剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

文字の大きさ
76 / 115
天に吠える狼少女

第三章 自然と共に生きる者達・1

しおりを挟む
「なぁにぃ!?失敗しただと!?」

 勇者一行が向かっている教皇領。そこに存在する豪華絢爛な調度品の数々に彩られた大豪邸の一室。ローティス教の枢機卿の一人、アムディールが部下からの報告に憤慨して、その贅肉まみれのはち切れそうな体躯を震わせた。いくらローティス教が人間の文化的な建築や芸術を否定していないとはいえ、自然を敬愛するローティス教の聖職者であるにも関わらずここまで装飾過多な屋敷に住めるのはその面の皮の厚さ故か。

「そ、それで、失敗した暗殺者はどうなった!?」

 勢いのあまり跳び散らかされた唾液に顔を汚されながらも、司祭を示す衣装に身を包んだ中年男性の部下、オドムントは顔色一つ変えない。慣れたものなのである。それに、日頃この太った枢機卿から受けている金銭的な補助と便宜を考えればこの程度はなんら気にならない。部下からの信頼を得るためにこの枢機卿は金を惜しんだりしない。しかも金銭で言う事を聞く者とそうでない者をその肉に埋まった鼻で的確にかぎ分けて、必要な相手に必要なだけ金をばら撒くのだ。宗教屋よりも商人の方がよっぽど向いていると彼を知る全ての者は思っている。

「はい、その後拘束された暗殺者ですが、意識が戻るなり奥歯に仕込んだ毒で自害したようです。さすがはプロ、といったところですな」

 二人が交わしている話は紛れもなく先日、勇者を狙ってラドカルミア王妃セルフィリアの屋敷に忍び込んだ襲撃者の話だった。

 結果としてのその襲撃は失敗し、襲撃者はディナによって捕らえられた。その後、その身柄はセルフィリアへと引き渡されたのだが。あとはオドムントの語った通りである。依頼主や所属組織についての情報を吐き出させる前に自らその命を絶ってしまった。職業的暗殺者、人の命を奪うことを生業とする彼らは自分の命を奪うことにも躊躇がない。

 オドムントの報告を聞いたアムディールはホッとしたように胸を撫で降ろし、深く椅子に身を沈めた。その肉の重さに高級品の椅子がぎしりと悲鳴を上げる。近いうちにまた新しい椅子を発注する必要がありそうだと手ぬぐいで顔を拭いながらオドムントは思った。

「もし儂が王妃の館に暗殺者を差し向けたなどと知れれば、今の立場どころか命すら危うい……。まったく、とんでもないタイミングで仕掛けおってからに……」

 アムディールは確かに勇者の暗殺を依頼した。だが、そのタイミングまでは指定していなかった。おそらく通常ならば王族の住居などという危険な場所に目標ターゲットがいるタイミングを狙ったりなどしなかったのだろう。しかしアムディールは知る由もないが、王族の住まいとは思えないほどにそこは警備が薄かった。だからこそチャンスだと暗殺者は忍び込んだのだ。そこが薔薇の城塞とも知らずに。

「勇者暗殺などもうお止めになっては。リスクを負ってまで枢機卿殿がやるべきこととは思えません」

 オドムントが苦言を呈した。彼としては、甘い汁を吸わせてくれるアムディールに失墜して欲しくなかったし、有事の際にはその部下である自分も芋蔓式に処罰されかねない。

 しかし、アムディールはテーブルに置かれた杯から上質な葡萄酒を味わいもせず嚥下すると、手の甲で口を拭いながら言う。

「……どうにも気にかかる」

「は?」

「“勇者特区”のことを話した時、教皇の様子が妙だった。あれほど饒舌な姿は見たことがない」

 教皇、セムジ二世は他の信徒からあまり評判のよくないアムディールを高く評価している節がある。それは、アムディールのこのような一面を知っているからなのかも知れなかった。金銭への嗅覚然り、今のように他人の内心を読み取る術に長けている点然り。しかし、今ばかりはそれが裏目に出ようとしていた。

 ふと、オドムントは思い出す。

「ああ、教皇で思い出しましたが、ラドカルミア王妃の館にて暗殺者を撃退したのは異端審問官だと観測者ウォッチャーから報告を受けておりました」

「なぁ!?なぜそれを最初に言わんッ!」

「聞かれませんでしたので……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...