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第一章
35. 夜明け
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窓から差し込む太陽が眩しい。
目覚めると、裸のまま広いベッドの上に横になっていた。
いつかの朝と同じ光景。
けれど一つだけ違ったのは、逞しい腕に後ろから抱きすくめられていることだった。
肩から胸にかけて回された腕の中で、何とか身を捩り後ろを振り向く。
そこにいたのは、寝顔ですら美しい王子様のような男だった。
綿菓子のように白く滑らかな肌。
ミルクティーのように甘そうな髪。
宝石を詰め込んだようなヘーゼルの瞳。
その瞳を隠す長い睫毛でさえ、ミルクティーのように甘やかな色だった。
思わずその睫毛へと手を伸ばし、爪の先でくすぐるように撫でる。
「……腹立つ寝顔」
小さく呟いた声は、酷く掠れていた。
僅かに走る喉の痛みに顔を顰めてしまう。
すると、長い睫毛がゆっくりと瞬き、形の良い唇が言葉を紡いだ。
「上手になけたね」
その台詞に、思わず眉間に皺が寄る。
「それ、どっちの意味?」
けほっ……と空咳をすれば、彼は喉をくすぐるように首筋にキスをした。
「両方だよ」
ちゅ、と甘い音が鳴り響く。
その音から顔を背けたいのに、いつの間にか体は腕の中へと引き込まれてしまった。
「おはよう。体、大丈夫?」
「はよう。全然大丈夫じゃねぇ……」
今更な挨拶と共に、甘やかな雰囲気なんてあっという間に消えていった。
残された体の痛みにベッドの中で丸まれば、早川は優しく腰を摩ってくれた。
「そうだ。昨日の話の続きなんだけど……」
その言葉に枕に埋めていた顔を上げる。
「急な打ち合わせで、担当に会ってたって言ったでしょ?」
「……うん」
「可愛いヤキモチ焼きな君に、報告があります」
「……なに?」
思わずごくりと喉を鳴らす。
すると、早川は高らかに言った。
「月刊誌の連載が決まりました!」
「はっ……」
「彼女に渡してあったネームが、企画会議を通ったんだよ。その連絡と今後の相談だったんだ」
「えっ……」
「心配かけてごめんね。でもせっかく報告しようと思ってルンルンで帰ったら、間宮くんいないんだもん。僕、傷ついたなぁ?」
「やっ……」
「や?」
「やったぁあああああっ!!!」
突然叫んだ俺に、早川は仰け反った。
「やったじゃん早川さん!すっげぇ!!どうしよう……っ、お祝いしなきゃっ!!!」
呆気にとられている彼の隙をついて、今度こそその腕から擦り抜ける。
腰も在らぬ所も痛いが、そんなことは言っている場合ではなかった。
「俺、めっちゃ気合い入れて朝飯作るな!今日休みだから、昼飯もっ!夜飯もっ!」
脱ぎ散らかしたままの服をかき集めて、素早く身につける。
「なんか食いたいものある?今なら何でもリクエスト叶えてやるよ!」
そう言って振り返れば、枕に頬杖をついた早川が呟くように言った。
「ねぇ。君は……、どうして僕を好きになってくれたの?」
その言葉に、今度は俺が呆気に取られる。
目の前で真剣に揺れるヘーゼルを見つめながら、頭をフル回転させて考えた。
どうして?
綿菓子のように白い肌が綺麗だから?
ミルクティー色の髪が甘そうだから?
宝石を詰め込んだようなヘーゼルの瞳に魅了されたから?
……違う。
そんなものは、彼を象る上部でしかない。
バスに乗ってはしゃぐ姿が好き?
甘いものが大好きなところが好き?
さりげない気遣いができる優しさが好き?
……違う。
そんな、甘い理由じゃない。
どうして、なんて決まっていた。
「アンタが王子様だったから」
ヘーゼルの瞳が、瞬いた。
「え、どういうこと?」
そんな情けない声で訊かれても教えてなんかあげない。だって、俺は御伽噺に出てくる様な素直で優しいお姫様なんかじゃないから。
寂れた公園で俺を見つけてくれたあの日から、ずっとアンタは特別だったなんて……恥ずかしくて言えないだろう?
薄く開かれた形の良い唇に口付けを一つ落として、そのまま機嫌良く寝室を後にする。
今から美味しい朝食を作るんだ。
全ては、俺を迎えに来てくれた、たった一人の王子様のために……なんてね。
***
次回・第一章エピローグです!
