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天に吠える狼少女
第三章 自然と共に生きる者達・9
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「――なに?」
森の外、すなわち人間の世界。魔族が一度足を踏み入れればたちまち人間に見つかって殺されてしまう場所。つい先日もそれで命を失った者がいる。
「うちな、人間と魔族は、もっと仲良ぉできると思うねん。今はお互いのことを知らな過ぎて、殺し合ってしもうてるけど、もっとお互いのことを知れば、お互いが怖いものじゃなくなれば。手を取り合って一緒に生きていくことができると思うねん」
「ほぉん、妙なことをいう嬢ちゃんだ。だが、俺達は元から争うつもりなんてないんだがな。人間が勝手に怖がって襲ってくるだけだ」
相手が襲ってくるから。どこかで聞いたようなフレーズにレイは不思議な感慨を覚えた。それはレイがここに来る道中の馬車の中でディナに行った台詞であったからだ。
「うん。だから、怖がらんように皆のことを他の人間に知ってもらう必要がある。やから、“勇者特区”に来てほしいねん」
「なんでぃそりゃ」
その問いにはディナが代わりに答える。
「この勇者が作った、人間と魔族が共に生きれる場所さ。すげぇぞ!もうすでに人間と小鬼族が一緒に暮らしてるんだ!」
「ほぅ、小鬼族が」
それがどれほど奇跡的なことか。小鬼族を知る者ならば理解できよう。彼らは人間が組み敷けるような者達ではない。人間の言う事を聞くぐらいなら自滅覚悟で攻撃してくるような者達だ。
「人間と魔族はお互いのことを知らんだけや。お互いを知って、どちらかがまず武器を降ろせば争いは終わるんや。うちは小鬼族の婆ちゃんと話してそれがよぉ分かった」
我が子への愛情。魔族にもそれがあることをあの老小鬼族は教えてくれた。それを知ってしまったが故にレイは武器を降ろした。そして知るきっかけを作り出したのは紛れもなくこの異世界からやってきた少女だ。
「もっと魔族のことについて人間が知ることができたら……きっと争いはなくなっていく。逆もきっとそう。姿や生き方が違うってのは、恐ろしいことやないって皆が分かれば、きっと世界は変わる。争いは、誰かを傷つけることはアカンことなんやから」
〈世界を救う者〉、勇者。彼女の救う世界は人間のみにあらず。人間と魔族、双方の平和をユウは望んでいる。そんな誰もが一笑に付すような世界平和への第一歩が、すでに“勇者特区”という形で成されていた。
「なぁ親父、もう限界なんだろ?集落の若いのは皆外に出たがってる。“勇者特区”で、人間と共に生きる道を探してみないか。今はまだ“勇者特区”から魔族が外に出ることはできないが、いずれは狼人族が人間領のどこを歩いても殺されないような世界になる。そうだろ?」
魔族に育てられた少女の言葉に黒髪の勇者が強く頷く。
「時間はかかるかもしれんけど、必ずそうしてみせる。やから、その手伝いをしてほしい」
そして彼女は前に出てその華奢な右手を差し出した。もう小鬼族に殴られたことによってできた傷はない。
その手をジッと見つめつつ、テヴォは
「……その“勇者特区”とやらにすでに小鬼族がいるのは分かった。だが、そこにいる人間はどんなやつらなんだ。嬢ちゃんと同じ考えの人間がそんなにたくさんいるのかい」
静観しているセラは内心舌を巻く。流石は族長、目をつける所が鋭い。
「今はうちらと警備の兵士以外は悪いことした人達やけど、いずれは、もっとたくさんの人も……」
「無理矢理魔族と暮らさせてるってわけかい。しかも罪人ときた。俺達魔族は何もしねぇでも罪人と同列ってわけだ。そんな場所に好き好んで行くやつがどこにいる」
「それは……」
