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天に吠える狼少女
第四章 招かれざる者・3
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「――なるほど、確かにそうだ。だがここにあんな連中遣わすのは教皇じゃねぇ。あのデブかぁ!」
村の入り口に侵入者達の姿があった。白地に緑の刺繍が施された修道服に胸部を護る板金鎧、手には一本の長槍。その姿はまさしくローティス教の聖堂騎士を示している。数はおよそ十。教皇ないし彼と志を同じくする者がこの集落を訪れる時はそんな物々しい装備の兵士を伴ったりしない。
彼らは集落を亜然として見回していた。人間領、それも教皇が不可侵と定め護ってきた大森林保護区の中にこのような魔族の集落があったとは。
彼らの隊長と思しき先頭の男がこちらを険しい目つきで睨むおぞましい黒毛の魔族達を見つけ、喉の奥からひっと悲鳴を漏らした。恐怖から道中で見つけたお守りを握る腕に力が籠る。そして震える逆の手で腰のナイフを引き抜いてお守りに突きつけた。この場にあっては神の加護などよりよほど信頼できるそのお守りを。
「匂いで、分からなかったのか……!」
ディナがその光景にギリッと奥歯を噛んで目を見開いた。今にも跳びかからんばかりの怒りをその双眸に湛え、握りしめた拳が白くなる。
「逆だディナ」
テヴォが娘を諫めるように一歩前に出た。
「あの子はお前とそこの嬢ちゃん達しか人間を知らねぇ。自分から近寄っていったんだろうさ。昨日人間は怖くないって知っちまったからな」
聖堂騎士の拘束しているお守り。昨日仲良くなった異種族の友達を見咎めた勇者が叫んだ。
「シェサッ!!」
名前を呼ばれて俯いていた小さな狼人族はハッと顔を上げた。見たところ大きな怪我はないが、多少手荒に扱われたのか毛皮の一部に土がこびりついている。両腕を後ろに回されてキツく掴まれて動けない。自分の名前を呼んだ新しい友達や、見知った大人達の顔を見てその宝石のような黄色い瞳に抱えきれなくなった水分がボロボロと零れ出す。
疑問と、痛みと、恐怖。なぜこの人達はこんなことをするのか分からない。自分は友達の友達だったら集落まで案内しよう思って声をかけただけなのに。どうして。なぜ。そしてそれらの疑問以上に今はただ、怖い。
「いたぞ!赤髪の異端審問官だ!」
ディナの姿を発見した一人が声を上げる。
「狼人族と一緒にいるぞ!」
「教皇が魔族を匿っていたんだ!」
一人を皮切りに他の者達も次々に声を上げる。彼らもまた怯えているのだ。声を出して少しでも恐怖を紛らわそうとしている。その一環として、ディナを指差して叫ぶ。
「乱心せし教皇の犬めッ!貴様とここに住む魔族のことはすぐさま公になるだろう!魔族を匿った異端者め!神の名の下に貴様には罰が下されるであろうッ!」
怒りのまま、異端審問官は前に出るがそれをテヴォが手で遮る。彼がいなければすでに跳びかかっている。
「――で、そうやって現教皇を引きずり降ろして、次は誰がその座につくんだ?神聖なる大森林保護区にずけずけと踏み込んだてめぇらの頭は誰だ?まぁ、こんなこと命令するやつぁ一人しか心当たりがいねぇがな!」
目を付けられていたのだ。それに気付かず勇者を引き連れて大森林保護区へ入ってしまった。それが彼女の犯したミス。下手に手を出せば失墜は免れない大森林保護区というブラックボックスに勇者という魅力的な餌を投げ入れてしまった。あの狡賢い枢機卿に、確かにここには何かあると確信させてしまう機会を与えてしまった。
あたしのせいだ――
村の入り口に侵入者達の姿があった。白地に緑の刺繍が施された修道服に胸部を護る板金鎧、手には一本の長槍。その姿はまさしくローティス教の聖堂騎士を示している。数はおよそ十。教皇ないし彼と志を同じくする者がこの集落を訪れる時はそんな物々しい装備の兵士を伴ったりしない。
彼らは集落を亜然として見回していた。人間領、それも教皇が不可侵と定め護ってきた大森林保護区の中にこのような魔族の集落があったとは。
彼らの隊長と思しき先頭の男がこちらを険しい目つきで睨むおぞましい黒毛の魔族達を見つけ、喉の奥からひっと悲鳴を漏らした。恐怖から道中で見つけたお守りを握る腕に力が籠る。そして震える逆の手で腰のナイフを引き抜いてお守りに突きつけた。この場にあっては神の加護などよりよほど信頼できるそのお守りを。
「匂いで、分からなかったのか……!」
ディナがその光景にギリッと奥歯を噛んで目を見開いた。今にも跳びかからんばかりの怒りをその双眸に湛え、握りしめた拳が白くなる。
「逆だディナ」
テヴォが娘を諫めるように一歩前に出た。
「あの子はお前とそこの嬢ちゃん達しか人間を知らねぇ。自分から近寄っていったんだろうさ。昨日人間は怖くないって知っちまったからな」
聖堂騎士の拘束しているお守り。昨日仲良くなった異種族の友達を見咎めた勇者が叫んだ。
「シェサッ!!」
名前を呼ばれて俯いていた小さな狼人族はハッと顔を上げた。見たところ大きな怪我はないが、多少手荒に扱われたのか毛皮の一部に土がこびりついている。両腕を後ろに回されてキツく掴まれて動けない。自分の名前を呼んだ新しい友達や、見知った大人達の顔を見てその宝石のような黄色い瞳に抱えきれなくなった水分がボロボロと零れ出す。
疑問と、痛みと、恐怖。なぜこの人達はこんなことをするのか分からない。自分は友達の友達だったら集落まで案内しよう思って声をかけただけなのに。どうして。なぜ。そしてそれらの疑問以上に今はただ、怖い。
「いたぞ!赤髪の異端審問官だ!」
ディナの姿を発見した一人が声を上げる。
「狼人族と一緒にいるぞ!」
「教皇が魔族を匿っていたんだ!」
一人を皮切りに他の者達も次々に声を上げる。彼らもまた怯えているのだ。声を出して少しでも恐怖を紛らわそうとしている。その一環として、ディナを指差して叫ぶ。
「乱心せし教皇の犬めッ!貴様とここに住む魔族のことはすぐさま公になるだろう!魔族を匿った異端者め!神の名の下に貴様には罰が下されるであろうッ!」
怒りのまま、異端審問官は前に出るがそれをテヴォが手で遮る。彼がいなければすでに跳びかかっている。
「――で、そうやって現教皇を引きずり降ろして、次は誰がその座につくんだ?神聖なる大森林保護区にずけずけと踏み込んだてめぇらの頭は誰だ?まぁ、こんなこと命令するやつぁ一人しか心当たりがいねぇがな!」
目を付けられていたのだ。それに気付かず勇者を引き連れて大森林保護区へ入ってしまった。それが彼女の犯したミス。下手に手を出せば失墜は免れない大森林保護区というブラックボックスに勇者という魅力的な餌を投げ入れてしまった。あの狡賢い枢機卿に、確かにここには何かあると確信させてしまう機会を与えてしまった。
あたしのせいだ――
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