​【罠】聖域・忠犬先公達の檻

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五月:風薫る屋上で

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教職員室の中、死んだ魚ような眼差しで座る高沢憲司の周囲にはどんよりとした空気が漂っている。

波の上、そして、浜辺で見せる海神を思わせる颯爽とした覇気は微塵もない。

無精髭の浮いた締まりのない面構え。

寝癖。

この学園の教壇は、健司にとって三校目にあたる。

彼の年齢ですでに三校目というのは、実力で引き抜かれたからではない。

過去の二校とも放校同然で去っている。

複数の生徒に対する不適切事案。

代議士である父が、その権力で強引に憲司の生徒に対する淫行を闇に葬った。

そして多額の献金と便宜を約束して、この学園に憲司を送り込んだ。

“次があれば仕送りは断絶、お前に与えた全てを引き上げる”

憤怒の表情で父親は最後通告を突きつけてきた。

高級マンション、派手な外車、週末のサーフィン、そして夜な夜な繰り返される少年との情事、、、

その全てを維持するに、憲司はこの学校で大人しくし続けるしかなかった。

目の前を歩く男子生徒たちは、憲司にしてみれば無防備に放り出された極上の餌だ。

だが、親父の顔を思い浮かべると、その狩猟の本能を抑え、指をくわえて眺めるしかない。

同僚の教師たちは、やる気のない憲司に愛想を尽かし、生徒たちもまた、教科書を棒読みするだけの彼を生気のない置物のように扱っていた。

もっとも、憲司としても教育への情熱など元より無く、性の対象にならない(出来ない)相手には興味がない。

彼が教師を目指したのは、夏休みがあるからという、真面目な教職者からすれば、噴飯物の理由からだった。

別に生徒達に慕われようとも思っていない。

生きる亡霊のように教員室と教室を行き来するだけの毎日。

だから、生徒達が彼の元を訪れなくても、全く気にならない。

それがその日、珍しく彼の元を訪れた生徒がいた。

それも彼が赴任早々目を付けた、立場上、手を出せないまでも、近い内にお友達レベルまでには持っていきたいと思っていた上玉の生徒が向こうからやってきた。

端正な顔立ちと凛とした佇まいの上玉、三年生の美影直人。

確か、美術部の部長だ。

だが、その身体は文化系に所属しているとは思えないくらい筋肉に覆われていると憲司は見抜いていた。

背は健司の趣味からするとちょっと高い。

が、アイドルグループにいてもおかしくない愛くるしく美しく整った顔立ちの少年だ。

「高沢先生、三年の美影です。ちょっとお話があるんですが」

憲司のダラけていた顔が締まり、爽やかな笑顔が浮かぶ。

背筋も伸びる。

「ああ、美影君、なんだい?」

低く、艶のある渋い声。

授業中には、出さない声。

「お願いがあるんですが、、、その、、、人に聴かれたくないんで、出来れば外でお願いできませんか?」

憲司は内心、ニヤリとした。

内緒の話か、、、

「よし、じゃぁ、屋上にでも行くか」

生徒のみの屋上への出入りは禁じられている。

人はまず居ないはずだ。

憲司は、生徒が先に階段を上るように誘った。

後ろから昇りながら間近で尻を確認するためだ。

良いケツじゃないか、、、

完璧だ、、、

元からの形もいいが、ちゃんと鍛えている、、、

瞬時に見抜く。

だてにナンパを繰り返していない。

屋上に出た。

青空だ。

五月の風が気持ち良く吹き抜けていく。

憲司は、柵に近付き言った。

「ちょっと、ネクタイを緩めていいか?堅苦しいだろ」

返事を待たずネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを三つ外す。

焼けた素肌が微かに、だがしっかりと見える程度に。

そして、柵に背でもたれる。

両手を広げ、肘を柵にのせる。

しっかり、ポーズを取っている。

「で、話はなんだい?」