差し出された右手が力なく降ろされる。テヴォの言葉がどうしようもなく真実だったからだ。
森の外、すなわち人間の世界。魔族が一度足を踏み入れればたちまち人間に見つかって殺されてしまう場所。つい先日もそれで命を失った者がいる。
「うちな、人間と魔族は、もっと仲良ぉできると思うねん。今はお互いのことを知らな過ぎて、殺し合ってしもうてるけど、もっとお互いのことを知れば、お互いが怖いものじゃなくなれば。手を取り合って一緒に生きていくことができると思うねん」
「ほぉん、妙なことをいう嬢ちゃんだ。だが、俺達は元から争うつもりなんてないんだがな。人間が勝手に怖がって襲ってくるだけだ」
相手が襲ってくるから。どこかで聞いたようなフレーズにレイは不思議な感慨を覚えた。それはレイがここに来る道中の馬車の中でディナに行った台詞であったからだ。
「うん。だから、怖がらんように皆のことを他の人間に知ってもらう必要がある。やから、“勇者特区”に来てほしいねん」
「なんでぃそりゃ」
その問いにはディナが代わりに答える。
「この勇者が作った、人間と魔族が共に生きれる場所さ。すげぇぞ!もうすでに人間と小鬼族が一緒に暮らしてるんだ!」
「ほぅ、小鬼族が」
それがどれほど奇跡的なことか。小鬼族を知る者ならば理解できよう。彼らは人間が組み敷けるような者達ではない。人間の言う事を聞くぐらいなら自滅覚悟で攻撃してくるような者達だ。
「人間と魔族はお互いのことを知らんだけや。お互いを知って、どちらかがまず武器を降ろせば争いは終わるんや。うちは小鬼族の婆ちゃんと話してそれがよぉ分かった」
我が子への愛情。魔族にもそれがあることをあの老小鬼族は教えてくれた。それを知ってしまったが故にレイは武器を降ろした。そして知るきっかけを作り出したのは紛れもなくこの異世界からやってきた少女だ。
「もっと魔族のことについて人間が知ることができたら……きっと争いはなくなっていく。逆もきっとそう。姿や生き方が違うってのは、恐ろしいことやないって皆が分かれば、きっと世界は変わる。争いは、誰かを傷つけることはアカンことなんやから」
〈世界を救う者〉、勇者。彼女の救う世界は人間のみにあらず。人間と魔族、双方の平和をユウは望んでいる。そんな誰もが一笑に付すような世界平和への第一歩が、すでに“勇者特区”という形で成されていた。
「なぁ親父、もう限界なんだろ?集落の若いのは皆外に出たがってる。“勇者特区”で、人間と共に生きる道を探してみないか。今はまだ“勇者特区”から魔族が外に出ることはできないが、いずれは狼人族が人間領のどこを歩いても殺されないような世界になる。そうだろ?」
魔族に育てられた少女の言葉に黒髪の勇者が強く頷く。
「時間はかかるかもしれんけど、必ずそうしてみせる。やから、その手伝いをしてほしい」
そして彼女は前に出てその華奢な右手を差し出した。もう小鬼族に殴られたことによってできた傷はない。
その手をジッと見つめつつ、テヴォは
「……その“勇者特区”とやらにすでに小鬼族がいるのは分かった。だが、そこにいる人間はどんなやつらなんだ。嬢ちゃんと同じ考えの人間がそんなにたくさんいるのかい」
静観しているセラは内心舌を巻く。流石は族長、目をつける所が鋭い。
「今はうちらと警備の兵士以外は悪いことした人達やけど、いずれは、もっとたくさんの人も……」
「無理矢理魔族と暮らさせてるってわけかい。しかも罪人ときた。俺達魔族は何もしねぇでも罪人と同列ってわけだ。そんな場所に好き好んで行くやつがどこにいる」
「それは……」
差し出された右手が力なく降ろされる。テヴォの言葉がどうしようもなく真実だったからだ。
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