83 / 115
天に吠える狼少女
第三章 自然と共に生きる者達・8
しおりを挟む
「ディナちゃんやぁ、最初、テヴォさんに会った時、親父言うてたな?それに、その腕にある組紐……。なんや他の人達ともえらい仲ええみたいやし、どういう関係、なんかなって」
それはレイとセラも気になっていた。人間と魔族という垣根を抜きにしたとしてもディナと彼らの関係はかなり親密に見える。それこそ同族、家族のようだ。
「なんでぃ、まだ言ってなかったのか。ディナは俺の娘だよ」
「もちろん血は繋がってねぇけどな」
すぐさまディナは補足する。人間と魔族の混血児が存在する、という話はレイもセラも聞いたことがない。生物的に可能なのかどうかすら不明だ。
「あたしは……まだ物心つく前にこの森に捨てられたんだよ。いや、捨てられた、とはちょっと違うか」
自身の腕に巻かれた組紐を触りながらディナは語る。
「理由は分からねぇ。ただ、あたしの母親は生まれて間もないあたしを抱いてこの森の中で倒れていたらしい。傷だらけだったそうだ。何者かに襲われて逃げてきたって感じだったらしい。それを見つけたのが親父達さ。母親はすぐに事切れちまったが、まだ命があったあたしを親父達が育ててくれた。練め……練魔行も親父達から教わったのさ。狼人族の戦士は皆練魔行の使い手だからな」
レイに指摘したのとは逆の言い回し。
「太らせて喰っちまおうと思ったのさ!それがなんでぃ、こんなガリガリになっちまいやがって!しかもどんどん強くなりやがる!仕方ねぇから俺の娘にしてやったのさ!」
「んだと!あたしが、娘になってやったんだ!族長の娘っていや拍が付くと思ったからな!」
よくもまぁ、それほど楽しそうに悪態をつけるものだとセラは感心しつつ、また茶を一口。首を傾げる。美味しいともまずいとも言えない。
「ともかく、その内定期的に様子を見に来る教皇にあたしのことは知れた。教皇はすぐにでもあたしを引きとろうとしたが……」
「拾った手前、すぐに放り出しちまうのはな」
「待て、教皇がここに来るのか」
現教皇のセムジ二世はもうかなりの高齢のはずだ。何より教皇がわざわざこんな森の奥地まで来ることにレイは違和感を感じる。他の信徒からも何かあるのでは、と勘繰られるのではないか。
「流石に最近はもう来ねぇがな。名目上は森林浴、森の中での瞑想だ。実際は狼人族の様子見と、塩とか香辛料の取引。そればかりは森の中じゃ手に入らねぇ。んで、狼人族はその対価として森で採れた稀少な薬草を渡す。聞いたことないか?ローティスの秘薬の話」
「まさか、神秘の秘薬の出所がここだったとは……」
それはとても有名な話だ。多くの医者が匙を投げた病人が教皇領を訪れ、教皇が自ら調合した薬を飲むとたちまち病はその身体から去ったと。有名ではあるが、多くの者は信者を増やすための作り話だろうと思っている。しかし実際にそれで病が治ったと公言してはばからない者もおり、たとえ眉唾でも一縷の望みをかけて教皇領を訪れる者は後を絶たないという。
思わぬ真実を知りレイは唸る。自分が魔族を斃すことしか考えていない間にも、彼らの知恵で命を救われる人間がいた。
「話を戻すがな、こいつは人間だ。外へ出ても何も咎められることはねぇ。だったら一度は外の世界を見てみるべきだ。そのうえで、これからどう生きるか決めればいい」
「――って言うもんだからよ。七歳の時にあたしは外に出る決心をした。この組紐はその時にな。んで、孤児院で神学と人間の世界の勉強をして、教皇に勧められて異端審問官さ。異端審問官ならローティス教の権威の届く範囲ならどこでも自由に出入りできる。大森林保護区とかな」
そこまでの話を聞き終えたユウは、感銘を受けた様子でディナのことを見やり、
「壮絶な人生を歩んできたんやね……」
「それはお前も大概だろうが」
ディナは一息に茶を飲み切る。ユウ達にとっては微妙な味のその飲み物もディナにとっては懐かしい生家の味なのだろう。
「親父、このユウはな。ここの世界の生まれじゃない。別の世界から召喚されてきた勇者なんだよ。ラドカルミア王国の勇者召喚という界律魔法でな」
テヴォの片眉が上がる。
「妙な奴だとは匂いで分かるが、別の世界たぁ信じられねぇな。しかもこんな娘っ子が勇者ときた。まぁ何だろうがどうでもいいが」
言葉通り、そのことに関してテヴォはさして関心はなさそうだ。もとより人間と魔族の抗争から離れるように生きてきた種族が狼人族。勇者だなんだということにも縁がないのだろう。
「で、その勇者がいったい俺達に何の用だ?」
