星に願いを

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〜 Side story 5 〜

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「どうして毎年カレーなんだっけ?」
「お前が食べたいって言い出したんだろ?」
「そうだっけ?」
「そうだろ」
「僕は辛口が好きだし」
「だな」
「君は、甘口派なのにねぇ」
「全く好みが合わないよな」
 そう返事しながら耐えきれずに笑えば、栗色の髪を揺らしてお前もクスクスと笑い出した。
「周りからはよく、見た目と中身が逆って言われたよね。僕達ー……」
 笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭うその姿は、いかにも甘口が似合いそうで。

 あの日のお前は、幸せそうだった。

*****

7月5日(火)曇り時々雨


「今夜は何を見てるんだ?」

 病室の中は、夕陽が分厚い雲に隠されたせいですっかり夜の気配に包まれていた。
「空を、見てました」
 そう答えるお前は、夜に消えてしまいそうな程儚く見えた。
 少しでも近づきたくて、いつものパイプ椅子ではなく、ベッドの端へと腰掛ける。
 いつもより縮まる距離に、自分の鼓動が少し速くなるのを感じた。
 しとしとと降り頻る雨を見つめながら、七夕の日を想う。

「今年は、晴れるかな」

 そう言葉を紡げば、お前は驚いたように目を見開いた。交わした視線のその先で、微かに瞳が熱を孕む。そこで気がついた。

 甘く包み込むような優しい香り。
 
 それを嗅いでしまったのは、いつもより近い距離のせいだった。

 甘い。
 優しい。
 大好きな香り。

 懐かしい香りだった。
 いつでも側にあった筈の香りだった。

「…………あの」

 震える声が、言葉を紡ぐ。
「カレーは、何口派ですか?」

 雨音が、遠のいてゆく。


「甘口派」


 なぁ、一番星。
 俺は、明日も隣にいてもいいだろうか。

 
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