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結ばれた手と手
結ばれた手と手・6
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そして労働環境だが、連れて来られた罪人達をもっとも驚かせたのはそこである。食事にしろ、労働時間にしろ、居住環境にしろ、罪人というよりは一般労働者に近い待遇だったからだ。それもそのはず、ここは収容地区である以上に“勇者特区”、つまりユウが管理する地区なのだから。彼女が提案する労働時間や労働内容などを監督官やレイ達がそれでは一般労働者より好待遇だと訂正した結果が今の労働環境だ。
つまり罪人達は魔族と共存するという条件さえ飲み込めば、通常の強制労働と比べて破格の待遇で刑期を過ごすことができたのだ。それに文句など出ようはずもなく、小鬼族達が温厚なのもあって暴力的な諍いが発生することはほとんどなかった。
もっとも、それは実際に“勇者特区”に収容されている者達のみが知っていることだ。対外的には魔族と鉱山で働かされる恐ろしい収容所を勇者が作ったともっぱらの噂で、以降犯罪の発生件数が抑制された。ケイネスとしてはそれも見越して情報統制を行わなかったので、彼の思惑通りに事が運んだと言える。
しかし切れ者のケイネスの思惑に反する事態も起こった。それは鉱山の収益である。
このローダ鉱山は廃坑だ。廃坑になったがゆえにこの地域一帯の開拓は早期に中断されることになったのだ。
廃坑になった原因は資源の枯渇ではなく、その作業の困難さだった。ローダ鉱山では魔硝石と呼ばれる希少な鉱石が発掘される。これは太古の昔の魔力が長い年月をかけ地中で結晶化したものだと考えられており、魔力に反応して特殊な反応を示す鉱石として知られている。
代表的な特徴は魔力に反応して光と熱を発すること。魔力そのものも伝導しやすく、主に粉末にして魔法式を描くことに使われる。その性質故、魔硝石が発掘される採掘場では魔法による発破作業ができない。誘爆の危険が伴うからだ。
だが完全な手作業になるにしてもその手間暇をかけて発掘する価値が魔硝石にはある。にも関わらずローダ鉱山が廃坑になったのは、坑道内に大量のスライムが発生してしまったからだ。もともと鉱山の周囲はスライムが多く生息する地域だったのだが、人間が鉱山を作り、そこから魔硝石を出土させたことで坑道内の魔力密度が増大、付近のスライムがそれに寄ってくる事態となった。
スライムを通常の武器で退治するのは難しい。しかし坑道内で魔法を使えば坑道そのものを吹っ飛ばしかねない。結果、労力に見合わない、と廃坑になったのだ。
それを承知でケイネスがそこを“勇者特区”に選んだのは、端から収益など期待していなかったからだ。だったのだが。
相変わらずローダ鉱山の坑道内には多くのスライムが居座っていた。まともに進入すれば体当たりの応酬で作業になどならない、と思われていのだが、奇妙なことにその大量のスライムが労働者にまったく体当たりしてこなかったのだ。原因は不明。ちなみにユウもさくらもちを連れて坑道内の様子を見に行ったが、そもそもユウ達が訪れる前からスライム達はそのような状態だったという。
体当たりさえしてこないのであれば、邪魔なところにいるスライムを脇にどかすだけで作業ができる。手間には変わりないが、一匹一匹外に放り出す必要がないので通常の鉱山並みの作業が可能だ。その結果、ローダ鉱山は自身の生み出す利益で運営できる程度には収益を出すにいたった。
坑道に満ちた魔力で満腹になったが故にスライムは体当たりしてこない、と考えることもできるが、それならば廃坑になどならなかったはず。この完全に無害になったスライムの様子は彼らの生態が変わったとしか思えない状態だった。
鉱山での労働が順調に行くようになると、ユウの指示により周囲一帯の開墾作業も行われるようになった。森を切り拓き、得た木材から家屋を造り、空いた場所に畑を耕す。ユウはこの場所をもっと多くの魔族を受け入れることのできる場所にしようとしていたのだ。収容施設ではなく、さながら開拓村である。しかしこちらは廃坑故にもともとある程度基盤が整っていた鉱山労働とは違い、即座に成果がでるような事業ではない。おいおいどうなっていくかはまだ分からない。特に畑などは成果が出る頃には今いる小鬼族達は寿命を全うしているかもしれない。
