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天に吠える狼少女
第一章 深窓の才妃・13
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窓から月明かりが差し込み、影の輪郭を露わにする。
短刀のみならず、その全身が黒の衣装に包まれていた。口元も布で覆われ判然としない。肌の露出も少なく、分かるのは体格から成人の男だと言う事だ。その体躯は細く筋肉質、極限まで絞り込まれている。先ほど咄嗟に跳びのいた反射神経といい、こういった荒事を生業としている身体つき。
幻影の魔法は明らかにその男が部屋に侵入する前にかけられていたものだ。つまり、部屋に侵入される前からセラはその襲撃者の存在に気づいていたということになる。なぜ気付かれたかは男には分からなかったが、今はそれを考えるている時間はない。
「……………」
無言で男は黒塗りの短刀を構えた。相手は魔法師一人、先ほどは不意を突かれたが本来護衛のいない魔法師などたいした脅威ではない。魔法が行使されるより、その刃が相手の喉を裂くほうがよほど早い。
「シャッ!」
鋭い呼気を吐いて影が躍りかかった。目標は魔法師。黒髪の少女を始末するのは邪魔者を排除してからでも遅くない。
まだベッドの上の女は何の武装もしていない。その寝間着に武器を隠しているようにも思えない。丸腰。だからこそ生じた油断。セラが不意に背中から何かを投擲したことで男は反射的に立ち止まってそれを短刀で斬り払った。
鋭利な刃物によって真っ二つに斬断された布地、ただの枕――
「オオーッ!」
その一瞬の硬直に部屋に突入する新たな人物、もう一人の勇者の護衛、レイ。
突入の勢いのまま、ベッドに片足を乗せて薙ぐように振るわれた左の拳を男は上体を深く沈めることによりすんでのところで回避、続けて高所から打ち下ろすように振るわれる右の拳を避けるために背後へと跳ぶ。恐ろしく軽く、そして素早い身のこなし、男がかなりの使い手であることはもはや間違いない。
距離をとって相対した襲撃者と二人の護衛。武器を持っているのは襲撃者だけだが、後から来た護衛が徒手空拳でも侮れない相手だということは今の攻防で明らかだ。
形勢不利。そもそもこの護衛とやり合う愚を避けるための夜間の襲撃である。暗殺が失敗した以上、もはや襲撃者に勝ち目は薄い。
そう判断してからの男の行動は速かった。
「――シャアッ!」
短刀を持った腕が振るわれる。同時に窓へ向けて男が走った。
「チッ!」
投擲された黒刃をレイが素手で叩き落とした。避ければセラに直撃してしまう。無理矢理進む方向を変えられた刃がベッドに突き刺さった。
響く破砕音、男は躊躇なく身体で硝子を砕いて二階の窓から中庭の宙へと飛び出した。レイが追うが、もはやその手は届かない。
男は着地と同時、両手両足で大地を強く押す。落下の衝撃を横へ流しつつ、地面をぐるぐると転がった。そのまま何事もなくすっくと立ちあがる。強靭な身体の柔軟性と三半規管、さしものレイもその鮮やかな着地には舌を巻いた。
だが、男が走り出そうとした、その刹那。
「よぉ、どこ行くんだよ」
短刀のみならず、その全身が黒の衣装に包まれていた。口元も布で覆われ判然としない。肌の露出も少なく、分かるのは体格から成人の男だと言う事だ。その体躯は細く筋肉質、極限まで絞り込まれている。先ほど咄嗟に跳びのいた反射神経といい、こういった荒事を生業としている身体つき。
幻影の魔法は明らかにその男が部屋に侵入する前にかけられていたものだ。つまり、部屋に侵入される前からセラはその襲撃者の存在に気づいていたということになる。なぜ気付かれたかは男には分からなかったが、今はそれを考えるている時間はない。
「……………」
無言で男は黒塗りの短刀を構えた。相手は魔法師一人、先ほどは不意を突かれたが本来護衛のいない魔法師などたいした脅威ではない。魔法が行使されるより、その刃が相手の喉を裂くほうがよほど早い。
「シャッ!」
鋭い呼気を吐いて影が躍りかかった。目標は魔法師。黒髪の少女を始末するのは邪魔者を排除してからでも遅くない。
まだベッドの上の女は何の武装もしていない。その寝間着に武器を隠しているようにも思えない。丸腰。だからこそ生じた油断。セラが不意に背中から何かを投擲したことで男は反射的に立ち止まってそれを短刀で斬り払った。
鋭利な刃物によって真っ二つに斬断された布地、ただの枕――
「オオーッ!」
その一瞬の硬直に部屋に突入する新たな人物、もう一人の勇者の護衛、レイ。
突入の勢いのまま、ベッドに片足を乗せて薙ぐように振るわれた左の拳を男は上体を深く沈めることによりすんでのところで回避、続けて高所から打ち下ろすように振るわれる右の拳を避けるために背後へと跳ぶ。恐ろしく軽く、そして素早い身のこなし、男がかなりの使い手であることはもはや間違いない。
距離をとって相対した襲撃者と二人の護衛。武器を持っているのは襲撃者だけだが、後から来た護衛が徒手空拳でも侮れない相手だということは今の攻防で明らかだ。
形勢不利。そもそもこの護衛とやり合う愚を避けるための夜間の襲撃である。暗殺が失敗した以上、もはや襲撃者に勝ち目は薄い。
そう判断してからの男の行動は速かった。
「――シャアッ!」
短刀を持った腕が振るわれる。同時に窓へ向けて男が走った。
「チッ!」
投擲された黒刃をレイが素手で叩き落とした。避ければセラに直撃してしまう。無理矢理進む方向を変えられた刃がベッドに突き刺さった。
響く破砕音、男は躊躇なく身体で硝子を砕いて二階の窓から中庭の宙へと飛び出した。レイが追うが、もはやその手は届かない。
男は着地と同時、両手両足で大地を強く押す。落下の衝撃を横へ流しつつ、地面をぐるぐると転がった。そのまま何事もなくすっくと立ちあがる。強靭な身体の柔軟性と三半規管、さしものレイもその鮮やかな着地には舌を巻いた。
だが、男が走り出そうとした、その刹那。
「よぉ、どこ行くんだよ」
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