目覚めると、裸のまま広いベッドの上に横になっていた。
いつかの朝と同じ光景。
けれど一つだけ違ったのは、逞しい腕に後ろから抱きすくめられていることだった。
肩から胸にかけて回された腕の中で、何とか身を捩り後ろを振り向く。
そこにいたのは、寝顔ですら美しい王子様のような男だった。
綿菓子のように白く滑らかな肌。
ミルクティーのように甘そうな髪。
宝石を詰め込んだようなヘーゼルの瞳。
その瞳を隠す長い睫毛でさえ、ミルクティーのように甘やかな色だった。
思わずその睫毛へと手を伸ばし、爪の先でくすぐるように撫でる。
「……腹立つ寝顔」
小さく呟いた声は、酷く掠れていた。
僅かに走る喉の痛みに顔を顰めてしまう。
すると、長い睫毛がゆっくりと瞬き、形の良い唇が言葉を紡いだ。
「上手になけたね」
その台詞に、思わず眉間に皺が寄る。
「それ、どっちの意味?」
けほっ……と空咳をすれば、彼は喉をくすぐるように首筋にキスをした。
「両方だよ」
ちゅ、と甘い音が鳴り響く。
その音から顔を背けたいのに、いつの間にか体は腕の中へと引き込まれてしまった。
「おはよう。体、大丈夫?」
「はよう。全然大丈夫じゃねぇ……」
今更な挨拶と共に、甘やかな雰囲気なんてあっという間に消えていった。
残された体の痛みにベッドの中で丸まれば、早川は優しく腰を摩ってくれた。
「そうだ。昨日の話の続きなんだけど……」
その言葉に枕に埋めていた顔を上げる。
「急な打ち合わせで、担当に会ってたって言ったでしょ?」
「……うん」
「可愛いヤキモチ焼きな君に、報告があります」
「……なに?」
思わずごくりと喉を鳴らす。
すると、早川は高らかに言った。
「月刊誌の連載が決まりました!」
「はっ……」
「彼女に渡してあったネームが、企画会議を通ったんだよ。その連絡と今後の相談だったんだ」
「えっ……」
「心配かけてごめんね。でもせっかく報告しようと思ってルンルンで帰ったら、間宮くんいないんだもん。僕、傷ついたなぁ?」
「やっ……」
「や?」
「やったぁあああああっ!!!」
突然叫んだ俺に、早川は仰け反った。
「やったじゃん早川さん!すっげぇ!!どうしよう……っ、お祝いしなきゃっ!!!」
呆気にとられている彼の隙をついて、今度こそその腕から擦り抜ける。
腰も在らぬ所も痛いが、そんなことは言っている場合ではなかった。
「俺、めっちゃ気合い入れて朝飯作るな!今日休みだから、昼飯もっ!夜飯もっ!」
脱ぎ散らかしたままの服をかき集めて、素早く身につける。
「なんか食いたいものある?今なら何でもリクエスト叶えてやるよ!」
そう言って振り返れば、枕に頬杖をついた早川が呟くように言った。
「ねぇ。君は……、どうして僕を好きになってくれたの?」
その言葉に、今度は俺が呆気に取られる。
目の前で真剣に揺れるヘーゼルを見つめながら、頭をフル回転させて考えた。
どうして?
綿菓子のように白い肌が綺麗だから?
ミルクティー色の髪が甘そうだから?
宝石を詰め込んだようなヘーゼルの瞳に魅了されたから?
……違う。
そんなものは、彼を象る上部でしかない。
バスに乗ってはしゃぐ姿が好き?
甘いものが大好きなところが好き?
さりげない気遣いができる優しさが好き?
……違う。
そんな、甘い理由じゃない。
どうして、なんて決まっていた。
「アンタが王子様だったから」
ヘーゼルの瞳が、瞬いた。
「え、どういうこと?」
そんな情けない声で訊かれても教えてなんかあげない。だって、俺は御伽噺に出てくる様な素直で優しいお姫様なんかじゃないから。
寂れた公園で俺を見つけてくれたあの日から、ずっとアンタは特別だったなんて……恥ずかしくて言えないだろう?
薄く開かれた形の良い唇に口付けを一つ落として、そのまま機嫌良く寝室を後にする。
今から美味しい朝食を作るんだ。
全ては、俺を迎えに来てくれた、たった一人の王子様のために……なんてね。
***
次回・第一章エピローグです!
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