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第二章

9. ミッション①

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「その一、連絡頻度と会う回数をほどほどに……?」

 意気揚々と作戦に乗り出そうとした俺は、早々に問題に直面した。

 まず、連絡頻度。
 思い返せば、連絡なんて昼休みの度に毎日のようにとっていた。
 なぜなら、もともと朝・晩の食事の用意という契約内容だったが、最近は俺が朝食を作るのついでに昼食の分まで簡単に作り置きするようになったからだ。
 その理由は、仕事に集中しすぎる早川が昼食を抜いていることが発覚したから。

【お疲れ様。仕事しながらでも食べられるようにサンドイッチ作って冷蔵庫入れといたから。時間のある時に食べろよ。】
【今日は冷蔵庫にピラフあるから。休憩の時にレンジでチンして食べて。】

 そんなメッセージを送っていたら、いつの間にか昼休みなると向こうから連絡が来るようになっていた。

【こんにちは。今から昼食をいただきます。今日は暑いから冷やしうどんで嬉しいな。】
【授業お疲れ様。昨日のカレーが辛かったのがバレてたみたいで恥ずかしいな。カレートースト、甘口にしてくれてありがとう。美味しかったよ。午後も頑張ってね。】

 彼は、必ず『いただきます』や『ありがとう』を欠かさない。細かいところにまで気がついてくれて、喜んでくれる。

 そんなやりとりが、むず痒くも嬉しかったのだがーー…………、

 頭を悩ませ捻った挙句、俺はお昼のメッセージに返事するのをやめてみた。
 それが、一日・二日と何事もなく経ち、三日目を過ぎた頃、早川が言った。


「最近忙しそうだね?」
「あーー……、うん」


 上手く誤魔化せていると思う!


 しかし、次の会う回数を減らすのは難関だった。だって、俺達は、一つ屋根の下で一緒に暮らしているのだから。

「…………顔を合わせなきゃセーフなのか?」

 散々頭を悩ませた挙句、俺は閃いた。


 そうだ。
 家の中で、隠れてみよう。


 帰宅するのにすら、息を潜める。
 仕事部屋から顔を覗かせるであろう早川の死角に入るために、自分に言い聞かせた。

(俺は、壁……! 俺は、壁……!)

「おかえり、蒼大くん。ドアと壁の隙間で何してるの?」
「あーー……、うん」

 今度は、風呂上がりの早川と会わないように、暗闇の中で息を潜める。

(俺は、闇……! 俺は、闇……!)

「お風呂お先にありがとう、蒼大くん。クローゼットの中で何してるの?」
「あーー……、うん」


 これは、一向に上手くいきそうにない。


 結局このミッション一は、どちらも一週間しか続かなかった。「寂しい」なんて言い出した早川に、ベッドでぐずぐずに甘やかされて止めるように説得されてしまったのだ。


 悔しいが……、正直俺も寂しかったから良しとする。


 肝心の質問はーー……?


「早川さん! お、俺の……、お、俺の……、の、のののノドグロ食べたい」
「よし、お取り寄せしようか」


 気を取り直して! 次行ってみよう!!
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