星に願いを

一色

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〜 Side story 6 〜

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『僕達、別れよう』

 栗色の柔らかな髪が揺れる。
 小さな唇は色を失くし震えていた。

『……理由?決まってるだろう』

 喉が引き攣る。
 頭が割れる程に痛い。
 
 ……これは現実?夢?


 違う。

 違うんだ。


 ……なぜ、違うのか?


 それは、


 俺は、この続きの言葉を知っているから。


「『君が、嫌いになったからだよ』」


 これは、過去。

******

7月6日(水)雨

「彼に、釘を刺しただけよ」

 雨音に包まれた喫茶店で、そう呟いたのはマネージャーだった。
「人気が出始めて、ようやく仕事が軌道に乗ったところなのよ。これが、最善の選択だと貴方なら分かるわよね?」
 カラリ……、と溶け出す氷が冷たい音を立てて崩れ落ちる。目の前に出されたのは厚みのある封筒だった。

「せっかく用意してあげたのに。彼、受け取らなかったわ」

 彼女は、大きく溜息をついた。
 その瞳は、恨めしそうに俺を睨んでいる。
「ねぇ、遊びたい時期なのは分かる。でも、今はやめておきなさい。まして、幼馴染の情と恋愛を混同してはいけないわ」
「していません」
「嘘よ」
「本当です」
「……彼、男よ?」
「あいつと離れるくらいなら、こんな仕事辞めたっていい」
「いい加減にしなさいっ!」
 次の瞬間、悲鳴のような声が叫んだ。
 

「彼じゃ、貴方を幸せにできない!!」


 そっと瞳を伏せれば、栗色の髪を揺らして微笑む姿が浮かんで見えた。
 俺は、机の下で拳を握りしめる。

「違う」

 違うんだ。
「……何が違うの?」
 頭の中の声は、いつの間にか溢れ出す。


「俺が、あいつを幸せにしたいんだ」


 頭を深く下げれば、彼女はもう何も言わなかった。





 その日の午後、俺は一人病院の待合室で手紙を書いた。
 会わない代わりに、ありったけの願いと想いをその一言に詰め込んでゆく。
 
 星に祈るのは、もうやめた。
 あの日の返事は、もう決まっている。

 そして、ずっとクローゼットの奥に眠らせていたものを渡す覚悟を決めた。
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