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・・『開幕』・・

・・自宅壮行会・・4・・

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「・・アドルさん・・明後日の、セレモニーですか・?・何を着て行きます・・?・・」

・・と、マーリー・マトリンが食べる手を休めて訊く・・。

「・・んー・・昨日の会見で着たスーツで行くよ・・艦長の襟章を貰っているから、それを着けてさ・・非番の時には、普段着っぽいジャケットかな・・?・・」

「・・早く艦長の制服が出来ると好いスね・・?・・」

・・スコットは食べながら訊く・・。

「・・そうだな・・出来て来れば、着るものに悩まなくて済むからな・・」

「・・何かサプライズ、考えてます・・?・・」

・・エマ・ラトナーがグラス越しに私を観る・・。

「・・うん、考えてるよ・・ここでは言わないけどね・(笑)・もう一杯、いくか・・?・・」

「・・お願いします・・」

・・そう言ってグラスを差し出すので、ツーフィンガーで注いでやる・・。

「・・まだ呑む人は・・?・・」

・・訊くと、スコット、マーリー、マレット、ハル、リーアが手を挙げる・・それぞれのグラスに、またツーフィンガーずつ注いでいった・・。

「・・処で、エレーナ参謀補佐と保安部長に頼んでいた潜入情報収集はどうだった・・?・・」

・・訊くと、フィオナが手を休めて私を観る・・。

「・・報告が遅れて申し訳ありません・・SNS5社に於いて、それぞれに艦長グループの存在は確認しましたが・・潜入は無理でした・・メインスタッフのグループもありまして、入る事は出来ましたが、私が『ディファイアント』の保安部長だと知れると、3分の1はコメントしなくなり、3分の1には距離を採られるようになりました・・残り3分の1とは普通にコメントを付け合っています・・」

「・・分かりました、ご苦労さん・・コメントの付け合いで交流が図れている人とは、そのままのペースで続けて下さい・・無理に踏み込まなくても好いですから・・他愛の無い話し合いで得られる情報が、重要になる時も来るからね・・」

「・・分かりました、続けていきます・・」

「・・シエナ副長、ハル参謀・・エレーナ参謀補佐から何か報告はあったかな・・?・・」

「・・保安部長の報告と然程には変わりません・・サブスタッフのグループもあったそうで、入る事は出来ましたが『ディファイアント』のクルーであると知られると、大体同じようなリアクションになったと・・」

・・シエナは、もう大体食べ終わったようで、そう応えた・・。

「・・そうですか・・交流が出来ている相手とは、そのまま同じペースで焦らずに踏み込まないでゆっくりと続けるように指示して下さい・・急ぐ必要は無いからね・・」

「・・分かりました・・そのように伝えます・・」

「・・話は変わりますが、アドルさん・・以前に通常の通信を戦術に組み込んで応用できると言われていましたが、具体的にはどのように応用するのでしょうか・・?・・」

・・と、ハル・ハートリーがモルトをチビチビと呑みながら訊く・・。

「・・うん・・先ず考えられるのはフェイク、偽の情報を通常通信波で流して敵性艦や集団を惑わし、その操艦を誘導すると言うものだね・・もうひとつはリレー・ビットをミサイルの弾頭に組み込んで発射し、こちらから観て敵性艦の反対側まで運んで、そこから欺瞞情報を発信して敵性艦の行動を惑わせて隙を作らせる、と言うものだ・・まあトリックの範疇なんだが、慣れていないと引っ掛かる・・それに何度も使うとバレるだろうから、同じ相手にそう何度もは使えないのが難点だな・・ああそうだ・・同盟参画艦まで惑わせてしまうのはマズいから、出航したら早急に会議室『DSC24GF』を設定してその中で、次に発信する通常通信はフェイクだよと一行書いてからにしないといけないね・・」

