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天に吠える狼少女
終章 変わりゆく者達へ・4
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しばし笑い合う二人。これからどんな困難が待ち受けていようとも、きっと、この人間の友人と共にならシェサは大丈夫。
昨日は慟哭が響いていたのと同じ空に、子供らの笑い声が響いた時、それを聴く大人達はそう思った。
失われたものもあれば、新しく生まれるものもある。この友情が、そうだろう。
彼女らの交わした笑顔が、娘が父の死に流した涙が、これからの人間と狼人族の未来を照らさんことを――。
うー……あうあー……
二人が笑っていることが嬉しいのか、それとも笑われていることに抗議しているのか。足元でぴょんぴょんと飛び跳ねるさくらもちをユウがわっしと捕まえる。
「ふふ、どうしたさくらもち。笑ってごめんてー」
あうー、うお……
まだ何か言いたそうにもごもごと口に相当する穴を動かす薄桃色のスライム。
「んー?」
ユウとシェサの二人が興味深げに覗き込む。二人が仲良くなったきっかけはさくらもちだった。そう考えると、このスライムの為した功績はとても大きいのかもしれない。
その淡く、優しい色。それにユウは花の名を冠した菓子の名前のつけた。その花は、ユウの元いた世界では出会いと別れの季節の象徴である。
うお、うおわ……
そして、とうとう――
「うおは……ご……ごはん!」
「「……え」」
そのスライムが発した音の意味を、頭で咀嚼すること、数秒。
「「うわあああ!さくらもちが喋ったあああああッ!?」」
「ごはん!ごはん!」
ユウ達だけでなく、周囲の大人達もそのあり得ざる事象に我が耳を疑った。
「嘘でしょ……スライムが喋るなんて……」
さしものセラも物憂げではいられず、驚愕に目を見開いていた。
人に近づいて体当たりするだけだった半透明の塊が、今では明らかな意思を持ち、言葉を介すまでになった。
それは勇者の力によるものなのだろうか、それとも本来スライムが持ちうる能力なのか。それは分からない。なぜなら、今まで誰一人としてスライムに愛情を注ごうなどと考えた人間はいなかったのだから。
確かなのは、この奇跡はユウとさくらもちが互いに思いやり、歩み寄ったからこそのものだということ。言葉は相手に自分の意思を伝えるもの。もっと相手に自分のことを知ってもらいたい。もっと相手のことを聞き出したい。そんな相互理解の第一歩こそが会話である。その想いが、彼女(?)を変えたのだ。
「そうかそうか!ごはんか!」
魔力を込めた手の平でさくらもちを撫でまわすユウ。その腕の中で満足気に身を震わすさくらもち。
似ても似つかぬ容姿の一人と一匹が、ここまで親しくなれるのなら、似通った姿の人間と狼人族が親密になることなど容易いことなのかもしれない。
少なくとも、このスライムは物言わぬ自然現象からここまで変化を遂げた。変わったのは物理的な形状だけではあるまい。
魔物にできて、人間と魔族にそれができない道理はない。心ある者はすべからく変われるのだ。
〈世界を救う者〉、勇者ユウ。
彼女が与えたものは、可能性などという大仰なものなのではなく、ただほんの些細な“きっかけ”に過ぎないのかもしれない。
その些細なきっかけが、やがて世界を大きく変える。否、彼女の手を取って自ら変わろうと願った者が世界を変える。
彼女は、変わろうと願う勇者達のきっかけに過ぎないのだ。
『剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~』
天に吠える狼少女・了
☆ここまで読んでいただいた方、本当に、本当にありがとうございました。
残念ながら、本作品の次章の執筆予定は現在のところありません。
詳しくは近況にて。
もう一度、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
昨日は慟哭が響いていたのと同じ空に、子供らの笑い声が響いた時、それを聴く大人達はそう思った。
失われたものもあれば、新しく生まれるものもある。この友情が、そうだろう。
彼女らの交わした笑顔が、娘が父の死に流した涙が、これからの人間と狼人族の未来を照らさんことを――。
うー……あうあー……
二人が笑っていることが嬉しいのか、それとも笑われていることに抗議しているのか。足元でぴょんぴょんと飛び跳ねるさくらもちをユウがわっしと捕まえる。
「ふふ、どうしたさくらもち。笑ってごめんてー」
あうー、うお……
まだ何か言いたそうにもごもごと口に相当する穴を動かす薄桃色のスライム。
「んー?」
ユウとシェサの二人が興味深げに覗き込む。二人が仲良くなったきっかけはさくらもちだった。そう考えると、このスライムの為した功績はとても大きいのかもしれない。
その淡く、優しい色。それにユウは花の名を冠した菓子の名前のつけた。その花は、ユウの元いた世界では出会いと別れの季節の象徴である。
うお、うおわ……
そして、とうとう――
「うおは……ご……ごはん!」
「「……え」」
そのスライムが発した音の意味を、頭で咀嚼すること、数秒。
「「うわあああ!さくらもちが喋ったあああああッ!?」」
「ごはん!ごはん!」
ユウ達だけでなく、周囲の大人達もそのあり得ざる事象に我が耳を疑った。
「嘘でしょ……スライムが喋るなんて……」
さしものセラも物憂げではいられず、驚愕に目を見開いていた。
人に近づいて体当たりするだけだった半透明の塊が、今では明らかな意思を持ち、言葉を介すまでになった。
それは勇者の力によるものなのだろうか、それとも本来スライムが持ちうる能力なのか。それは分からない。なぜなら、今まで誰一人としてスライムに愛情を注ごうなどと考えた人間はいなかったのだから。
確かなのは、この奇跡はユウとさくらもちが互いに思いやり、歩み寄ったからこそのものだということ。言葉は相手に自分の意思を伝えるもの。もっと相手に自分のことを知ってもらいたい。もっと相手のことを聞き出したい。そんな相互理解の第一歩こそが会話である。その想いが、彼女(?)を変えたのだ。
「そうかそうか!ごはんか!」
魔力を込めた手の平でさくらもちを撫でまわすユウ。その腕の中で満足気に身を震わすさくらもち。
似ても似つかぬ容姿の一人と一匹が、ここまで親しくなれるのなら、似通った姿の人間と狼人族が親密になることなど容易いことなのかもしれない。
少なくとも、このスライムは物言わぬ自然現象からここまで変化を遂げた。変わったのは物理的な形状だけではあるまい。
魔物にできて、人間と魔族にそれができない道理はない。心ある者はすべからく変われるのだ。
〈世界を救う者〉、勇者ユウ。
彼女が与えたものは、可能性などという大仰なものなのではなく、ただほんの些細な“きっかけ”に過ぎないのかもしれない。
その些細なきっかけが、やがて世界を大きく変える。否、彼女の手を取って自ら変わろうと願った者が世界を変える。
彼女は、変わろうと願う勇者達のきっかけに過ぎないのだ。
『剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~』
天に吠える狼少女・了
☆ここまで読んでいただいた方、本当に、本当にありがとうございました。
残念ながら、本作品の次章の執筆予定は現在のところありません。
詳しくは近況にて。
もう一度、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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