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天に吠える狼少女
第四章 招かれざる者・4
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あたしのせいだ――
ドロドロとした溶岩のような自責の念がディナの心を焼き尽くす。燃え盛る怒りの炎は幼いシェサを人質にとった聖堂騎士へと向けられたものだけでなく、自分自身への怒りでもある。あまりの怒りに視界が白く明滅するほどだった。心の中で燃える炎の熱気を吐き出さんが如く、ディナが口を空けて怒声を発しようと思った瞬間に別の怒声がそれを遮った。
「シェサを放せッ!!」
怒り狂うディナだったが、それに負けず劣らず感情を高ぶらせている者がいた。
人間と魔族が手を取り合う未来を誰よりも夢見る者。異世界から来た黒髪の勇者。ユウ。
「子供を盾にするとか、あんたらそれでも大人かッ!」
ユウの叫びには耳を貸さず、シェサを拘束している一人がはたと気付く。
「黒髪の子供……あのガキがラドカルミアの勇者か。ちょうどいい、機会があれば始末しておけとのお達しだ」
聖堂騎士がギリリとシェサの締め付けを強くする。涙で塗れた顔がさらに歪められて、くぐもった悲鳴が漏れた。
「テメェッ!」
飛び出そうとするディナを黒い毛に覆われた大きな手が抑える。肩を押さえたその手には筋張るほどに力が込められており、テヴォの内心を物語っていた。
「魔族に人質が通用するかどうかは賭けだったが、これは予想以上だ。よし……魔族共、このガキを殺されたくなくばまずその勇者を殺せ!」
その瞬間、レイが長剣の柄に手をかけ、セラがユウの腕を引いて抱き留めた。シェサには悪いが、レイ達にはユウを護るという使命がある。例え狼人族達に恨まれることになってもそれだけは譲れない。ユウ本人がよしとしても、だ。
だが、テヴォはユウの方には見向きもしなかった。
「断る」
思案する時間すらない。あまりの即決に聖堂騎士が困惑するほどだった。
「それじゃあ例え生き残っても、友人を犠牲にしてしまったとシェサの心に傷が出来ちまう。そんな提案飲めねぇな」
「友人?友人だと!?魔族が人を友と呼ぶだと!?やはりアムディール様の考えは間違っていなかった!ラドカルミアは魔族と結託している!勇者は人間の敵だ!」
もはや自分達が誰の支持で動いているかを隠そうともしない。
次期教皇の座を狙う枢機卿アムディール。この聖堂騎士たちは“組織”の監視者からもたらされた情報を元に派遣されたアムディールの子飼いの兵だった。
「その子を放してやってくれねぇか。何もせずに森から出てくれりゃあ、俺達は一切手は出さねぇ。ここからもすぐ出ていく。約束する」
そう言いつつ、一歩前へ。
「そ、それ以上近づくなァッ!」
シェサを拘束する一人が半狂乱になって叫び、その手に持つ刃物をチラつかせた。
説得の通じる状態ではない。怯えているのはシェサ以上に彼らの方だ。この狼人族の集団の中にあって、人質がいなければ自分達はどれほど無力であることか。騎士とはいうが同じ騎士のレイとは相手にしているモノが違う。聖堂騎士が普段相手にするのはロクに訓練も受けていない野盗程度。魔族との戦いなどまったく想定されていない。人数さが同程度ならば戦いになった時の結果は見えている。
「うちが狙いなんか!?やったらうちが代わりに人質になったるわ!やからシェサを放せッ!」
「よしなさいユウッ!」
自分の身など一切省みず前に出ようとする勇者を護衛の魔法師が腕を掴んで行かせない。これほどまでに興奮し、激昂しているユウの姿は護衛の二人は初めて見る。誰かが誰かを傷つけることを極端に嫌悪するユウだが、それに加えて保身のために自分より弱い者を虐げる行為が逆鱗に触れた。
もといた世界でも、嫌と言うほど見た光景であったから。
ドロドロとした溶岩のような自責の念がディナの心を焼き尽くす。燃え盛る怒りの炎は幼いシェサを人質にとった聖堂騎士へと向けられたものだけでなく、自分自身への怒りでもある。あまりの怒りに視界が白く明滅するほどだった。心の中で燃える炎の熱気を吐き出さんが如く、ディナが口を空けて怒声を発しようと思った瞬間に別の怒声がそれを遮った。
「シェサを放せッ!!」
怒り狂うディナだったが、それに負けず劣らず感情を高ぶらせている者がいた。
人間と魔族が手を取り合う未来を誰よりも夢見る者。異世界から来た黒髪の勇者。ユウ。
「子供を盾にするとか、あんたらそれでも大人かッ!」
ユウの叫びには耳を貸さず、シェサを拘束している一人がはたと気付く。
「黒髪の子供……あのガキがラドカルミアの勇者か。ちょうどいい、機会があれば始末しておけとのお達しだ」
聖堂騎士がギリリとシェサの締め付けを強くする。涙で塗れた顔がさらに歪められて、くぐもった悲鳴が漏れた。
「テメェッ!」
飛び出そうとするディナを黒い毛に覆われた大きな手が抑える。肩を押さえたその手には筋張るほどに力が込められており、テヴォの内心を物語っていた。
「魔族に人質が通用するかどうかは賭けだったが、これは予想以上だ。よし……魔族共、このガキを殺されたくなくばまずその勇者を殺せ!」
その瞬間、レイが長剣の柄に手をかけ、セラがユウの腕を引いて抱き留めた。シェサには悪いが、レイ達にはユウを護るという使命がある。例え狼人族達に恨まれることになってもそれだけは譲れない。ユウ本人がよしとしても、だ。
だが、テヴォはユウの方には見向きもしなかった。
「断る」
思案する時間すらない。あまりの即決に聖堂騎士が困惑するほどだった。
「それじゃあ例え生き残っても、友人を犠牲にしてしまったとシェサの心に傷が出来ちまう。そんな提案飲めねぇな」
「友人?友人だと!?魔族が人を友と呼ぶだと!?やはりアムディール様の考えは間違っていなかった!ラドカルミアは魔族と結託している!勇者は人間の敵だ!」
もはや自分達が誰の支持で動いているかを隠そうともしない。
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そう言いつつ、一歩前へ。
「そ、それ以上近づくなァッ!」
シェサを拘束する一人が半狂乱になって叫び、その手に持つ刃物をチラつかせた。
説得の通じる状態ではない。怯えているのはシェサ以上に彼らの方だ。この狼人族の集団の中にあって、人質がいなければ自分達はどれほど無力であることか。騎士とはいうが同じ騎士のレイとは相手にしているモノが違う。聖堂騎士が普段相手にするのはロクに訓練も受けていない野盗程度。魔族との戦いなどまったく想定されていない。人数さが同程度ならば戦いになった時の結果は見えている。
「うちが狙いなんか!?やったらうちが代わりに人質になったるわ!やからシェサを放せッ!」
「よしなさいユウッ!」
自分の身など一切省みず前に出ようとする勇者を護衛の魔法師が腕を掴んで行かせない。これほどまでに興奮し、激昂しているユウの姿は護衛の二人は初めて見る。誰かが誰かを傷つけることを極端に嫌悪するユウだが、それに加えて保身のために自分より弱い者を虐げる行為が逆鱗に触れた。
もといた世界でも、嫌と言うほど見た光景であったから。
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