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・・『開幕』・・

・・インタビューと対談と・・6・・

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「・・ありがとうございました、ハイラム・サングスター中佐・・大変に興味深い提言も頂きました・・休職期間が明けたら、現職に復帰されるのですね・・?・・」

「・・勿論、そのつもりです・・が、休日に任務が入らない限りは、こちらに来ます・・」

「・・ご協力に感謝します・・さて、一先ず皆さんからの自己紹介を頂きました・・興味深い提言も頂きました・・提言を採り上げて皆さんで討論して頂くと言う事も試みる積りではありますがその前に、当選されてからこれまでの感想を頂きましょう・・身の周りの事でも・・お勤め先の中の事でも・・弊社においで頂いた時の事でも・・艦のセットをご覧になられた時の事でも・・皆さんを取材したメディアについてでも・・何でも結構です・・ご自由にお話下さい・・その他、要望や提言などを織り交ぜて頂いても構いません・・ご自由にお話下さい・・それではまた、アドル・エルクさんからお話を頂きましょう・・急かしませんので、ゆっくりお話下さい・・」

・・私は僅か数秒間で逡巡した・・アイソレーション・タンクベッドについての事を、ここで話すべきかどうか・・ここで話さなくとも開幕すればいずれは知れ渡る・・総合共同記者会見では、それ程に発言の機会があるとも思えない・・ここで私自身から先に発信する事で捲き起こされる反響の中には、私に対しての批判や非難もあるだろう・・だが、どうせ全員を味方に付ける事は出来ない・・それに違法ではないし、無料供与と言う訳でも無い・・それならば私自身から先に発信した方が、良くも悪くも効果的だろう・・よし・・。

「・・?・・ひょっとして先輩・・ここでタンクベッドの事を話すつもりなのかな・・?・・どうせ知れ渡るのなら、か・・うん・・好いんじゃないかな・・?・・そんなに分の悪い賭けでもない・・」

・・自分のデスクに座ったままフロアモニターを少し藪睨みで見上げて、誰に言うともなく呟いたスコットだったが、そんな彼の左横顔をマーリー・マトリンは少し不安げに見遣った・・。

・・リサ・ミルズもアンブローズ・ターリントンもその予想を感じたが、口に出しては何も言わなかった・・。

「・・先ず・・当選通知が知らされた当初ですが、とても信じられませんでした・・これまでこのようなバーチャル3D体感ゲーム大会に、3回応募していましたが1回も当選していませんでしたから・・しかもこれ程に大規模なゲーム大会ですから、どうせ落ちるだろうとも思っていました・・当然、凄く驚きまして・・暫くは思考停止でした・・当選の通知をメッセージで貰ったその日の夕方に、こちらのデザレー・ラベルさんから通話を頂いたのですが、それで一気に現実的になって来ました・・報道は当選した直後から凄かったですね・・何でこんなに早く知られるのかと思いましたよ・・家族と勤め先の会社には、感謝しています・・感謝しかないですね・・特に会社からは手厚いサポートを頂いています・・私や家族への取材攻勢の殆どを会社の広報で引き受けてくれましたし、当選が判ったその翌日には記者会見を開いてくれましたので、それ以降の取材攻勢は私自身の感覚で言わせて頂けるのなら、ほぼ沈静化したように感じています・・こちらの御社に初めてお邪魔させて頂いた時ですが、スタッフの皆さんがとても温かく、丁寧に、誠実に、明るく接して下さいましたので、御社に対しましても感謝しかありません・・艦の撮影セットについて・・これは他の艦長の方々も同じように感じておられるだろうと思いますが、撮影セットとしては完璧に近い仕上がりですね・・唯一つ難点を言わせて頂けるのなら、エクササイズ・トレーニング施設が3つもあるのは多過ぎますね・・私は艦長としての権限を以て、下位デッキの2つの施設は出航後直ちに閉鎖してパワーも切り、残る一つの施設の使用を全乗員に許可しました・・これは艦長としての権限を以て決定しました・・それ以外の施設に於いては、ブリッジにしてもバーラウンジにしても個室にしても、大変に気に入りました・・」

