『…魔力も魔法も関係ない! 必要無い! 俺は舌先三寸で人を動かして、魔王に勝って魔族を滅ぼす! 』

トーマス・ライカー

文字の大きさ
3 / 7
魔法使いなんて、要らないよ!

…見廻りと準備と…

しおりを挟む
 シエナの後ろに若者を乗せて駆ける。

 若者の名は『デンガ』と言う。

 街道を走り、間道への折れ口には必ず入って獣道に入るまで観て戻る。

 俺とジングは50ミルト程の距離を保って走ったり歩いたり止まったりしていたが、歩いている時に空を見上げてヒーピーやケイピーが飛んでいるのを見付けると馬を止め、弓に矢をつがえて射落としていく。

「……2人とも弓矢が上手いね……」

「……ああ…デンガ……これを鍛練してきたって事が……今まで生き延びて来られた…コツのひとつだな……」

「……シエン……あそこの岩肌の切れ目が観えるか? 」

 ジングがキエラを横歩きさせて俺のシエナの右隣に並ばせ、左手で1点を指差して訊いた。

「……ああ……切れ目自体は自然のものだが、下に観える穴は掘り抜かれたものだな……」

「……怪しいな……」

「……そうだな……ちょっとゆっくり近付いて観よう……だから、ヒーピーやケイピーが飛んでいたのか……」

 俺達はその岩肌から800ミルトまで馬で近付き、茂みに愛馬を隠してからは歩いて近付く……穴の全体を視界に入れる前からでも分かる……鼻が曲がって裏返りそうな臭いだ。

「……シエン……もういいだろう……臭過ぎる……ここで間違い無い……」

「……ああ、そうだな……戻ろう…ここで間違い無い……おそらく……魔物共を飼ってる魔族もいる……」

 馬まで戻り、乗って間道まで戻る。

「……ここよりひとつ手前の折れ口だな……そこで飛んでる魔鳥を射抜いて、街道に出よう……」

「……そうだな……そうなると街道に仕掛ける罠は、こことここだ……2ヶ所とも道幅が狭くなってるから、罠を仕掛けやすい……」

 馬を歩かせながら地図を取り出して、印をふたつ付ける。

「……あとは、どこかの隘路あいろの上に好い場所があれば、だな……」

「……ああ……だが岩を運び上げるのはキツいから、油を染み込ませた砂袋にしよう……」

「……それが好いな……あとは戻って来た皆と合流した上で……細かく話を聞いてこの地図を完成させれば、作戦も決まるだろう……」

「……ああ……そうだな……こちらから皆に合流しよう……罠の仕掛け場所としても、もう見当を付けている頃だろう……」

 暫く間道を戻り、山側への折れ口から更に険しい間道を経て隧道ずいどうに入る……3本の間道に8本の隧道ずいどうが絡んでいる……隧道ずいどうの中には、途中で行き止まりのものもある。

「……なかなか面白い地形だな……これなら結構奴らを引っ張り回せるかも知れん……」

 時折り立ち止まって地図に書き加えながら、空を見上げて魔鳥を射抜き墜としていく。

「……ジング……蹄の跡がある……ここから折れて行ったようだ……隘路あいろに続くのはどっちだろう? 」

「……ちょっと待ってくれ……」

 そう言うとジングは馬を止めて、両手で耳をそばだてる……この男は仲間内で1番耳が利く。

「……こっちだな……」

 そう言って左の細道に入る……1200ミルト程で道幅が急に狭まり、曲がりくねった絶好の隘路あいろになった……左側を見上げると、お誂えおあつらえ向きに広く張り出した崖になっていて……デラティフとナヴィドとサミールとクヴァンツが、2人の若者を馬の後ろに乗せて俺達を見下ろしている……俺とジングがそれぞれ右手と左手の空を指差すと、4人は空かさず弓に矢を番えて引き絞って放ち、ヒーピーとケイピーが2羽ずつ墜ちた。