「担当でもない先生なのにすいません。でも、どうしても先生じゃないとダメなお願いなんです」

「俺じゃないとダメ?」

「ええ。もうすぐ学園祭ですよね」

「あ、ああ」

唐突に学園祭の話が出てきて驚く。

「僕たちの美術部は、学祭のサークル人気投票で、万年ビリなんです。生物部は動物の解剖、天文部はミニプラネタリウム、文芸部はヤオイ系の創作話で受けている。人気投票で上位になると部費の補助が上がるんでみんな必死なんです。ところが、僕たちの美術部は、代々の先輩たちが固くて芸術作品しか展示しないって方針なんです。ポップアートもダメ。油絵、水彩画、デッサン、石膏像とかいった伝統的なものしか無理。学祭前日にOB代表がやってきて展示物から外すんです」

、、、だから何なんだ?

憲司は思ったが、一応真剣に聞いている振りをしている。

「で、今年、みんなで考えたんです。折角の学祭だから、皆の度肝を抜きたい。でも、代々の不文律は破れない。で、いい案を思いついたんです」

「ほう」

「その実現の為には、先生の協力が必要なんです」

「へ?俺の協力が?」

「はい。芸術品として観賞に耐える美しいもの、そしてセンセーショナルなもの。それを今回の学祭に出したいんです」

「・・・ほう」

「で、先生、僕らの作品のヌードモデルになっていただけませんか?」

「は?」

「高沢先生のその芸術品のような肉体を貸してほしいんです」

美影の瞳が、憲司の目をじっと射抜いた。

「俺の、肉体?」

「はい。学園祭で皆の度肝を抜くため、先生にヌードモデルになっていただきたいんです」

その言葉は、自尊心の高い憲司の心をくすぐる。

こいつ、分かってるじゃねぇか、、、

憲司は思う。

退屈な学園での毎日、出来れば全て自習にしたいかったるい授業、、、

灰色の毎日に光が差し込んできたような気がする。

それに目の前にいる美影、、、

獲物としては上玉だ。

人にバラすなと丁寧に教え込み、モノにすれば良いのだ。

初めて赴任した学校では、校内で生徒とやりまくったのがまずかった。

やりたい盛りの生徒達が憲司に群がり、学校にバレてしまった。

2校目では、それに懲りて校内でやる回数を少なくしたものの、生徒達が憲司の取り合いで諍いを起こし、PTAにばれ、吊し上げられた。

ならば、生徒はこいつ一人に絞れば良い。

俺のヌードを描きたいと言うあたり、素養はある。

何より、イケすかない来生純一ではなく、俺の身体に目を付けたあたり、見る目がある。

憲司は、いつも輝いたオーラを纏い、生徒に慕われている体育教師の来生を面白くなく思っていた。

まてよ、、、

まさか、来生に断られて、俺に頼んできたと言うんじゃないだろうな、、、

憲司の心中に疑念がよぎる。

「ヌードモデルか、、、俺よりも体育科の来生先生とかの方が良いんじゃないか?あの先生は、筋肉自慢だし、、、」

軽いやっかみを含みながら、自分よりも来生が上と思ってもないことを言う。

「え?来生先生?考えてもみなかった、、、僕、一度、海岸で高沢先生を見かけて、こんなに素敵な肉体を持った人がいるのかと驚いて、、、美術部の皆んなと誰かのヌードを描きたいってなった時に真っ先に先生の身体が思い浮かんだんです。あんな綺麗な身体はない。先生の美しくて逞しい筋肉なら美術として成立するって、、、」

憲司の顔が二ヘラと緩む。

それだけが自慢の肉体を褒められて単純に喜んでいる。

「先生に頼むのは失礼だから、生徒同士で裸を描きあおうって意見もあったんですが、僕たちの裸じゃ鑑賞に耐えない。やはり大人の完成した筋肉美を描こうって意見にまとまって、今日、お願いしにきたんですよ」

美影が憲司の目をじっと見て言う。

すでに憲司の心は決まっていた。

「美影くん、僕で良ければ、美術部の役に立たせてくれ」

これまで、この清明学園では全く見せなかった男らしく爽やかな笑みを浮かべて、憲司は美影に手を差し出した。















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