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天に吠える狼少女
第五章 天に吠える狼少女・1
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「そんな……親父……嘘だろ……」
シェサを抱いたまま、呆然と一歩、二歩と後ずさるディナ。その肩を駆け寄ったレイが抱いた。
「……下がれ。こうなってしまえば、もうどうにもならん」
今まで幾度となく魔族と交戦してきたレイは、族長の身に何が起きているのかを知っていた。
禁忌だと、神に唾棄する行為だと知りつつも、命ある者はそれが失われそうになると無我夢中で手を伸ばしてしまう。人間も魔族も関係ない。いざ死ぬとなった時、倫理の壁はガラガラと音を立てて崩れ去る。壁の向こうには死よりも恐ろしい結末が待っていることを忘れてしまう。
自分なら大丈夫、少しだけなら大丈夫。そうやって理性を納得させてその禁忌を破った者を騎士は幾度か見てきた。
戦場において、敵味方問わず忌避される惨く、醜悪なその姿。誰しもが眼を逸らさずにはいられない。生に縋り付いた者の末路。
「ああ……なんてこった……」
長指族に気圧されていた狼人族の男衆達。彼らの口腔に苦いものが満ちた。
森と共に生き自然を敬う彼らにとって、それはもっとも不名誉な最期とされていた。自分の力量も分からず、それを越えて練魔行を用いた愚か者。一時の強さを求めるあまり、自然から逸脱した罪人。だが、この中の誰がテヴォを責められよう?長指族を前にして一歩も動けなかった自分達の前に立ち、種族階級という越えられぬ壁を打ち砕いた。あのまま長指族に従っていれば、この集落の者達は望まぬ闘争と憎悪の渦に放り込まれていたに違いないのだ。その最悪の結果からテヴォは集落を護ったのだ。
動けなかった不甲斐なさ。それがどうしようもなく彼らの胸を締め付ける。
「ちょっと……なんやねん……テヴォさん、どうしてもうたんや!?」
ただ一人、状況を理解できていないユウが説明を求めて叫ぶ。
その間にも、テヴォの身体は絶えず変容していた。
身体中のいたる所がボコリ、ボコリと盛り上がり、盛り上がったかと思えば内からの肉の膨張に耐えかねるように破裂する。その度に紅い飛沫が飛び散って大地をその色に染めていった。肉が爆ぜたことによってできた傷口は、肉が膨張することによってすぐに塞がり、そこからさらに新たな肉腫が生まれる。黒い体毛はすっかり抜け落ち、浅黒い地肌と肉のピンク色が歪に混ざった奇妙な斑を日に晒していた。
身体全体が沸騰しているようなその有様。しかも傷口が膨張することでその身体は元の大きさよりも一回り大きくなっている。もはや元の雄々しい面影はない。地面をのたうつ巨大な肉の塊だ。肉に埋もれつつも冗談のように元の形を保つ頭部、その瞳にもう理性の光はない。
「ユウ……昔、魔法で怪我は治せないと教えたことがあったわね。その理由があれよ」
セラはテヴォの変わり果てた姿から視線を逸らさずに言った。魔法の使い手である彼女だからこそ、絶対に犯してはならない領分だと自身に強く言い聞かせるように。
「厳密には、怪我を治すことはできる。でもね、それをすると身体の再生に歯止めが利かなくなるの。ちょっとの傷にも過剰に反応して肉が膨張するようになる。それが大きくなりすぎて破裂すればその傷を塞ぐためにもっと肉が膨張する……魔力によって無理矢理再生したことで、身体が元の形を忘れてしまう……」
肉体の過剰再生、それによって自壊し、その傷を埋めるためにまた過剰に再生する。自壊と再生を繰り返して次第に大きくなる肉塊の化物。
シェサを抱いたまま、呆然と一歩、二歩と後ずさるディナ。その肩を駆け寄ったレイが抱いた。
「……下がれ。こうなってしまえば、もうどうにもならん」
今まで幾度となく魔族と交戦してきたレイは、族長の身に何が起きているのかを知っていた。
禁忌だと、神に唾棄する行為だと知りつつも、命ある者はそれが失われそうになると無我夢中で手を伸ばしてしまう。人間も魔族も関係ない。いざ死ぬとなった時、倫理の壁はガラガラと音を立てて崩れ去る。壁の向こうには死よりも恐ろしい結末が待っていることを忘れてしまう。
自分なら大丈夫、少しだけなら大丈夫。そうやって理性を納得させてその禁忌を破った者を騎士は幾度か見てきた。
戦場において、敵味方問わず忌避される惨く、醜悪なその姿。誰しもが眼を逸らさずにはいられない。生に縋り付いた者の末路。
「ああ……なんてこった……」
長指族に気圧されていた狼人族の男衆達。彼らの口腔に苦いものが満ちた。
森と共に生き自然を敬う彼らにとって、それはもっとも不名誉な最期とされていた。自分の力量も分からず、それを越えて練魔行を用いた愚か者。一時の強さを求めるあまり、自然から逸脱した罪人。だが、この中の誰がテヴォを責められよう?長指族を前にして一歩も動けなかった自分達の前に立ち、種族階級という越えられぬ壁を打ち砕いた。あのまま長指族に従っていれば、この集落の者達は望まぬ闘争と憎悪の渦に放り込まれていたに違いないのだ。その最悪の結果からテヴォは集落を護ったのだ。
動けなかった不甲斐なさ。それがどうしようもなく彼らの胸を締め付ける。
「ちょっと……なんやねん……テヴォさん、どうしてもうたんや!?」
ただ一人、状況を理解できていないユウが説明を求めて叫ぶ。
その間にも、テヴォの身体は絶えず変容していた。
身体中のいたる所がボコリ、ボコリと盛り上がり、盛り上がったかと思えば内からの肉の膨張に耐えかねるように破裂する。その度に紅い飛沫が飛び散って大地をその色に染めていった。肉が爆ぜたことによってできた傷口は、肉が膨張することによってすぐに塞がり、そこからさらに新たな肉腫が生まれる。黒い体毛はすっかり抜け落ち、浅黒い地肌と肉のピンク色が歪に混ざった奇妙な斑を日に晒していた。
身体全体が沸騰しているようなその有様。しかも傷口が膨張することでその身体は元の大きさよりも一回り大きくなっている。もはや元の雄々しい面影はない。地面をのたうつ巨大な肉の塊だ。肉に埋もれつつも冗談のように元の形を保つ頭部、その瞳にもう理性の光はない。
「ユウ……昔、魔法で怪我は治せないと教えたことがあったわね。その理由があれよ」
セラはテヴォの変わり果てた姿から視線を逸らさずに言った。魔法の使い手である彼女だからこそ、絶対に犯してはならない領分だと自身に強く言い聞かせるように。
「厳密には、怪我を治すことはできる。でもね、それをすると身体の再生に歯止めが利かなくなるの。ちょっとの傷にも過剰に反応して肉が膨張するようになる。それが大きくなりすぎて破裂すればその傷を塞ぐためにもっと肉が膨張する……魔力によって無理矢理再生したことで、身体が元の形を忘れてしまう……」
肉体の過剰再生、それによって自壊し、その傷を埋めるためにまた過剰に再生する。自壊と再生を繰り返して次第に大きくなる肉塊の化物。
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