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年下Subは甘えたい
可愛い恋人3
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大型連休前、そして深見が休暇から復帰したこともあり、社員達の士気は高かった。ここ数日の進捗で見積もれば、五日はゆうに休める。会社の優待で取得した、海沿いのリゾートホテルの予約チケットを携え、深見は駅のロータリーへ車を走らせた。
『とうちゃくー』
バイブレーションがメッセージ受信を伝える。深見は背を浮かせて、汐の姿を探した。向こうに気付かれるよりも先に、深見は愛しい恋人を視界に捉えた。
小顔で手足も細い、モデル体型だ。道行く人々の視線を集めているのが、傍から見ていてよく分かる。待ち合わせの場所を詳しく書いて送ると、画面から顔を上げてきょろきょろと自分のことを探し出す。窓越しに深見を確認すると、琥珀色のとろりとした瞳を細めた。顔の横で手を振る仕草に心をきゅんと掴まれてしまい、仕事の疲れが全て吹き飛んだ。
「おまたせー。ニ週間ぶりだねぇ。誠吾さんお仕事お疲れさ……ま?」
実物の汐と声を聞いていると、愛しさが込み上げてきて、深見は堪らず両手を伸ばした。体温が手の内で緩く蕩ける。
「会いたかった。汐君がいなくて寂しかったんだ、すごく。一日でも多く休みを取りたくて、頑張ったんだ」
「僕もおんなじ……。再試になったら誠吾さんのお家行けないもん。テスト頑張ったよ。単位全部回収出来ました」
「はは。すごいな。汐君は偉い」
頭を撫でてやると、汐は満足げな顔を見せた。
「誠吾さんもすごいね。お仕事本当にお疲れさま……僕も撫でていい? よしよし……」
おずおずと、汐の手が深見の後頭部を撫でる。褒められたい欲など、今まで生きてきた中で欠片もなかった。かといって、弱い部分を他人にやすやすと見せられる性でもない。
「会いたかった。寂しかった」は口先でつくった言葉ではなくて。指で触れられたところから、疲労が滲んで消えていくようだった。涙の膜が張った瞳を見つけられたくなくて、しばらく汐の胸に頭を預けていた。
「誠吾さん……? だいじょぶ? 疲れてない? 運転代わろうか? ペーパーだからぶつけたらごめんだけど。あっ、でも、誠吾さんの車高そうだから、向こうから避けてくれるかなぁ」
なんて軽口を叩きながら、汐は後ろ髪を梳く。流れていく車のライトが、深見達のいる車内を淡く照らした。
「家に帰るまでは補充出来たから大丈夫だ。安全運転でいくから安心してくれ」
「ほじゅう……?」
あ、ガソリンのことかー、と汐が小声で呟く。久方ぶりに可愛い恋人を助手席へと乗せて、帰路を共にした。金曜日ということもあり、駅近くの酒屋はサラリーマンや学生達で賑わっている。居酒屋がそんなに珍しいのか、汐の視線は外の景色に釘付けだった。
「僕が働き始めたら、誠吾さんと毎週末飲みに行きたいな。毎回違うお店に行ってはしごしたりして」
「社会人になったら、そんな元気なくなるