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夏祭り(2)

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「クリスティーナ、どこまで……」
「人が少ない所にって思ったんだけど、ここでいいかな」 

 しばらく歩いて人通りの少ない細道までやって来ると、ようやくクリスティーナは立ち止まった。
 そしてヘンリーに真正面から向き合った。

 大通りの方から微かに楽しそうな声が聞こえている。

(せっかくのお祭りだけど、ケジメをつけないとお互い楽しめないものね)

 クリスティーナは深呼吸をしてから口を開いた。

「あのね、ちゃんと謝ろうと思って」
「え?」

 クリスティーナの言葉にヘンリーの目が丸くなる。

「ソフィアのお茶会に迎えに来てくれた時、泣いているところを見られちゃったでしょう? それが恥ずかしくて……少し会うのが恥ずかしかったの。だから避けてました。ごめんなさい」

 それが理由の全てではないけれど、嘘はついていない。クリスティーナは、好きという気持ちを封印してヘンリーに伝えた。
 ヘンリーは驚いていたが、理由を聞いてホッと安堵していた。

「そうでしたか……僕はてっきり嫌われてしまったのかと思いました。あの日、僕は少し強引でしたから」
「そんな! ヘンリーを嫌うなんてこと、あるわけないわ! その、抱きしめてくれて……嬉しかったの」

 勢いで言ってしまってから急に恥ずかしくなった。抱きしめられた時のことを鮮明に思い出してしまったのだ。

 熱くなった頬を隠すように両手で抑える。

(こんな時に……思い出しちゃ駄目よ!)

 ぎゅっと目を閉じると、両手に冷たいものが触れた。
 目を開いて見ると、ヘンリーがクリスティーナの手に触れていた。その手は冷たく、少し震えていた。

「本当ですか?」
「当たり前でしょ! だって! ……ヘンリーはいつでも優しいじゃない」

 至近距離で見つめられて、思わず好きだと言ってしまいそうだった。
 
(勘違いしてはダメよ。ヘンリーは『婚約者役の私』を大切にしてくれているだけなんだから!)

 それでも心配そうにこちらを見つめるヘンリーは、愛おしい存在に違いなかった。

「良かった……本当に嫌われたのかと思っていました」
「ごめんなさい」

(ヘンリーの気持ちを考えずに避けてごめんなさい。……嘘をついてごめんなさい。こんな時にもドキドキしてごめんなさい)

 クリスティーナは心の中でたくさんの謝罪をした。
 そして、もう絶対に避けないと心の中で誓ったのだった。



「そういえば、ヘンリーの話ってなんだったの?」
「あぁ……それはもう解決したので大丈夫です。僕も同じ話をしようと思っていましたので」
「なあんだ。てっきり別れ話でもされるかと思ったわ」
「それはこちらの台詞です。あれだけ避けておいて……」

 わざとらしくため息をつくヘンリーが可笑しくて、思わず笑いがこみ上げる。
 そしてお互い目を合わせて、クスクスと笑い合うのだった。

(十分だわ。片思いだって、こんなにも幸せなのだから……)
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