しかしユウは、この“勇者特区”が魔族との和解への大きな一歩になると信じていた。だからこそ長期的目線でのその開墾だった。
つまり罪人達は魔族と共存するという条件さえ飲み込めば、通常の強制労働と比べて破格の待遇で刑期を過ごすことができたのだ。それに文句など出ようはずもなく、小鬼族達が温厚なのもあって暴力的な諍いが発生することはほとんどなかった。
もっとも、それは実際に“勇者特区”に収容されている者達のみが知っていることだ。対外的には魔族と鉱山で働かされる恐ろしい収容所を勇者が作ったともっぱらの噂で、以降犯罪の発生件数が抑制された。ケイネスとしてはそれも見越して情報統制を行わなかったので、彼の思惑通りに事が運んだと言える。
しかし切れ者のケイネスの思惑に反する事態も起こった。それは鉱山の収益である。
このローダ鉱山は廃坑だ。廃坑になったがゆえにこの地域一帯の開拓は早期に中断されることになったのだ。
廃坑になった原因は資源の枯渇ではなく、その作業の困難さだった。ローダ鉱山では魔硝石と呼ばれる希少な鉱石が発掘される。これは太古の昔の魔力が長い年月をかけ地中で結晶化したものだと考えられており、魔力に反応して特殊な反応を示す鉱石として知られている。
代表的な特徴は魔力に反応して光と熱を発すること。魔力そのものも伝導しやすく、主に粉末にして魔法式を描くことに使われる。その性質故、魔硝石が発掘される採掘場では魔法による発破作業ができない。誘爆の危険が伴うからだ。
だが完全な手作業になるにしてもその手間暇をかけて発掘する価値が魔硝石にはある。にも関わらずローダ鉱山が廃坑になったのは、坑道内に大量のスライムが発生してしまったからだ。もともと鉱山の周囲はスライムが多く生息する地域だったのだが、人間が鉱山を作り、そこから魔硝石を出土させたことで坑道内の魔力密度が増大、付近のスライムがそれに寄ってくる事態となった。
スライムを通常の武器で退治するのは難しい。しかし坑道内で魔法を使えば坑道そのものを吹っ飛ばしかねない。結果、労力に見合わない、と廃坑になったのだ。
それを承知でケイネスがそこを“勇者特区”に選んだのは、端から収益など期待していなかったからだ。だったのだが。
相変わらずローダ鉱山の坑道内には多くのスライムが居座っていた。まともに進入すれば体当たりの応酬で作業になどならない、と思われていのだが、奇妙なことにその大量のスライムが労働者にまったく体当たりしてこなかったのだ。原因は不明。ちなみにユウもさくらもちを連れて坑道内の様子を見に行ったが、そもそもユウ達が訪れる前からスライム達はそのような状態だったという。
体当たりさえしてこないのであれば、邪魔なところにいるスライムを脇にどかすだけで作業ができる。手間には変わりないが、一匹一匹外に放り出す必要がないので通常の鉱山並みの作業が可能だ。その結果、ローダ鉱山は自身の生み出す利益で運営できる程度には収益を出すにいたった。
坑道に満ちた魔力で満腹になったが故にスライムは体当たりしてこない、と考えることもできるが、それならば廃坑になどならなかったはず。この完全に無害になったスライムの様子は彼らの生態が変わったとしか思えない状態だった。
鉱山での労働が順調に行くようになると、ユウの指示により周囲一帯の開墾作業も行われるようになった。森を切り拓き、得た木材から家屋を造り、空いた場所に畑を耕す。ユウはこの場所をもっと多くの魔族を受け入れることのできる場所にしようとしていたのだ。収容施設ではなく、さながら開拓村である。しかしこちらは廃坑故にもともとある程度基盤が整っていた鉱山労働とは違い、即座に成果がでるような事業ではない。おいおいどうなっていくかはまだ分からない。特に畑などは成果が出る頃には今いる小鬼族達は寿命を全うしているかもしれない。
しかしユウは、この“勇者特区”が魔族との和解への大きな一歩になると信じていた。だからこそ長期的目線でのその開墾だった。
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