剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

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天に吠える狼少女

終章 変わりゆく者達へ・3

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「族長の娘だからな」

 そう言って彼女は騎士に笑いかけた。疲れ切っているだろうに、無理に笑顔など作ろうとするものだから口元が引き攣っているだけに見える。

 不器用な笑顔。どこかで見たような、ヘタクソな笑顔。

 血が繋がっていなくとも、種族が違えども。親子とは似通うものなのだ。

「あ」

 何かに気づいたようにユウが声をあげた。

「ディナちゃん、腕につけてたやつは……」

 ふとした拍子に捲れた袖、そこにあるべき物が見当たらない。

 まさか、昨日切れてしまったのか。そう懸念したユウにディナは頭を振った。

「あれが最後の一本になっちまったからな。無くさないようにしまってあるのさ。あのクソ親父、ドケチだから形に残るもんはあれぐらいしかくれなかった。だから、ただ一つの形見だよ」

 そう言って、手荷物の麻袋をポンっと叩いてみせる。そこにあの組紐が入っているのだろう。

「そっか……」

 たとえ形に残らずとも、きっと彼女は多くのものをもらったのだろう。その表情にもう悲嘆はない。

 過去を嘆き、足踏みするのは昨日だけ。進むのだ。生きている限り、人も狼人族ウルフェンも歩み続ける他ないのだから。

「――さぁ、こっから忙しくなるぜ。早く行こう。皆!いつでも出発できる準備をして待っててくれよ!この場所ともお別れだ」

 そう言って声をかけるディナは、自分自身にそう言い聞かせているようだった。

 移住が終われば、もうここに来ることはないだろう。父の墓前に立つこともない。墓参りなんて柄じゃない。

 どこにいたって世界は繋がっている。誰だって自然と共にある。断ち切れぬ絆で結ばれている以上、どこであろうと祈りは届くだろう。

「じゃあ皆、ちょっと待っててなぁ!」

 そう言って踵を返そうとしたユウの視界の端に、小さな影が映った。

「シェサ……」

 ユウが名を呼ぶと、その小さな狼人族はおずおずと母親の足元から顔を覗かせた。

 その顔には、あの宴の夜にはなかった怯えが浮かんでいる。あのようなことがあったのだ、当然だろう。

「……うちのこと、怖い?」

「……………」

 シェサは少しの間を置いてから、ふるふると首を振った。

 そして、ゆっくりと母親の陰から姿を現した。

 ディナ以外の人間を知らなかった彼女。宴の日に、初めてディナ以外の人間を知った。人間は怖くない、そう思った。

 だが、それは最悪の形で裏切られた。まだ幼い彼女の精神こころに、昨日の出来事がどれほどの傷を残したのだろうか。

「……ユウは、怖くない。だって、同じ毛の色をしてるから」

「……そっか」

 つまり、ユウ以外の人間は怖いということ。実際に彼女はレイとセラには目を合わせようとしない。

 そんな彼女には、これからの生活は辛いものとなるだろう。

「人間にも、いっぱいおるからなぁ。良い人もいれば悪い人もいる。だから……人間皆があんな怖い人ばっかりやないって思わんでくれると、嬉しいな」

「……………」

 シェサは頷くことも拒絶することもなかった。彼女にも、時間が必要だ。

 アー……

 二人の間に降りた沈黙を、気の抜けるような鳴き声が通り過ぎた。

「……んふ」

 どちらからともなく、笑いが漏れた。
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