身を乗り出してユウが口を開く。
「うちと一緒に、この森の外に行かへんか?」
それはレイとセラも気になっていた。人間と魔族という垣根を抜きにしたとしてもディナと彼らの関係はかなり親密に見える。それこそ同族、家族のようだ。
「なんでぃ、まだ言ってなかったのか。ディナは俺の娘だよ」
「もちろん血は繋がってねぇけどな」
すぐさまディナは補足する。人間と魔族の混血児が存在する、という話はレイもセラも聞いたことがない。生物的に可能なのかどうかすら不明だ。
「あたしは……まだ物心つく前にこの森に捨てられたんだよ。いや、捨てられた、とはちょっと違うか」
自身の腕に巻かれた組紐を触りながらディナは語る。
「理由は分からねぇ。ただ、あたしの母親は生まれて間もないあたしを抱いてこの森の中で倒れていたらしい。傷だらけだったそうだ。何者かに襲われて逃げてきたって感じだったらしい。それを見つけたのが親父達さ。母親はすぐに事切れちまったが、まだ命があったあたしを親父達が育ててくれた。練め……練魔行も親父達から教わったのさ。狼人族の戦士は皆練魔行の使い手だからな」
レイに指摘したのとは逆の言い回し。
「太らせて喰っちまおうと思ったのさ!それがなんでぃ、こんなガリガリになっちまいやがって!しかもどんどん強くなりやがる!仕方ねぇから俺の娘にしてやったのさ!」
「んだと!あたしが、娘になってやったんだ!族長の娘っていや拍が付くと思ったからな!」
よくもまぁ、それほど楽しそうに悪態をつけるものだとセラは感心しつつ、また茶を一口。首を傾げる。美味しいともまずいとも言えない。
「ともかく、その内定期的に様子を見に来る教皇にあたしのことは知れた。教皇はすぐにでもあたしを引きとろうとしたが……」
「拾った手前、すぐに放り出しちまうのはな」
「待て、教皇がここに来るのか」
現教皇のセムジ二世はもうかなりの高齢のはずだ。何より教皇がわざわざこんな森の奥地まで来ることにレイは違和感を感じる。他の信徒からも何かあるのでは、と勘繰られるのではないか。
「流石に最近はもう来ねぇがな。名目上は森林浴、森の中での瞑想だ。実際は狼人族の様子見と、塩とか香辛料の取引。そればかりは森の中じゃ手に入らねぇ。んで、狼人族はその対価として森で採れた稀少な薬草を渡す。聞いたことないか?ローティスの秘薬の話」
「まさか、神秘の秘薬の出所がここだったとは……」
それはとても有名な話だ。多くの医者が匙を投げた病人が教皇領を訪れ、教皇が自ら調合した薬を飲むとたちまち病はその身体から去ったと。有名ではあるが、多くの者は信者を増やすための作り話だろうと思っている。しかし実際にそれで病が治ったと公言してはばからない者もおり、たとえ眉唾でも一縷の望みをかけて教皇領を訪れる者は後を絶たないという。
思わぬ真実を知りレイは唸る。自分が魔族を斃すことしか考えていない間にも、彼らの知恵で命を救われる人間がいた。
「話を戻すがな、こいつは人間だ。外へ出ても何も咎められることはねぇ。だったら一度は外の世界を見てみるべきだ。そのうえで、これからどう生きるか決めればいい」
「――って言うもんだからよ。七歳の時にあたしは外に出る決心をした。この組紐はその時にな。んで、孤児院で神学と人間の世界の勉強をして、教皇に勧められて異端審問官さ。異端審問官ならローティス教の権威の届く範囲ならどこでも自由に出入りできる。大森林保護区とかな」
そこまでの話を聞き終えたユウは、感銘を受けた様子でディナのことを見やり、
「壮絶な人生を歩んできたんやね……」
「それはお前も大概だろうが」
ディナは一息に茶を飲み切る。ユウ達にとっては微妙な味のその飲み物もディナにとっては懐かしい生家の味なのだろう。
「親父、このユウはな。ここの世界の生まれじゃない。別の世界から召喚されてきた勇者なんだよ。ラドカルミア王国の勇者召喚という界律魔法でな」
テヴォの片眉が上がる。
「妙な奴だとは匂いで分かるが、別の世界たぁ信じられねぇな。しかもこんな娘っ子が勇者ときた。まぁ何だろうがどうでもいいが」
言葉通り、そのことに関してテヴォはさして関心はなさそうだ。もとより人間と魔族の抗争から離れるように生きてきた種族が狼人族。勇者だなんだということにも縁がないのだろう。
「で、その勇者がいったい俺達に何の用だ?」
身を乗り出してユウが口を開く。
「うちと一緒に、この森の外に行かへんか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる