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結ばれた手と手
結ばれた手と手・5
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魔族を保護する、というのは言葉にするほど簡単なことではない。
国家としてそのようなことをするとなれば民衆の反発は避けられない。例え少数と言えど、王の立場が揺らぎかねない事案だ。その上、魔族を保護している国家、ひいては魔族と結託している国家として他国から侵略戦争を仕掛ける動機を与えてしまう。
皮肉なことに、魔族という大きな脅威にさらされている現状でさえ人間側は一枚岩になれずにいる。直接魔族領に接していない南方の諸国家はラドカルミア王国を都合のいい防波堤程度にしか思っていまい。魔族の脅威に直接さらされていないからこそ、その脅威さが分からない。ラドカルミアが危機の際に援軍を出すのかすら怪しいところだ。そんな状況だからこそラドカルミアは軍事的に発達したと言えなくもないのもまた皮肉な話である。
とは言っても、小鬼族四匹程度なら秘密裏に保護することも不可能ではない。しかし露見した際のリスクを考えるとそれも避けたいところだ。
宰相ケイネスは勇者ユウとの話し合いの末、魔族の命を守りつつ、対外的に魔族と結託したと思われない方法を模索した。
その結果生まれたのが、“勇者特区”と呼ばれる収容地区の設立である。
収容地区、つまりそれは罪人を収容し、強制的に労働させる監獄であった。魔族領から逃亡してきた魔族を捕獲し、労働力として利用する、という体裁をとったのである。
まず小鬼族達の移動が行われた。王都から派遣された数人の兵士を引き連れ、ユウ達は年老いた母の待つ洞穴へと向かった。彼女達が本当にユウ達を信じ、待っているか、そこがまず問題であった。
果たして、小鬼族達はそこにいた。
人を襲うことをせず、森の木の実と熊の肉を喰らって彼らは凌いでいた。ユウ達が連れてきた兵士を見て、彼女らはやはり人間など信用ならなかったと交戦する構えを見せたが、その兵士らが複雑な表情ではあったものの食料を小鬼族達に投げ渡したので、その場は収まった。もし、そこに至るまでに小鬼族達が一度でも人間を襲っていたのならば、兵士は剣を抜いていた。そうならなかったのは、一重に小鬼族達が慣れない自給自足によって疲弊し、やつれていたからである。
一カ月。決して短い期間ではない。その期間の間、彼女らはレイとの約束を守った。例えそれ以外に生き残る道がなかったからだとしても、その懸命さが兵士達に剣を抜かせなかったのだ。
小鬼族達が連れて行かれたのはローダ鉱山を中心とした未開拓地区だった。諸事情によって開拓が途中で断念された森林地帯であり、鉱山の麓はその名残として木を切り倒されて確保された空間と、無人の山小屋がある。逆に言えばそれぐらいしかない場所だ。近隣の村からは距離があり、狩人などが迷い込むこともない。小鬼族達はそこで坑夫として強制労働させられることになる。
とはいっても、鉱山での採掘作業は小鬼族達だけでできるような仕事ではない。別途人間の労働者が必要だ。そこで送り込まれたのが罪人達である。
魔族と共に働かされると聞いていた罪人達の怯えようは尋常ではないものがあった。魔族を収容するような施設なのだから、きっと自分達は人間以下の生活をさせられるに違いないと思っていたからだ。しかし、いざ働き始めると彼らの予想は裏切られることになる。
まず問題の魔族達だが、よく人間の監督官の言う事を聞き、その指示に従った。もともと魔族領でも虐げれてきた彼らは何者かに従属することに先天的な慣れがあるのかもしれない。
言葉の壁は年老いた母が通訳となることで解決した。なお監督官は勤務中、常に鞘から抜いた短刀を手に持ち、年老いた母に突き付ける。もし年老いた母が呪文など唱えようならすぐに刺し殺せるようにだ。他の小鬼族達が暴走しないようにするための人質という意味もある。
だが、少なくとも今のところはその短刀が血に濡れたことはない。寧ろ年老いた母が常に監督官と共に働いている者を見ているという事態は人間の罪人達に効果的だったようで、罪人達が小鬼族達に暴力を振るうという事態の抑止に繋がっていた。小鬼族達に危害を加えれば年老いた母に殺されるのでは、と思ったからだ。
