剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

文字の大きさ
53 / 115
天に吠える狼少女

第一章 深窓の才妃・10

しおりを挟む
「かいみゃく?」

 聞き慣れない単語にユウが聞き返す。魔法に疎いレイが知らないのは当然として、セラも聞いたことがない単語だった。

「“界脈”とは文字通り世界の脈動。世界が大きく動いた時、変化した運命が世界全体に行き渡る脈拍の余波。分かりやすく言えば、界律魔法が行使された際に発生する現象です。勇者召喚の時にも確認されていますよ」

「やっぱり……」

 小さく呟いたのはセラ。ユウの力は界律魔法並みのものではないかと彼女は以前から疑っていた。

 だが本当に界律魔法だと分かった衝撃は計り知れない。それは本来、準備に何年もかけ、王国屈指の魔法師が数人がかりで行使する術なのだから。

「ではやはり、スライムや小鬼族ゴブリンが大人しくなったのは勇者の力で間違いないわけですね。魔物、魔族を種族全体ごと大人しくする界律魔法……それを行使できるのが勇者の力……」

 感極まったようにレイはそう溢した。いまだ確証のなかった希望が、眩いばかりの光を放ちだす。魔族との争いが終結し、人々が恐怖に怯えることなく生を謳歌できる、そんな夢物語のような未来への道が拓かれた。

 だが、騎士であるレイ以上にそれを望んでいるはずの王妃は否定の言葉を紡いだ。

「いいえ。勇者の力が界律魔法を行使できるということは確かでしょうが、それの効力は魔族を大人しくする、といったものではないでしょう」

 おそらくラドカルミアでもっとも界律魔法に詳しいであろう魔法師が続ける。

「界律魔法は運命に作用する魔法。目に見えない大いなるものに作用する力なのです。そんな目に見えた効力はありません」

 だからこそ、そんな曖昧模糊としたものだからこそ、今まで乱用されることがなかったのであり、魔族がそれを用いることもない。

「運命を変える、とは言いかえるならば“可能性”を生み出す、とも言いかえる事ができます。――勇者ユウ」

 不意に名を呼ばれたユウがびくんとして身構える。しかし、セルフィリアの視線はユウの顔から落ち、その膝の上へ。

 いつも勇者の側にいて、決して暴れることのない彼女の異形の友人、さくらもちへと。

「貴女はそのスライムを抱いたとき、そして“勇者特区”にいる小鬼族の母と手を結んだ時、何を想いましたか?どのような“可能性”を願い、求めましたか?それを生み出す力が貴女の力なのではないかと、私は思います」

 ユウも視線を落してさくらもちを見やった。相変わらずその友人は時折プルプルと震えるだけで何も語らない。語る術を持たない。

 最初は、生き物への慈愛以上の感情はなかった。生きていると思ったから、死んでほしくなった。だが今は違う。この薄桃色の中には確かな意思があるとユウは確信している。言葉も多少は理解しているのではないかと思っている。ユウがさくらもちへ抱いている感情はもはや慈愛ではなく愛情であり親愛だ。

 湖のスライム達がセラの魔法によって駆除されようとしている時、ユウは嘆いた。命を奪う以外の方法はないのかと、人間とスライムが仲良く生きていける方法はないのだろうかと探し求めた。

 そう、ユウは仲良くしたかったのだ。それこそが善いことだと信じているから。

 であるならば、あの時、ユウが願った可能性は――

 その時、控えめに扉がノックされると年配の侍女がしずしずと入室し、セルフィリアに耳打ちした。

 一つ頷いたセルフィリアがユウ達に向き直る。

「今日は招きに応じてくれてありがとう。とても興味深い話を聞けたわ。でももうお開きね。屋敷に籠っていても、公務は隙間風のように忍び寄ってくるの。リンシア」

 と、母が隣の娘を見やると、金髪が同じテンポで前後に揺れていた。退屈で舟を漕いでいるようだ。

「え、あ、寝てないわよ?」

 名前を呼ばれたことで覚醒したのか、慌てて取り繕うが母は苦笑しつつ窘める。

「いけませんよ。王族である以上、上辺だけで何も心の籠っていない賛辞を何時間も聴かされることもあります。そういう時、今のように舟を漕いでいては相手の心象を悪くしますよ。……それはともかく、今日はもう貴女の友達は返します。好きに遊ぶといいでしょう。それと、せっかくだから今日は泊まっていきなさい。久しぶりに貴女の寝顔を見せてちょうだい。もちろん友達もね」

 そう言ってユウに微笑みかけるセルフィリアは、深窓の才妃という仰々しい肩書きなどない、初めて娘が友達を家に連れてきたことを喜ぶ母親以上の何者でもなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...