「・・アドルさん・・そんな話を淀み無くスラスラと言える貴方は・・絶対に普通じゃないですよ・・」

・・と、エマ・ラトナーもチビチビと呑みながら言う・・。

「・・ああ・・そうかも知れないな・・でも、サイコパスじゃないぜ・・」

「・・先輩・・運営推進本部は余りにも巨大過ぎて、得体が知れないですね・・一体何を目的としているんでしょう・・?・・」

「・・スコット・・それについては俺にも思う処があるよ・・でもその話は、次の集まりの時にしようや・・まだ始まってもいないからな・・」

「・・分かりました・・」

「・・さあ・!・まだお代わり出来るよ・・!・・どうだい・・?・・」

「・・もうお腹も胸も一杯です・・アドルさん・・」

・・エドナが満足そうに言う・・他の皆も頷いている・・。

「・・そうか・・じゃあ、お待ち兼ねのデザートタイムに入ろう・・アリシアとマーリーで冷蔵庫からケーキの箱を3つとも、全部持って来てくれ・・お披露目といこう・・」

・・アリシアとマーリーが席を立ってキッチンに向かう・・冷蔵庫を開けて箱を出しながら、アリシアがマーリーに訊いた・・。

「・・マトリンさん・・パパの事、好きなんですか・・?・・」

「・・好きだよ、どうして・・?・・」

「・・キスしたんですか・・?・・」

「・・してないよ・・♡・・」

「・・嘘・・」

「・・さ、早く持って行こ・・皆、待ってるよ・・」

「・・・はい・・・」

・・マーリーがふたつ、アリシアがひとつを持って来た・・テーブルに置いて、みっつとも箱から出す・・。

「・・すごい・・」

・・と、エマ・ラトナー・・。

「・・美味・・そう・・」

・・と、スコット・グラハム・・。

「・・どうして甘いものを観ると、別腹が空くんだろう・・?・・駄目だよね・・?・・」

・・と、マレット・フェントン・・。

「・・どのケーキも好きです・・とても選べません・・」

・・と、エドナ・ラティス・・。

「・・これがガトーショコラとザッハトルテとガトーバスクのワン・サード・カット・ホールで、こっちがベイクド・チーズケーキとプラム・タルトのハーフ・カット・ホール・・それでそっちがベリー尽くしの生クリーム・デコレーションケーキとキルシュ・トルテのハーフ・カット・ホールだ・・メリッサ・エメリック艦長が、ご主人と切り盛りされている生菓子店で買って来た・・同時に今日の花束は、エスター・セーラ・ヴェレス艦長が、ご主人と営業されている生花店で求めて来た・・それでこれが・・・その時の記念画像だよ・・それぞれのお店のサイトの中で、飾ったら好いって言ったんだ・・少しでも宣伝になれば好いからね・・ケーキは難しいだろうけど、生花だったらウチの会社でもこのお店に注文できるだろうからね・・じゃあ、アリシア・・ケーキナイフと取り皿とフォークを・・」

「・・はい・・」

・・そう言いながら2人から贈られて来た記念画像を並べ、携帯端末のモニターに表示を固定して、テーブルに置く・・シエナ・ミュラーが最初に端末を取り上げて観て、右隣のハンナ・ウェアーに渡した・・。

「・・アドルさん・・改めて貴方は・・すごいですよ・・それ以外には、言えません・・」

・・と、リーア・ミスタンテ機関部長は感じ入って感嘆しきりだった・・。

「・・さあ、切り分けるよ・・何が好い・・?・・」

・・そう訊くとそれぞれが食べたいケーキの名を挙げる・・受けて私がショートケーキ大に切り分けて取り皿に乗せる・・それにフォークを添えてアリシアがそれぞれの前に置いていく・・。

「・・頂きます・・」

「・・すごく美味しいです・・味も香りも食感もすごく好いですね・・今迄食べた中で一番美味しい位の味です・・」

・・フィオナ・コアー保安部長が満足そうにそう評する・・。

「・・そうだね・・俺もそう思うよ・・たまに俺もケーキを焼くけど、この味は出せないな・・アイスもあるけど、どうだい・・?・・」

・・そう問い掛けるが皆、首を振る・・。

「・・このケーキだけでも充分です・・本当にご馳走様です・・」

・・と、リサ・ミルズも満足そうだ・・。

「・・そうだ、ブッシュ・ミルズって言う、ケーキに好く合うモルトも買って来たんだよ・・ワンフィンガーだけ試して観てくれ・・それで酒は終わりにするから・・」

・・そう言って立ち上がると自室からブッシュ・ミルズのボトルを携えて戻り、封を切ってワンフィンガーずつ皆のグラスに注いでいく・・試みに少し含むだけで皆、眼を瞠る・・。

「・・とってもケーキの味に合うお酒ですね、初めて飲みました・・ブッシュ・ミルズですか・・リサさんの姓と同じですね・・とてもエレガントで繊細な・・可愛らしい感じもします・・」

・・と、シエナ・ミュラー副長・・堪能しているようで、満足そうな笑顔だ・・」

「・・何かこれ・・ケーキが進む酒ですね・・意外ですけど旨いです・・僕もハマりそうです・・」

・・スコット・グラハム君も、気に入ってくれたようだ・・。

「・・うん・・ありがとう・・今回の艦内持ち込みには間に合わなかったけど、来週の木曜日には届け出るよ・・アリシア・・昨夜の総合共同記者会見の配信を受けて、今日親衛隊の会合を開いただろ・?・どんな感想が出た・・?・・」

