34 / 115
結ばれた手と手
結ばれた手と手・5
しおりを挟む
魔族を保護する、というのは言葉にするほど簡単なことではない。
国家としてそのようなことをするとなれば民衆の反発は避けられない。例え少数と言えど、王の立場が揺らぎかねない事案だ。その上、魔族を保護している国家、ひいては魔族と結託している国家として他国から侵略戦争を仕掛ける動機を与えてしまう。
皮肉なことに、魔族という大きな脅威にさらされている現状でさえ人間側は一枚岩になれずにいる。直接魔族領に接していない南方の諸国家はラドカルミア王国を都合のいい防波堤程度にしか思っていまい。魔族の脅威に直接さらされていないからこそ、その脅威さが分からない。ラドカルミアが危機の際に援軍を出すのかすら怪しいところだ。そんな状況だからこそラドカルミアは軍事的に発達したと言えなくもないのもまた皮肉な話である。
とは言っても、小鬼族四匹程度なら秘密裏に保護することも不可能ではない。しかし露見した際のリスクを考えるとそれも避けたいところだ。
宰相ケイネスは勇者ユウとの話し合いの末、魔族の命を守りつつ、対外的に魔族と結託したと思われない方法を模索した。
その結果生まれたのが、“勇者特区”と呼ばれる収容地区の設立である。
収容地区、つまりそれは罪人を収容し、強制的に労働させる監獄であった。魔族領から逃亡してきた魔族を捕獲し、労働力として利用する、という体裁をとったのである。
まず小鬼族達の移動が行われた。王都から派遣された数人の兵士を引き連れ、ユウ達は年老いた母の待つ洞穴へと向かった。彼女達が本当にユウ達を信じ、待っているか、そこがまず問題であった。
果たして、小鬼族達はそこにいた。
人を襲うことをせず、森の木の実と熊の肉を喰らって彼らは凌いでいた。ユウ達が連れてきた兵士を見て、彼女らはやはり人間など信用ならなかったと交戦する構えを見せたが、その兵士らが複雑な表情ではあったものの食料を小鬼族達に投げ渡したので、その場は収まった。もし、そこに至るまでに小鬼族達が一度でも人間を襲っていたのならば、兵士は剣を抜いていた。そうならなかったのは、一重に小鬼族達が慣れない自給自足によって疲弊し、やつれていたからである。
一カ月。決して短い期間ではない。その期間の間、彼女らはレイとの約束を守った。例えそれ以外に生き残る道がなかったからだとしても、その懸命さが兵士達に剣を抜かせなかったのだ。
小鬼族達が連れて行かれたのはローダ鉱山を中心とした未開拓地区だった。諸事情によって開拓が途中で断念された森林地帯であり、鉱山の麓はその名残として木を切り倒されて確保された空間と、無人の山小屋がある。逆に言えばそれぐらいしかない場所だ。近隣の村からは距離があり、狩人などが迷い込むこともない。小鬼族達はそこで坑夫として強制労働させられることになる。
とはいっても、鉱山での採掘作業は小鬼族達だけでできるような仕事ではない。別途人間の労働者が必要だ。そこで送り込まれたのが罪人達である。
魔族と共に働かされると聞いていた罪人達の怯えようは尋常ではないものがあった。魔族を収容するような施設なのだから、きっと自分達は人間以下の生活をさせられるに違いないと思っていたからだ。しかし、いざ働き始めると彼らの予想は裏切られることになる。
まず問題の魔族達だが、よく人間の監督官の言う事を聞き、その指示に従った。もともと魔族領でも虐げれてきた彼らは何者かに従属することに先天的な慣れがあるのかもしれない。
言葉の壁は年老いた母が通訳となることで解決した。なお監督官は勤務中、常に鞘から抜いた短刀を手に持ち、年老いた母に突き付ける。もし年老いた母が呪文など唱えようならすぐに刺し殺せるようにだ。他の小鬼族達が暴走しないようにするための人質という意味もある。
だが、少なくとも今のところはその短刀が血に濡れたことはない。寧ろ年老いた母が常に監督官と共に働いている者を見ているという事態は人間の罪人達に効果的だったようで、罪人達が小鬼族達に暴力を振るうという事態の抑止に繋がっていた。小鬼族達に危害を加えれば年老いた母に殺されるのでは、と思ったからだ。
その短刀が不要になるのはそう遠くない話なのかもしれない。
国家としてそのようなことをするとなれば民衆の反発は避けられない。例え少数と言えど、王の立場が揺らぎかねない事案だ。その上、魔族を保護している国家、ひいては魔族と結託している国家として他国から侵略戦争を仕掛ける動機を与えてしまう。
皮肉なことに、魔族という大きな脅威にさらされている現状でさえ人間側は一枚岩になれずにいる。直接魔族領に接していない南方の諸国家はラドカルミア王国を都合のいい防波堤程度にしか思っていまい。魔族の脅威に直接さらされていないからこそ、その脅威さが分からない。ラドカルミアが危機の際に援軍を出すのかすら怪しいところだ。そんな状況だからこそラドカルミアは軍事的に発達したと言えなくもないのもまた皮肉な話である。
とは言っても、小鬼族四匹程度なら秘密裏に保護することも不可能ではない。しかし露見した際のリスクを考えるとそれも避けたいところだ。
宰相ケイネスは勇者ユウとの話し合いの末、魔族の命を守りつつ、対外的に魔族と結託したと思われない方法を模索した。
その結果生まれたのが、“勇者特区”と呼ばれる収容地区の設立である。
収容地区、つまりそれは罪人を収容し、強制的に労働させる監獄であった。魔族領から逃亡してきた魔族を捕獲し、労働力として利用する、という体裁をとったのである。
まず小鬼族達の移動が行われた。王都から派遣された数人の兵士を引き連れ、ユウ達は年老いた母の待つ洞穴へと向かった。彼女達が本当にユウ達を信じ、待っているか、そこがまず問題であった。
果たして、小鬼族達はそこにいた。
人を襲うことをせず、森の木の実と熊の肉を喰らって彼らは凌いでいた。ユウ達が連れてきた兵士を見て、彼女らはやはり人間など信用ならなかったと交戦する構えを見せたが、その兵士らが複雑な表情ではあったものの食料を小鬼族達に投げ渡したので、その場は収まった。もし、そこに至るまでに小鬼族達が一度でも人間を襲っていたのならば、兵士は剣を抜いていた。そうならなかったのは、一重に小鬼族達が慣れない自給自足によって疲弊し、やつれていたからである。
一カ月。決して短い期間ではない。その期間の間、彼女らはレイとの約束を守った。例えそれ以外に生き残る道がなかったからだとしても、その懸命さが兵士達に剣を抜かせなかったのだ。
小鬼族達が連れて行かれたのはローダ鉱山を中心とした未開拓地区だった。諸事情によって開拓が途中で断念された森林地帯であり、鉱山の麓はその名残として木を切り倒されて確保された空間と、無人の山小屋がある。逆に言えばそれぐらいしかない場所だ。近隣の村からは距離があり、狩人などが迷い込むこともない。小鬼族達はそこで坑夫として強制労働させられることになる。
とはいっても、鉱山での採掘作業は小鬼族達だけでできるような仕事ではない。別途人間の労働者が必要だ。そこで送り込まれたのが罪人達である。
魔族と共に働かされると聞いていた罪人達の怯えようは尋常ではないものがあった。魔族を収容するような施設なのだから、きっと自分達は人間以下の生活をさせられるに違いないと思っていたからだ。しかし、いざ働き始めると彼らの予想は裏切られることになる。
まず問題の魔族達だが、よく人間の監督官の言う事を聞き、その指示に従った。もともと魔族領でも虐げれてきた彼らは何者かに従属することに先天的な慣れがあるのかもしれない。
言葉の壁は年老いた母が通訳となることで解決した。なお監督官は勤務中、常に鞘から抜いた短刀を手に持ち、年老いた母に突き付ける。もし年老いた母が呪文など唱えようならすぐに刺し殺せるようにだ。他の小鬼族達が暴走しないようにするための人質という意味もある。
だが、少なくとも今のところはその短刀が血に濡れたことはない。寧ろ年老いた母が常に監督官と共に働いている者を見ているという事態は人間の罪人達に効果的だったようで、罪人達が小鬼族達に暴力を振るうという事態の抑止に繋がっていた。小鬼族達に危害を加えれば年老いた母に殺されるのでは、と思ったからだ。
その短刀が不要になるのはそう遠くない話なのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる