの耳に聴こえたのは、自身の喉から吹き出す鮮血の鼓動ではなく深く深い、武王の溜息だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる