『星屑の狭間で』(トライアル・ミッション編)

トーマス・ライカー

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ファースト・トライアルミッション

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 ……『ディファイアント』……



 自室に入ると上着を脱いでポールに掛け、モルトのボトルとグラスを取り出してソファーに座る。


 グラスにツーフィンガーで注いでからキャップを締めてボトルを仕舞い、灰皿とプレミアム・シガレット・ボックスとライターを取り出して来て、また座る。


 グラスを取り上げてひと口を含み、香りと味と舌触りを充分に堪能して呑み、喉越しも確かめる。


 シガレットを取り出して咥え、点ける……ふた口目を含む前に、グラスを掲げて『ハンナ・アーレント』の無事を祈る……その後は…ひと口を含み、堪能し確かめて呑み…一服を喫い、蒸して燻らせるを繰り返す。


 それを10回繰り返して…喫い終わり、呑み終わる……総てを片付け、洗って拭いて収納してから…シャワーを浴びた。


 手早く洗い、流して出る……新しい下着を着けて…同じ服に消臭処理をしてまた着る……かなりサッパリした気分で、自室を後にしてブリッジに向かう。


 ブリッジに戻るとキャプテン・シートの右脇に立って、首を回した。


「……カリーナ……ミサイルを主体的に起爆させる事は出来ない……だが、主砲で狙撃すれば…中の炸薬を爆発させられる……だな? 」


「……そう…ですね……ミサイルを、そのシステム上で起爆させる事は出来ませんが……狙撃すれば、中の炸薬は爆発します……」


「……分かった……それが出来る事が判れば……結構使えるだろう……」


 そう言って、シートに座る。


「……さて……じっとしていても始まらないからな……エマ……5段変速とアンカーも使った急速変針で……敵艦からの攻撃を引き出してみようか? 第5戦闘距離の30倍~40倍の離れ具合なら…狙撃されても躱せるだろ? 」


「……そうですね……今の私と『ディファイアント』なら…躱せるでしょう……出来ると思いますよ……」


「……よし…カリーナ……ビーム砲のエネルギー・サインを操舵席でも同時に表示できるよう、システム設定を頼む……」


「……分かりました…掛かります……」


「……エマ…撃たれた場合の回避操艦は任せる……」


「…了解…」


「……リーア機関部長…臨界パワー150%……エンジン始動スタンバイ……」


「…スタンバイ…」


「……設定完了しました、艦長……リアルタイムで同時に表示します……」


「……ありがとう…エマ……ランダム変速とランダム変針だ……読まれ易いパターンにならないように注意……無理のない範囲で人目を惹くように動き回って…敵艦からの攻撃を誘う……」


「……分かりました……」


「…よし…エンジン始動して発進! 」



 ……『ラグーン・メリディウス』……



「……動き出した? ……はっきりとは観えないけど……この微かな揺らぎと、パワーサインがそうよね? でも正確な位置じゃないから…狙ったつもりで撃っても当たらない……派手に動き回って、こっちからの攻撃を引き出す事で…こちらの位置を探りたい……好いわよ、アドルさん……主砲のテストに付き合って貰いましょう……」



……『ディファイアント』……



「……エマ! 加速続行しつつ取舵20°  で10秒! 続けて面舵30°  で13秒! その次は下げ舵ダウンピッチ10°  で12秒! コーナリングは最高速で回頭! 」


「……了解! 」


「…艦長! 敵艦発砲! 右舷12°! 俯角ふかく6°! 来ます! 」


「…躱せ! 」


「…ハイ! 」


 『ディファイアント』は右舷艦首センターサイド・スラスターと左舷艦尾ダウンサイド・スラスターを最大噴射……そのままのスピードで急速回避を掛ける……それを始めて4秒で、6本のビームが『ディファイアント』上甲板の上、8mの処を3回連続で通過した。


「…この距離で撃つのか……エマ! スピードを落とさず、8秒毎にジグザグ転針しながら離れろ! カリーナ! 何処だ?! 」


「…了解! 」


「……方位197マーク284……第5戦闘距離の36倍です! 敵艦のパワーサインは感知できません! 」


「……その距離で、よく撃ったな……しかも撃っても動かない……狙って見せろと言う事か? エドナ! 狙撃できるか?! 」


「……無理ですね……こっちの位置を晒すだけです……」


「……カリーナ…エンジンパワーのサインは、感知していないんだな? 」


「……はい…敵艦のエンジンは稼働していません……」


「……よし…散開中のビーコン3基で、アクティブ・パワースキャンを同時に発振! 」


「…了解……設定完了……発振3秒前………発振! ……反射搬送波来ました……艦長! 敵艦は全くと言って良い程に動いていません! 先程の発砲ポイントと、殆ど同一です! シールドダウン! どのような遮蔽も掛けていません……」


「……敵艦をロック・アンド・トレース……」


「……了解……ロック・アンド・トレース…掛かりました……」


「……これで、あの敵艦を見失う事はない……尤も敵艦だって本艦をロック・アンド・トレースしているだろう……でなければ、あれほどに正確な狙撃はできない……このロック・アンド・トレースを外すには、今この瞬間に1秒で30kmを移動しなければならないんだが……このゲーム大会の中での軽巡宙艦に、そんな事は不可能だ………艦長から、全スタッフに通達する……基本方針が決まった……敵艦に対しては、急速接近の上で…一撃離脱を仕掛ける……この宙域には…敵艦に対し、盾として使える岩塊が多い……それらを上手く使いつつ、急速に接近して狙撃を敢行する訳だが……敵艦もそのように動くだろう……因って……ここで君達の意見を聞いた上で……基本的な対応方針を決したい……つまり……本艦の侵攻コースと……敵艦に於けるそれとを、綿密に予測し……コースパターンを50通りに策定して……それに沿って作戦を遂行するか又は……何も予測せず、決めずに侵攻を開始するか………意見を頼む……」


 15秒の沈黙が続くと…シエナ・ミュラー副長とハル・ハートリー参謀と、リーア・ミスタンテ機関部長とエドナ・ラティス砲術長と、メインパイロットのエマ・ラトナーが素早く視線を交わし合うと頷き合って立ち上がり、キャプテン・シートに歩み寄って来た。


「…アドル艦長……何も決めないでいきましょう……」


「…そうです……どう予測しても、それは必ず裏切られます……」


「…はい……それで1度予測から外れれば……簡単に裏を掻かれて撃たれます……」


「…ええ……撃たれれば、例えシールドを張っていても…先程に観た主砲のパワーですから……直ぐに致命的な損傷になるでしょう……」


「…何も決めずにスタートし……全員の認識…反応…判断…瞬発の力と動きを最大限に高めて戦いましょう……それで敗けるのなら……全員が納得できます……」


「……ありがとう……君達は、もう立派に一人前だよ……それぞれが艦長になっても…充分にやっていける……改めてさ…君達を選び出せて、本当に良かったよ……それじゃ…何も決めないで行こうか……控室のキャビネットからヴァイザーをブリッジの人数分出して、全員に配付してくれ……そしてそのまま全員のヴァイザーに、総てのセンサー・レンジとターゲット・スキャナーとトリガーを配備……それが出来たら…始めようか……」

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