あり余る嘘と空白

リミル

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不穏2

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「僕が行ってくるからお店のほうはお願いするね」

「……さっきの人、同じ学部の先輩なんです。すれ違ったりする度にからかわれてて。その……立花さんは全然関係ないんですっ。僕に難癖つけたいだけで……だから、任せてください」

顔を青くしている二葉に、立花は柔らかく笑って「大丈夫だよ」と囁いた。膨らむ不安に、大きな瞳からひっきりなしに涙を溢れさせている。

「立花さん。ぼく、本当は……」

「すぐに帰って来るから。二葉君は気にしないで」

何かを言いかけた二葉を遮り、立花は「行ってくるね」と
残して指定された場所へ向かった。営業時間の変更や学祭のお知らせで本館の学生課を訪れたことは何度かあったが、別館へ踏み入るのは初めてだ。学生達が日々研究に勤しんでいるため、どの階もしんと静まり返っているかと思いきや、部屋を行ったり来たりしているところも多い。連なる何部屋かで1つの研究室なのだろう。

最後の角を曲がると、人の気はほとんど感じられなくなった。メモの内容と部屋の番号を照らし合わせ一致しているのを確認して、立花は扉を3回程叩いた。

「先程は失礼致しました。代わりのものをお届けに上がりました」

「おう。待ちくたびれたぜ。……もう1人のオメガはいないのか?」

「……はい」

昼間なのに照明を落としてカーテンを閉めきっている部屋は、埃っぽい匂いがする。中に入るように男に命令されたが、立花は断った。中学や高校のときにも似たような手口を使って誘われた経験がある。身体能力の差で劣るオメガは、こうやって自衛する他ないのだ。

「数が少ないうえに噛まれてないオメガなんてかなりレアだからなぁ……まあ、1人捕まえただけでも上々か」

「は……?」

とん、と軽く背中を押されただけで、立花は前方へとよろめいた。後ろを振り向く間もなく、話している男とは違う別の誰かが、後ろの扉を閉めた。完全に油断していた。勝手に1人だけだと思い込んでいたのだ。方向感覚さえ分からない真っ暗な視界の中で、立花は笑い声を上げる男から遠ざかるように逃げる。

「ほーら、捕まえたぞ。あ……? こいつ、二葉 真白じゃねぇじゃん。どういうことだよ」

後退る立花の背後を取った男が合図を送ると、カフェに客として来ていたもう1人が照明を点けた。細い立花の両手首を片手で纏めて拘束しながら、ぐっと力をかけて床に押しつけられる。

「俺もそっちを狙ったはずなんだけどなぁ……。けど、顔はお兄さんのほうが好みだったしちょうどいいか。どうせ二葉なんて可愛い顔してヤりまくってんだろ。慣れててもつまんねぇし」

「オメガが2人のこのこやって来るって聞いたから、取り分は1人ずつってことで協力したのに。あーあ、期待外れ」

見下ろして好き勝手言う男達を、立花は這いつくばりながら睨んだ。

「離して……!」

「ははっ……いい匂いさせておいてよく言うよ。顎ちっさいなー……俺の全部入りきるかな」

立花の顔のラインを撫でて、ズボンの下で膨らんでいるものを見せつけると、口を開くように指示する。

「いや……! 嫌だっ……やめ」

今から犯される状況を、オメガの本能はすでに受け入れている。縛られて物のように酷く扱われていることにすら感じて、秘部を自らの体液で濡らした。

「噛まれたらどうすんの」

「妙なことしようとしたら顎外すからいいよ」

立花の耳下の間接のあたりを指で小突くと、愉快そうに笑った。

「いや……っ。や、あぁ……」

「いいねぇ。そうやって抵抗されんのゾクゾクする。そういう子のほうが楽しみ甲斐があるからな」

「お前サド過ぎ。怯えちゃってるじゃん。ほら、オメガちゃん、気持ちよくしてあげるから足開きな」

立花の弱々しい抵抗を楽しんでいた男達は、華奢な身体を簡単に組み伏せて片手間に衣服を取り払っていく。オメガのフェロモンが満ちていくと、弄ぶ言葉も徐々に少なくなる。立花だけが半端な理性を抱えたまま、今から犯されるのだ。

「助けて……っ。たすけて……!」

身体中を這いつくまわる手から逃れようと、立花はもがいた。

──気持ち悪い……気持ち悪いっ!

「すげぇ……男でもこんなに濡れるんだな」

くちゅり、と指を飲み込む音とともに入り込んでくる。嫌なのに、無理矢理抱かれようとしているのに、オメガの身体はそれを嬉々として受け入れている様子が分かるのだ。

「や……たすけ……。いや、嫌……っ! あ、あ……」

悲鳴は途切れて屈辱的な状況でも、快感を拾うようになる。髪を引っ張られて口での奉仕を要求され、立花はさらに抵抗した。他の性より非力で何かに長けている訳でもない……蔑まされるためにカーストの最底辺にいる。そうなるようにつくられたとしか考えられない。
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