「・・そう・・やっぱり、重巡と戦艦の数が思っていたより多かったから、『同盟』は大丈夫かなって話が出て・・でもアドルさんなら絶対に大丈夫だよって意見が多かったよ・・」

「・・そうか・・心配させているようだね・・よし、それじゃ特別に私から親衛隊に対してメッセージを贈ろう・・開幕したら色々な事があるとは思うけど、【『ディファイアント』共闘同盟】はファーストシーズンを全艦で突破する・・これは約束すると、伝えてくれ・・好いかな・・?・・」

「・・分かりました・・そのように伝えます・・」

「・・よし・・それと、親衛隊長の立場としてでもアリシア個人としての立場ででも好い・・せっかく皆さんに来て頂いているんだから、質問があればしておきなさい・・?・・」

「・・分かりました・・それでは・・皆さんにお伺いします・・ゲーム大会が開幕して、皆さんがこのゲームの中で最初に達成したい個人目標を教えて下さい・・?・・」

「・・アリシアちゃんは、スポークスマンとしての才能がありますね、アドルさん・・?・・」

「・・そうだね・・親衛隊通信の編集長でもあるからね・・おっ、そうだ・・好い機会だから内々にだけど紹介しよう・・【『ディファイアント』共闘同盟】の暫定私設宣伝部長・・マーリー・マトリン女史だ・・彼女には自らが登録しているSNSの中で、我々の行動を客観的に分析して解説して貰う・・配信番組での我々の取り上げられ様も同様に客観的に分析して解説して貰う・・往く往くは同盟に参画する各艦司令部にも正式に紹介する・・んだけれども、正式な職域ではないから・・そんなに畏まるようなものでもない・・ああ、済まない・・じゃあ私からいくかな・・ハードな目標で言うと、同盟に参画する全艦を集結させた上で一通りの艦隊行動訓練を仕上げる事だね・・ソフトな目標で言うと、初出航記念艦内親睦パーティーを無事に終らせる事・・かな・・?・・じゃあ、次は副長に・・」

「・・はい・・私としてのハードな目標は、アドル艦長がブリッジに不在であってもアドル艦長並の操艦が出来るようになる事・・ですね・・ソフトな目標で言うと・・アドルさんとのデュエットを無事に終らせる事・・です・(赤面)・じゃ、ハルね・・」

「・・私のハード目標としてはやはり、私が指揮を執る場合に於いても水準以上の操艦が出来るようになる事・・です・・ソフト目標としては艦外になりますが、配信番組でどのように取り上げられようとも客観的に適切・的確に子供達に説明できるようになる事・・です・・次はハンナで・・」

「・・カウンセラーですので、全乗員を対象とした心理動向データベースの完成が急務です・・これが完成したら、スカウターとリンクさせて実用試験に入ります・・ソフトな目標としては、私のオフィスとカウンセリング・ルームのレイアウトを終らせて、アドル艦長を初めとして面談に入りますわ・・(微笑)・・次はエマね・・」

・・何・?・俺だけに観えるようにウインクした・・?!・・ああ、カウンセリング・ルームは彼女の個室だ・・カメラは無い・・そりゃそうだ・・守秘義務があるからな・・。

「・・私はメイン・パイロットですのでハードな目標と言えるかどうか分かりませんが、『ディファイアント』の機動的な限界性能を1日も早く引き出して、その上でストレス無く操艦できるようになります・・艦長の操艦指示を実現する度毎に、達成までの時間を短縮します・・シャトルの操縦に於いても、同様の目標を持ちます・・ソフトな目標としては水泳が好きなので、自己ベスト・タイムを更新します・・次は・・リーア、お願い・・」

「・・機関部長ですので『ディファイアント』の全ハード・全システム・全ソフトの完全な理解と把握を1日も早く済ませます・・その上で、パワー系の限界性能を引き出します・・ソフトな目標としては・・アドル艦長と一緒にエンジンを整備する事と・・非番の時には一緒にラウンジバーで呑む事です・・(笑)・・じゃあ、そう・・次はエドナ、お願いね・・?・・」

