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天に吠える狼少女
第一章 深窓の才妃・5
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言伝が勇者に届いてから二日後、太陽がもう少しで真上に昇ろうかという頃。
「ユーーーーウッ!」
王宮の門扉をくぐったばかりのユウ達に駆け寄る小さな人影があった。
「リンちゃん!」
久しぶり、といっても最後に会ってからせいぜい一月程度しか経過していない。しかし、初めて友人というものを得た彼女にとってその一月は一年にもそれ以上にも匹敵する時間なのかもしれなかった。
肩口で切り揃えられた金糸の髪、気位の高そうな釣り目がちの双眸。一方で豪奢なドレスの裾を翻し、喜色を満面に湛えながら走るその姿は歳相応。
リンシア・フォン・ラドカルミア。この国の王、エルガス・フォン・ラドカルミアの一人娘である。
衣装が乱れるのも構わずに、王女は勇者に抱き着いた。後を追いかけてきていた身辺警護の近衛兵が、普段の王女とはかけ離れたその愛情表現に目を丸くしている。
ひとしきり抱き着いた後、リンシアは不満げに口を尖らせた。
「ユウったら全然会いに来てくれないんだもの。私、寂しかったわ」
「あはは……ごめんなぁ。ちょっといろいろ忙しかってん」
“勇者特区”の運営についてのあれこれは宰相ケイネスが概ね管理しているが、ユウの仕事はそれに口を挟むことだ。直接現場を見て、それが適切かどうかを判断し、罪人や小鬼族達に過度な負担がかからないように意見する。その意見を現場の監督官や護衛の二人が吟味し、反映できるところは反映していく。他に小鬼族達の言葉に耳を傾けるのもユウの仕事だ。小鬼族達は罪人や警備の兵士とずいぶんコミュケーションをとるようになってきてはいるが、やはり直接和解のきっかけとなったユウには特別心を開いている。
「ところで、リンちゃんのママがうちと話をしたいって言うとるって聞いたんやけど……」
リンシアがこくりと頷く。
「そうなの。本当はユウが召喚されてすぐにお話したかったみたいだけど、ほら、お父様がすぐ旅に出しちゃったから。あの後、お母様とお父様、ちょっと喧嘩したのよ。どうして私に一言も言わずに勇者を旅に出したの!って」
まだ見ぬ王妃が鷹の目の武王と言い争っている様を想像してユウは苦笑する。あの威厳ある王も家族には頭が上がらなかったりするのだろうか。
「今から向かえばちょうどお昼頃ね。馬車を用意してあるの。さっそく行きましょ!お母様の住んでるお屋敷にはね、大きな薔薇園があるの。早くユウに見せてあげたいわ!」
そう言ってユウの手を引いて駆け出す。そこにはもはや一国の王女としての気品は残っていない。ただ友と交流することが嬉しくて仕方ない一人の少女がそこにいる。
「朝から馬車で王都まで帰ってきてんけど、もっかい馬車かぁ……」
少しばかりうんざりした様子で手を引かれるまま駆けだしたユウの後を護衛二人とさくらもちが追う。護衛というよりもはや子守だ。
リンシアに導かれるまま、一同は二頭立ての箱型馬車に乗り込んだ。馬の手綱はリンシアの近衛が握る。王家所有の煌びやかな装飾が施されたもので、通常であれば護衛の兵士が馬に乗って前後左右を固める。だが、今回に至っては不要との判断で特に護衛らしい護衛はない。王都内を横断するだけだからというのもあるが、乗り込んでいる人物が人物である。並みの襲撃者では一の騎士団の長剣と魔法師の魔法をかいくぐって王女と勇者に刃を届かせることは不可能だ。
「ユーーーーウッ!」
王宮の門扉をくぐったばかりのユウ達に駆け寄る小さな人影があった。
「リンちゃん!」
久しぶり、といっても最後に会ってからせいぜい一月程度しか経過していない。しかし、初めて友人というものを得た彼女にとってその一月は一年にもそれ以上にも匹敵する時間なのかもしれなかった。
肩口で切り揃えられた金糸の髪、気位の高そうな釣り目がちの双眸。一方で豪奢なドレスの裾を翻し、喜色を満面に湛えながら走るその姿は歳相応。
リンシア・フォン・ラドカルミア。この国の王、エルガス・フォン・ラドカルミアの一人娘である。
衣装が乱れるのも構わずに、王女は勇者に抱き着いた。後を追いかけてきていた身辺警護の近衛兵が、普段の王女とはかけ離れたその愛情表現に目を丸くしている。
ひとしきり抱き着いた後、リンシアは不満げに口を尖らせた。
「ユウったら全然会いに来てくれないんだもの。私、寂しかったわ」
「あはは……ごめんなぁ。ちょっといろいろ忙しかってん」
“勇者特区”の運営についてのあれこれは宰相ケイネスが概ね管理しているが、ユウの仕事はそれに口を挟むことだ。直接現場を見て、それが適切かどうかを判断し、罪人や小鬼族達に過度な負担がかからないように意見する。その意見を現場の監督官や護衛の二人が吟味し、反映できるところは反映していく。他に小鬼族達の言葉に耳を傾けるのもユウの仕事だ。小鬼族達は罪人や警備の兵士とずいぶんコミュケーションをとるようになってきてはいるが、やはり直接和解のきっかけとなったユウには特別心を開いている。
「ところで、リンちゃんのママがうちと話をしたいって言うとるって聞いたんやけど……」
リンシアがこくりと頷く。
「そうなの。本当はユウが召喚されてすぐにお話したかったみたいだけど、ほら、お父様がすぐ旅に出しちゃったから。あの後、お母様とお父様、ちょっと喧嘩したのよ。どうして私に一言も言わずに勇者を旅に出したの!って」
まだ見ぬ王妃が鷹の目の武王と言い争っている様を想像してユウは苦笑する。あの威厳ある王も家族には頭が上がらなかったりするのだろうか。
「今から向かえばちょうどお昼頃ね。馬車を用意してあるの。さっそく行きましょ!お母様の住んでるお屋敷にはね、大きな薔薇園があるの。早くユウに見せてあげたいわ!」
そう言ってユウの手を引いて駆け出す。そこにはもはや一国の王女としての気品は残っていない。ただ友と交流することが嬉しくて仕方ない一人の少女がそこにいる。
「朝から馬車で王都まで帰ってきてんけど、もっかい馬車かぁ……」
少しばかりうんざりした様子で手を引かれるまま駆けだしたユウの後を護衛二人とさくらもちが追う。護衛というよりもはや子守だ。
リンシアに導かれるまま、一同は二頭立ての箱型馬車に乗り込んだ。馬の手綱はリンシアの近衛が握る。王家所有の煌びやかな装飾が施されたもので、通常であれば護衛の兵士が馬に乗って前後左右を固める。だが、今回に至っては不要との判断で特に護衛らしい護衛はない。王都内を横断するだけだからというのもあるが、乗り込んでいる人物が人物である。並みの襲撃者では一の騎士団の長剣と魔法師の魔法をかいくぐって王女と勇者に刃を届かせることは不可能だ。
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