星に願いを

一色

文字の大きさ
14 / 16

〜 Side story 6 〜

『僕達、別れよう』

 栗色の柔らかな髪が揺れる。
 小さな唇は色を失くし震えていた。

『……理由?決まってるだろう』

 喉が引き攣る。
 頭が割れる程に痛い。
 
 ……これは現実?夢?


 違う。

 違うんだ。


 ……なぜ、違うのか?


 それは、


 俺は、この続きの言葉を知っているから。


「『君が、嫌いになったからだよ』」


 これは、過去。

******

7月6日(水)雨

「彼に、釘を刺しただけよ」

 雨音に包まれた喫茶店で、そう呟いたのはマネージャーだった。
「人気が出始めて、ようやく仕事が軌道に乗ったところなのよ。これが、最善の選択だと貴方なら分かるわよね?」
 カラリ……、と溶け出す氷が冷たい音を立てて崩れ落ちる。目の前に出されたのは厚みのある封筒だった。

「せっかく用意してあげたのに。彼、受け取らなかったわ」

 彼女は、大きく溜息をついた。
 その瞳は、恨めしそうに俺を睨んでいる。
「ねぇ、遊びたい時期なのは分かる。でも、今はやめておきなさい。まして、幼馴染の情と恋愛を混同してはいけないわ」
「していません」
「嘘よ」
「本当です」
「……彼、男よ?」
「あいつと離れるくらいなら、こんな仕事辞めたっていい」
「いい加減にしなさいっ!」
 次の瞬間、悲鳴のような声が叫んだ。
 

「彼じゃ、貴方を幸せにできない!!」


 そっと瞳を伏せれば、栗色の髪を揺らして微笑む姿が浮かんで見えた。
 俺は、机の下で拳を握りしめる。

「違う」

 違うんだ。
「……何が違うの?」
 頭の中の声は、いつの間にか溢れ出す。


「俺が、あいつを幸せにしたいんだ」


 頭を深く下げれば、彼女はもう何も言わなかった。





 その日の午後、俺は一人病院の待合室で手紙を書いた。
 会わない代わりに、ありったけの願いと想いをその一言に詰め込んでゆく。
 
 星に祈るのは、もうやめた。
 あの日の返事は、もう決まっている。

 そして、ずっとクローゼットの奥に眠らせていたものを渡す覚悟を決めた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!