剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

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天に吠える狼少女

第一章 深窓の才妃・6

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 馬車が動き出してしばし、

「お尻痛い……」

 ユウがもぞもぞと下半身を動かしている。王家所有の馬車ということもあって、座席には厚手の布地がクッションとして敷かれているが、それでも馬車の車輪が石畳のささくれを踏むたびにそれなりの振動がくる。朝から座りっぱなしというのもあって、慣れない者には少しばかり辛いかもしれない。

「そのスライムの上に座ったら?」

 隣に座るリンシアの何気ない一言に、ユウの膝の上に乗っかっているさくらもちがぷるぷると震えた。

「いや、それはそれでバランス崩して危なそうというか、さくらもちが可哀想やって……」

「このスライム、さくらもちって言う名前なの?変な名前」

 そう言ってリンシアはさくらもちを指でつんつんと突く。名前は知らずともそのスライム自体はすでに何度も王宮で見かけているので、リンシアはこの魔物に対して嫌悪や恐怖を抱いてはいない。

「なぁなぁ、リンちゃんのママってどんな人?」

 尻の痛みを紛らわすという意味も兼ねて、ユウがリンシアに問う。

「うーん……お母様は、とっても優しいわ。いつも私のやりたいことをやりなさい、と言ってくれるの。でも、私が何かを途中で投げ出そうとすると怒るの。自分で決めたことなんだから最後までやりなさいって」

 そしてリンシアは話ながら思い出したように、

「あと、私はよく知らないけど、お母様はすごい魔法師なの!危ないからって全然魔法は見せてくれないんだけど……」

「そうなん?」

 続くユウの問いかけは座席の向かいに座る魔法師に向けられたもの。

 流れゆく王都の町並みにぼーっと視線を向けていたセラは、体勢はそのままに流し目を向けた。王族を前にしているにしては不遜が過ぎる態度だが、リンシアが特に気にする様子もなく、せいぜい隣の騎士が険しい視線を送ってくるだけなので改めるつもりはなさそうだ。

「魔法師協会じゃ有名な話よ。その魔法知識はこの国随一とか。直接行使はしていないけど、勇者召喚にも大いに寄与したそうよ」

「ほぇー、そんなすごい人なんか」

 ユウが感心した様子で呟く。実際、王族という身分にありながらも卓越したその魔法の腕、知識は他国にも知れ渡っており、“鷹の目の武王”と並び“深窓の才妃”といえばラドカルミア王国を象徴する偉人である。

 そこでふとユウは何か思いついたようにぺちりとさくらもちを叩いた。

「そんなすごい人なら、うちの勇者の力について何か知っとんちゃうかな」

 その可能性を考慮していなかったのか、セラは眠たげだった瞳を見開いた。

「……確かに。だから今になってユウを呼び出したのかも……」

「なんでもいいが、頼むから王妃殿下の前で無礼な態度はやめてくれよ……」

 剣技のみならず礼儀作法にも精通している一の騎士団ナイツ・オブ・ザ・ワンの騎士が苦言を呈するが、勇者と魔法師にはどこ吹く風である。
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