「・・大変に詳しくお話頂きまして、ありがとうございました・・アドル・エルクさん・・何か他にご要望やご提言等はございますか・・?・・」

「・・それでは僭越ながらこの場をお借りして、19名の艦長の皆さんに呼び掛けたいと思います・・私達はそれぞれ5億分の1とも言われる大変な難関を突破して、キャプテン・シートを手にしました・・他の参加者は大変に高額な参加費用を支払って参加されています・・運の強さだけならば、皆さんそれぞれ自分が最強だと思われているかも知れません・・私達は無料で艦長になりました・・無料でこのゲーム大会のプレイヤーとしてエントリーする事を許可されました・・しかも艦長として、異性の芸能人を部下として組織する事をも許可されています・・他の艦長達はそれぞれ自分でクルーを組織しています・・これはこれで大変な苦労でしょう・・そして私達は、リアル・ヴァラエティ・ライブ・ショウにも出演してギャラまで貰います・・取材攻勢にも曝されて、他の艦長達から観れば凄まじくチヤホヤされていると映るでしょう・・軽巡宙艦の艦長達だけで6万人以上・・副長まで含めれば12万人以上です・・彼らは運だけで艦長席に座った私達に嫉妬しているか、少なくとも邪魔だとは思っているでしょう・・目障りだから早く退場して欲しい・・早く消えて欲しいでしょう・・ですので、私達は確実に狙われています・・もう既に何人かの艦長は、共同で私達を斃そうとして作戦を段取っている筈です・・ごく自然で、当然の予測です・・結論として・・私達がそれぞれ単艦で行動するのは極めて危険であり、単艦での突破は非常に困難であると言わざるを得ません・・そこで彼らに対して先んじる為の一つ目の手として、艦隊行動とまでは言いませんがある一定度の協力共同体制を提案します・・行動方針としては、お互いに攻撃しない・・邪魔も邪険にもしない・・お互いに融通を利かせて協力し合う・・具体的には、20艦合同で・・10艦毎に分かれて・・5艦~7艦で・・2艦~3艦での模擬戦闘訓練を定期的に継続して行う・・20艦の内の1隻が複数の他艦に攻撃されている場合には、残り全艦で救援行動に移る・・紹介されるミッションには総て全艦で参加し、お互いに協力し合う・・これらを安全に効果的・効率的に遂行する為には、20艦全艦の中だけで通用する暗号秘密通信回線の設定が必要ですが実は現在、『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』との間で暗号秘密通信回線の設定が合意されていますので、この通信回線の設定を20艦全艦に於いても適用します・・以上が彼らに対して我々が先んじる為の一つ目の手です・・次に、2つ目の手について申し上げます・・ゲームフィールドでのタイムラインは、07:00~18:00迄がデイタイム・・それ以外はナイトタイムとして区分され、クルーの配置もデイシフト・ナイトシフトで区分するようにと規定されています・・我々は睡眠時間を確保しなければなりませんが、もしも短い睡眠時間で問題が無いならばデイタイムをそれだけ長く採る事が出来ます・・デイタイムを長く採れれば、その時間を訓練に費やす事が可能になります・・その為に私は、アイソレーション・タンクベッドを安価で『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』両艦の全個室と、両艦全乗員の居宅に設置するビジネスプランを考案して提案し諒承されまして、現在急速に実施されつつあります・・短く申し上げますが具体的には、私が勤める『インターナショナル・クライトン・エンタープライズ』とこちらの御社と、あるアイソレーション・タンクベッドの製造販売メーカーとの3社で、そのメーカーの製品に於ける宣伝・販売・配送・設置・アフターケアに至るまでの事業と業務を、3社合同での共同提携業務事業とする事に当該の3社で合意致しまして、現在急速に進行中です・・我々20艦が他の参加艦に対して先んじる為に私が申し上げる2つ目の手は、今は『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』の両艦だけに適用されているこのビジネスプラン・モデルを、リアル・ライヴ・ヴァラエティ・ショウに出演される他の19艦にも適用し、全艦の全個室と全艦全乗員の居宅にもアイソレーション・タンクベッドを安価で設置する事に因り、長く獲得出来たデイタイムの時間を訓練などに費やす事で、他の参加艦に対して先んじようと言う対応策なのです・・以上・・申し上げました2つが私からの提言と言いますか、提案です・・是非皆さんに於かれても考えて欲しい・・私達は皆このようなゲームが好きで、参加したくて応募しました・・運よく当選したのですから出来るだけ長く存続して、楽しみたいじゃないですか・・?・・ですが、全体では軽巡宙艦だけでも6万隻以上・・重巡宙艦と戦艦をも含めれば10万隻に届くかも知れません・・に対して我々はたったの21隻です・・折角このゲーム大会に参加出来たのです・・長く生き延びて存続して楽しみましょう・・長く存続すればそれだけギャラが貰えて儲かります・・このリアル・ヴァラエティ・ライブ・ショウも、フィフスシーズンの最終回までは確実に延ばせるでしょう・・ゲーム大会そのものも、長く継続するでしょう・・艦内個室と居宅に設置されるタンクベッドの料金は勿論使用者負担なのですが、3社合同共同業務提携事業特約特典販促キャンペーンとして、艦内個室に設置する案件に限りメーカー希望小売価格からの4割引きで対応致します・・加えてベッドの販売手数料・配送料・設置工賃・アフターケア必要経費に至るまで、当該3社で引き受けて負担させて頂きます・・なので今日お集りの9人の艦長には出来れば今日、決めて頂きたい・・その為にも、寄せられる質問には総て応答させて頂きます・・是非とも宜しくお願いします・・取り敢えず私からの提案は以上です・・長時間のご静聴に感謝します・・すみませんが、お水を一杯氷無しで頂けませんか・・?・・咽喉が渇いてもう声が・・・」