「……ここは絶好だな…ナヴィド? 」

「……ああ……観て廻ったが、ここ以上の場所は無い……」

 脇の獣道けものみちを駆け登って、4騎に合流する。

「……あそこの山の斜面……岩肌が観えるか、ナヴィド? 」

 ナヴィドは仲間内で1番目が良い。

「……ああ、観えるよ……クレパスがあるだろ? 」

「……そうだ……クレパス自体は自然のものだが、下の穴は手で掘り抜かれている……奴らの寝ぐらだ……」

「……ほう……頃合いの距離だな……確認したのか? 」

「……いや…臭過ぎて近寄れなかった……」

「……分かる(苦笑)……でな……場所はここで絶好なんだが……岩を運び上げるのはキツくないか? 」

「……ああ……俺もそう思う……だから、油を染み込ませた砂袋にしよう……明日の準備でここに……シーソーを10基並べる……明後日、街道に仕掛けた2ヶ所の罠に嵌められても生き残った奴らを……俺達が引っ張り廻してここまで来たら……砂袋に火を点けて、シーソーで下に跳ね落とす……奴らの動きが止まったら、集中して射る……それで終わりだ……」

 そこまで言って…皆、馬から降りる。

「……ああ……実際……どんな魔物が何匹出て来るのかは、まだ判らないが……魔物共については…それで何とかなるだろう……あとは魔族だな……だが今は……ここで昼飯にしようぜ、シエン……」

「……そうだな、デラティフ……昼飯にしよう……デンガ……その鞄の中に弁当が入っているから、出して食べなさい……それは君の物だよ……」

「……えっ…シエンさんは、どうするんですか? 」

「……俺の事は心配しなくて好い……保存食料があるから……それを食べるよ……」

 俺がそう言って…貰った弁当をデンガに渡したものだから…あとの5人も、2人の若い人足に弁当を分けて与えた。

 シエナの鞍に括り付けていた物入れ袋から更に袋を取り出して、中から拳半分程の茶色と灰色の塊を一つずつ取り出す。

「……デンガ……その弁当の蓋を貰えるかい? 」

「……あ、はい…どうぞ……」

「……誰か、水を少しくれないか? 」

 ケープを外して座った右側に敷き、貰った弁当の蓋に塊を乗せてそこに置く……サミールが鞣革袋なめしかわぶくろの水筒を手渡してくれる。

「……またパルギか……好きだな(苦笑)……」

「……ほっとけよ、クヴァンツ……こいつは完全無欠の保存食料なんだからな……」

 そう言いながら、水筒から水を適当に振り掛ける……するとふたつの塊は水を吸って観る観る膨らみ、8倍程の大きさにまで膨れた……ふたつの塊をそれぞれ四つに割り、腰紐に締め込んでいた小さい袋を外して中の粉塩をほんの少し振り掛けて、食べ始める……もうひとりの若い人足『キトル』が不思議そうに観ていたので、ひとつを渡した。

「……どうだい? 」

「……不思議な味だね……美味いよ……」

「……だろ? 俺のお師さんの秘伝だぜ? 」

「……シエン……街道を往く隊商や乗合馬車を襲ってるような奴らだから、それ程数がいるとも思えないが……魔物共を飼って操っているのは魔族だ……どうするつもりなんだ? 」

「……クヴァンツ……ここいらで暴れている奴らについては、戻ったら騎士団の詰所や宿舎で話を聞いてくる……おそらく……魔族と言ってもそんなに強くはない筈だ……魔族としての地力が強くて、多くの魔物を使役できるのなら……隊商や乗合馬車を襲うより、城市に城攻めを仕掛ける筈だからな……それにレーナが魔力中和の護符を200枚も書いてくれてる……それだけあれば充分だろ? 」

「……まあ……それもそうかな……」

 1アハルも掛からずに弁当を食い終えて、また馬に跨る。

「……ナヴィド……観えるか? 」

「……ああ…ゲルギだな……」

 弓に矢を番えて構える……対面の崖に止まっている魔鳥だ。

「……殺れるか? 」

「……ちょっとギリだが……」

 狙い澄まして引き絞り…放つ……綺麗に射抜いた。

「……よし、戻ろう……騎士達からも話を聞くし…ダナルさんには、また色々頼むし…人足頭とも打ち合わせて、段取りを組まなきゃならん……ひょっとして…気付かれたかも知れんが……明日1日…邪魔されずに準備できれば、こっちの勝ちだ……」

 6頭の馬が、一斉に馬首を回らせてめぐらせて崖から降りて行く。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...