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天に吠える狼少女
終章 変わりゆく者達へ・1
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どんな一日も必ず終わる。騒然とした昼が、悲嘆に沈む夜へととって代わり、また朝がやってくる。
教皇領、大森林保護区。そこに、人間とは異なる容姿をした狼人族という種族の集落がある。
亡骸は昨日の内に弔われたものの、いまだ生々しい血の痕の残る広場。そこに大森林保護区に暮す全ての狼人族が集まっていた。皆一様に表情は暗い。人間領のただ中という、いわば陸の孤島で彼らが不安になることなくたくましく生活できていたのは、テヴォという偉大な族長に支えられていたからに他ならない。
誰よりも強く、誰よりも思慮深く。どんな苦難が立ち塞がろうとも彼の後についていけば大丈夫だと後塵を拝する者達に思わせる大きな背中。それが失われた今、彼らの心には大きな空白が生まれてしまった。
木の一本も生えていない茫漠たる荒野を往くかのような、先行きの見えない不安。これから、どこへ向かえばよいのだろうか。
「ごめん……うちが来たから、こんなことに……」
いまだ大地に染み込んでとれない赤黒い残滓を一瞥し、黒髪の勇者は俯いた。傍らには二人と一匹の護衛もいる。
今回のことに関して、ユウは少なからず負い目を感じていた。
自分がこの集落を訪れなければ、あのような悲劇は起きなかったのではないか。少なくとも、聖堂騎士に集落を発見されることはなかっただろう。彼らが訪れなければ、ユウ達人間がいなければ長指族とも温和な話し合いができたのではないか。
――テヴォがあんな死に方をすることはなかったのではないか。
そのしょぼくれた頭に、黒い毛に覆われた大きな手の平が優しく置かれた。
「いや。嬢ちゃんが来てくれたから、族長は誇り高い狼人族として逝けたんだ。嬢ちゃんが謝ることはねぇよ」
代表して口を開いたのは男衆の一人。ここを訪れた時、一番最初にユウ達を出迎えた狼人族だった。
「どのみち、長指族が来れば俺達は――族長は戦ってたさ。あの人が人間を殺せるわけがねぇんだ。人間の娘がいる、あの人には」
ユウがいてもいなくとも、交渉は決裂していたと彼は言う。そしてそれは恐らく正しい。
人間に妻を殺され、それでも人間を恨まず、それどころか赤子を拾い育てるような慈愛に溢れたあの族長が罪もない人間を殺して回るなどできようはずがない。もちろん、その族長の背中を追ってきたこの集落の全ての狼人族もそうだ。
「なんにせよ、だ。もうここには、いらねぇなぁ」
テヴォと共にあったここでの暮らしを懐古するかのように、狼人族達は長く暮らした集落の家々を見回した。彼らの中にはここで生まれた者も少なからずいるだろう。この森で生まれ、この森しか知らない若い世代。この場所を故郷とする者達。外の世界へ憧れを抱く者もいればそうでない者もいるだろう。
ここを離れたくない者も、いるだろう。
狼人族達の今後については、皮肉にもユウ達の望む通りになった。この集落にいる狼人族は全て、“勇者特区”へと移り住むことになる。
狼人族がやったわけではないが、昨日多くの聖堂騎士達が死んだ。あの時に調査に訪れていた者が全てやられたのかどうかはユウ達には知る術がないが、魔族の仕業だとバレていれば報復として、そうでなければ救助のために追加の人員がこの森にやってくることは想像に難くない。そうなればもうここでは暮らせない。
見つかった時点でもうどうしようもなかったのだ。それこそ彼らを懐柔して黙秘させる以外には。だがそんなことできようはずもない。
「輸送用の荷馬車を用意する必要があるな。それから全員同時は厳しいから、何往復かに分ける必要もある。現地につくまで人目につかないようにする必要がある以上、窮屈な旅になるだろうが……」
「かまいやしないさ。行った先に、楽しく生きていける場所があるんならな」
レイの言葉に鷹揚に頷いた狼人族の男は、次いで手を勇者の頭から肩へと置き換えた。
教皇領、大森林保護区。そこに、人間とは異なる容姿をした狼人族という種族の集落がある。
亡骸は昨日の内に弔われたものの、いまだ生々しい血の痕の残る広場。そこに大森林保護区に暮す全ての狼人族が集まっていた。皆一様に表情は暗い。人間領のただ中という、いわば陸の孤島で彼らが不安になることなくたくましく生活できていたのは、テヴォという偉大な族長に支えられていたからに他ならない。
誰よりも強く、誰よりも思慮深く。どんな苦難が立ち塞がろうとも彼の後についていけば大丈夫だと後塵を拝する者達に思わせる大きな背中。それが失われた今、彼らの心には大きな空白が生まれてしまった。
木の一本も生えていない茫漠たる荒野を往くかのような、先行きの見えない不安。これから、どこへ向かえばよいのだろうか。
「ごめん……うちが来たから、こんなことに……」
いまだ大地に染み込んでとれない赤黒い残滓を一瞥し、黒髪の勇者は俯いた。傍らには二人と一匹の護衛もいる。
今回のことに関して、ユウは少なからず負い目を感じていた。
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――テヴォがあんな死に方をすることはなかったのではないか。
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代表して口を開いたのは男衆の一人。ここを訪れた時、一番最初にユウ達を出迎えた狼人族だった。
「どのみち、長指族が来れば俺達は――族長は戦ってたさ。あの人が人間を殺せるわけがねぇんだ。人間の娘がいる、あの人には」
ユウがいてもいなくとも、交渉は決裂していたと彼は言う。そしてそれは恐らく正しい。
人間に妻を殺され、それでも人間を恨まず、それどころか赤子を拾い育てるような慈愛に溢れたあの族長が罪もない人間を殺して回るなどできようはずがない。もちろん、その族長の背中を追ってきたこの集落の全ての狼人族もそうだ。
「なんにせよ、だ。もうここには、いらねぇなぁ」
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ここを離れたくない者も、いるだろう。
狼人族達の今後については、皮肉にもユウ達の望む通りになった。この集落にいる狼人族は全て、“勇者特区”へと移り住むことになる。
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見つかった時点でもうどうしようもなかったのだ。それこそ彼らを懐柔して黙秘させる以外には。だがそんなことできようはずもない。
「輸送用の荷馬車を用意する必要があるな。それから全員同時は厳しいから、何往復かに分ける必要もある。現地につくまで人目につかないようにする必要がある以上、窮屈な旅になるだろうが……」
「かまいやしないさ。行った先に、楽しく生きていける場所があるんならな」
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