剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

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天に吠える狼少女

第三章 自然と共に生きる者達・7

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「――あたしがラドカルミアに行く前のことだ」

 状況が分からないユウ達に向けてディナが肩越しに語る。

「教皇領で一体の魔族が発見され、殺された。さっきの組紐は、その魔族が腕につけていたものだ」

「俺達狼人族ウルフェンの親はな、集落から自分の子が出ていく時に自分の尾の毛を編み込んだ組紐を持たせるんだ。それがありゃあ別の集落でも身分が証明される。何より、子にとっちゃかけがえのない親との絆だ」

 話を引き継いだ族長の説明で全てを、今しがた自分に向けられた視線の意味を理解したユウは、

「じゃあ、さっきの人は……」

「エディモと、その妻のアッファナだ。殺されたのはその息子のアシャルカ」

「……保護区の外に出たのか」

 レイのその呟きから、そんなことをすれば当然だ、というニュアンスを嗅ぎ取ってディナはその両手を握りしめる。

「――そうだ。人間はこいつらを見つければ躊躇なく殺そうとする。だから狼人族はこの大森林保護区から出れねぇ。でも、ここは若い連中には狭すぎるッ」

 限界がきつつある、と以前ディナはユウ達に言った。その限界の予兆がこの一幕なのだろう。

 彼らの祖先は安住の地を求めてここへとやってきた。そして教皇の庇護の下、大森林保護区という限られた土地にそれを見出した。以前を知る者達にとってはここは安住の地だったのだろう。だが、ここで生まれた新たな命には、ここしか知らない若者にとっては保護区という名の牢獄に他ならないのだろう。世代を跨ぐことによる感性の変化。知性ある生き物が広大な世界を前にして好奇心の獣を押さえつけることなどできようものか。

 しかし人間は彼らが外へ出ることを許さない。

 行き場のない感情に肩を震わせるディナに黒い毛に覆われた大きな手が置かれる。

「すまねぇ……あたしが最初にアシャルカを見つけられてれば……」

「何言ってんだ。てめぇ一人でこの森を見張るなんてできるわけねぇだろ。それに、アシャルカも、エディモもアッファナも。こうなるかもしれねぇことは承知の上だ。てめぇが責任感じるようなことじゃねぇんだよ」

 そう言って梯子を登る。登りながら横目でユウ達を見やり顎でクイッと家の中を指す。付いて来いということらしい。

 一同が家の中に入ると不思議な香りが鼻孔を擽った。植物の葉を屋根に利用しているため、虫が湧かないように内側から香草を燃やした煙で燻してあるのだ。木で組まれた足場は、大柄な族長が歩いても軋みもせず頑丈。見た目以上に頑健に作られている。中も広く天井も高いが、さすがに族長、ディナ、ユウ(さくらもち)、レイ、セラの大所帯が入ると窮屈な感じは否めない。円になって座るとお互いの膝頭が触れ合う距離。当然だが明かりはない。ただ屋根に開閉式の押し戸が取りつけられており、今日のように晴れた日にはそれを全開にすることで陽光を取り入れることができる。葉を透過することによって淡い色合いとなったものと合わせて生活には支障がないレベルの明かりは得られるようになっていた。

「さて、と。まぁ、まずは茶でも飲め」

 と、もっとも奥まった位置に座る族長が陶器の容器に入った飲料を、同じく陶器のコップに注いでいく。それを隣に座るディナが慣れた様子で皆へと分配していく。

 特に警戒するでもなく、濁った茶色をしたそれを口に運んだユウは眉を顰めて首を捻る。植物の煮汁であることは間違いないが、今まで口にしたことのない妙な味と香りがする。レイとセラもおおむね似たような反応だ。ディナだけは特に表情を変えることもなく口に運んでいる。

「まだ名乗っていなかったな。俺はこの集落をまとめる族長のテヴォ。あんたらは?」

 テヴォと名乗った狼人族に促され、ユウ達が名乗るとテヴォは一つ頷き、

「それで、あんたらがここに来たわけを聞こうか」

「あー、ちょとまち。その前に訊きたいことがあんねん」

 話を遮ってユウがずっと疑問に思っていたことを口に出した。
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