・・私はそこで言葉を切った・・マルセル・ラッチェンスがアランシス・カーサーに目配せして、アランシスは装着しているヘッドセットマイクを通して小声で指示する・・。

「・・アドル・エルクさん、お疲れ様でした・・只今皆様にも冷水をご用意致しますので、少しお待ち下さい・・冷水の用意を失念しておりました事については、謝罪致します・・アドル・エルクさん・・改めまして本当に貴重で有意義なご感想とご提言・ご提案をありがとうございました・・皆様には続けてこれまでの感想を覗いつつ、今のアドル・エルクさんからの提案に対してどう考えるのかについても、お聞かせ頂きましょう・・アドルさんにはその都度応答して頂いても結構ですし、まとめて応答して頂いても結構です・・今暫くは水を飲んで頂いてお休み下さい・・あ、只今水が来ました・・どうぞ、お飲み下さい・・」

・・ソファーに座っている私達の前に10脚の小さいテーブルが置かれ、氷入り冷水で満たされたグラスが置かれた・・勿論、私の眼の前のテーブルに置かれたグラスに入れられている冷水に氷は入っていない・・。

「・・ありがとうございます・・頂きます・・」

・・それだけ言ってグラスを取り上げると、一息で半分程飲む・・他の皆もグラスを持って口を付けている・・氷水で満たされたピッチャーが4つ持ち込まれて、間隔を置いて置かれた・・マルセル・ラッチェンスもグラスを受取って口を付けている・・彼の前にも小さいテーブルが置かれた・・リサ・ミルズは右手で、シエナ・ミュラーは左手で口を抑えている・・違うフロアでモニターを見上げながら、マーリー・マトリンもアンヴローズ・ターリントンも両手で口を抑えて、その眼には涙を溜めている・・『ディファイアント』のクルーは全員がこの情景をリアルタイムで観ていたが、3分の1は口を抑えて泣きそうになっており、もう3分の1は静かに涙を流していて、残りの3分の1は低く嗚咽を漏らしていた・・。

「・・アタシはどうして・・アドルさんが結婚する前に出会えなかったんだろう・・もしも出会えていたら・・直ぐに結婚して・・女優なんか直ぐに辞めたのに・・」

「・・アドルさんが結婚したのは16年前だよ、ハンナ・・16年前って言ったら私達、まだほんの子供じゃない・・無理だよ・・」・・と、シエナ・ミュラー・・。

「・・分かってるわよ!・そんな事・!・ああ・!・一番に好きな相手とは絶対に結婚できない・!・もう・!・」

「・・はい・・さて、それでは皆さん、続けて参りましょう・・次は『チャッカラタナ・ヴァルティン』の、クマール・パラーナ艦長です・・宜しくお願いします・・」

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