その短刀が不要になるのはそう遠くない話なのかもしれない。
国家としてそのようなことをするとなれば民衆の反発は避けられない。例え少数と言えど、王の立場が揺らぎかねない事案だ。その上、魔族を保護している国家、ひいては魔族と結託している国家として他国から侵略戦争を仕掛ける動機を与えてしまう。
皮肉なことに、魔族という大きな脅威にさらされている現状でさえ人間側は一枚岩になれずにいる。直接魔族領に接していない南方の諸国家はラドカルミア王国を都合のいい防波堤程度にしか思っていまい。魔族の脅威に直接さらされていないからこそ、その脅威さが分からない。ラドカルミアが危機の際に援軍を出すのかすら怪しいところだ。そんな状況だからこそラドカルミアは軍事的に発達したと言えなくもないのもまた皮肉な話である。
とは言っても、小鬼族四匹程度なら秘密裏に保護することも不可能ではない。しかし露見した際のリスクを考えるとそれも避けたいところだ。
宰相ケイネスは勇者ユウとの話し合いの末、魔族の命を守りつつ、対外的に魔族と結託したと思われない方法を模索した。
その結果生まれたのが、“勇者特区”と呼ばれる収容地区の設立である。
収容地区、つまりそれは罪人を収容し、強制的に労働させる監獄であった。魔族領から逃亡してきた魔族を捕獲し、労働力として利用する、という体裁をとったのである。
まず小鬼族達の移動が行われた。王都から派遣された数人の兵士を引き連れ、ユウ達は年老いた母の待つ洞穴へと向かった。彼女達が本当にユウ達を信じ、待っているか、そこがまず問題であった。
果たして、小鬼族達はそこにいた。
人を襲うことをせず、森の木の実と熊の肉を喰らって彼らは凌いでいた。ユウ達が連れてきた兵士を見て、彼女らはやはり人間など信用ならなかったと交戦する構えを見せたが、その兵士らが複雑な表情ではあったものの食料を小鬼族達に投げ渡したので、その場は収まった。もし、そこに至るまでに小鬼族達が一度でも人間を襲っていたのならば、兵士は剣を抜いていた。そうならなかったのは、一重に小鬼族達が慣れない自給自足によって疲弊し、やつれていたからである。
一カ月。決して短い期間ではない。その期間の間、彼女らはレイとの約束を守った。例えそれ以外に生き残る道がなかったからだとしても、その懸命さが兵士達に剣を抜かせなかったのだ。
小鬼族達が連れて行かれたのはローダ鉱山を中心とした未開拓地区だった。諸事情によって開拓が途中で断念された森林地帯であり、鉱山の麓はその名残として木を切り倒されて確保された空間と、無人の山小屋がある。逆に言えばそれぐらいしかない場所だ。近隣の村からは距離があり、狩人などが迷い込むこともない。小鬼族達はそこで坑夫として強制労働させられることになる。
とはいっても、鉱山での採掘作業は小鬼族達だけでできるような仕事ではない。別途人間の労働者が必要だ。そこで送り込まれたのが罪人達である。
魔族と共に働かされると聞いていた罪人達の怯えようは尋常ではないものがあった。魔族を収容するような施設なのだから、きっと自分達は人間以下の生活をさせられるに違いないと思っていたからだ。しかし、いざ働き始めると彼らの予想は裏切られることになる。
まず問題の魔族達だが、よく人間の監督官の言う事を聞き、その指示に従った。もともと魔族領でも虐げれてきた彼らは何者かに従属することに先天的な慣れがあるのかもしれない。
言葉の壁は年老いた母が通訳となることで解決した。なお監督官は勤務中、常に鞘から抜いた短刀を手に持ち、年老いた母に突き付ける。もし年老いた母が呪文など唱えようならすぐに刺し殺せるようにだ。他の小鬼族達が暴走しないようにするための人質という意味もある。
だが、少なくとも今のところはその短刀が血に濡れたことはない。寧ろ年老いた母が常に監督官と共に働いている者を見ているという事態は人間の罪人達に効果的だったようで、罪人達が小鬼族達に暴力を振るうという事態の抑止に繋がっていた。小鬼族達に危害を加えれば年老いた母に殺されるのでは、と思ったからだ。
その短刀が不要になるのはそう遠くない話なのかもしれない。
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