「・・機関部長・・それぐらいはお安い御用だよ・・それにプレ・フライトチェックで僕は、機関部を手伝うからね・・」

「・・えっ、そうなんですか・アドルさん・・?・・」

・・ちょっと驚いた表情で、シエナ・ミュラー副長が訊く・・。

「・・そうだよ・・機関部が一番時間が掛かりそうだからね・・『ディファイアント』は同盟参画艦の中でも、一番最初に出航して相互の位置関係上に於いても、基点とならなければならないから・・ブリッジは君とエマとカリーナが中心になってやってくれ・・機関部で総てのパワー・ラインとパワー・アセンブリ・・シールド・ジェネレーターまでのラインとアセンブリはこっちで観るから、その先はブリッジで観てくれ・・メインコンピューターとシールドとセンサーと、ミサイル・システムの立ち上げは頼む・・主砲と副砲の立ち上げは、エドナとこっちとの連携で進めるから・・ああ、ごめん・・喋り過ぎたね・・」

「・・分かりました・・」

「・・はい・・主砲と副砲を預かりますので1日も早くシステムに慣れて、アドル艦長が求める以上の精密な砲撃が素早く出来るように頑張ります・・有効射程の2倍の距離でも命中させられるようにします・・ソフトな目標としては、アドル艦長と一緒に射撃練習をする事と、やっぱり一緒に食事したり飲んだりする事ですね・・じゃあ次は・・マレットです・・」

「・・えー、補給支援部ですので・・求められる物を最速で購入して、補給又は届けられるようにします・・これがあったら好いんじゃないか、と言う物も予め購入して揃えてストックするようにします・・ソフトな目標としては、とにかくクルーの皆が明るく気持ち好く艦内で過ごせるようにしたいです・・非番の時はジムで運動して汗を出して、ダイエットしたいです・・それじゃ、次は・・フィオナで最後だね・・?・・」

「・・その前にちょっと好いかな・・?・・確かに補給支援部や生活環境支援部は、目立つ業務の部所じゃないが、重要度では随一だ・・その証拠に、補給が滞ったり生活環境が悪くなればクルーの士気は覿面に、それも一瞬にして下がる・・艦内の生命線であるとも言える・・どちらも死命を別つ部所だ・・だからこの両部所を預かるリーダーには、高い信頼性と強い責任感が要求される・・解ってくれているとは思うが・・途中で割って入って悪かった・・じゃあ、頼む・・」

「・・保安部を預かりますので、どのような場合に於いても全クルーの安全を守り、時には支えて時には盾にもなります・・これが何時でも何処でも従全に出来るように自分達を鍛えます・・補足的な目標を附け加えさせて頂ければ、パイロットチームと同じレベルにまでシャトルの操縦に習熟したいです・・以上です・・」

「・・皆、ありがとう・・とても感謝しているし、皆の1人1人を誇りに思うよ・・アリシアはどうだい・・?・・これで好いかな・・?・・録音していた・・?・・」

「・・はい・・皆さん、どうもありがとうございました・・端末に録音させて頂きました・・明日、メンバーに聞かせます・・皆さんの高い意識と強い意志・想いに触れる事が出来て感動しています・・改めてありがとうございます・・支える力としては弱いかも知れませんが、出来るだけ広く知らせて行きたいと思います・・」

・・そう言い終えてアリシアは頭を下げて座った・・皆から拍手が贈られる・・少し顔を赤くして涙ぐんでいる・・。

「・・よし、・・それじゃあ、んーと・・他には何かあるかな・?・皆にはそれぞれ色々な仕事やら課題を頼んでいて、忙しくさせて済まないとは思っているけど、改めて宜しく頼む・・出来た時点でも好いから報告だけ挙げてくれ・・料理もまだ沢山残っているから、食べられるようなら食べて行ってくれ・・今日の夕食は君達の為に作って持て成しをさせて貰った・・だから残らなくても好いんだ・・食べ切れないようなら持って帰ってくれ・・特にハルさんには、家でお母さんを待っているお子さん達が居るんだから、沢山持って帰ってな・?・タッパーは幾つ使っても好いから・・スコットも持って帰れ・・マーリーも持って帰って味を観て分析してくれ・・リサさんも持って帰ってご家族に食べて貰って・?・他の皆も持って帰って食べてくれ・・それで明日はそれを食べて、早くから本社に集合だ・・宜しく頼む・・やっぱり俺も酔って来たな・・?・・よし、タッパーは取り敢えず全部出すぞ・・!・・」

「・・先輩、皆で分けちゃったら明日の朝食はどうするんですか・・?・・」

「・・ウチには他にも食材は色々とあるんだから、そんな事は心配するな・・お前は独り者なんだから、こういう時には甘えてくれれば好いんだよ・・そうだ、皆で均等に分けて持って帰ってくれ・・これからシンドクなるんだから、食って力を付けてくれ・・均等に分けちゃったら少なくなるかも知れないけど、ハルさん、ごめんね・?・ご家族の皆さんに宜しく伝えて下さい・・よし、エルク家全員でタッパーを全部出して、均等に詰めよう・・!・・」

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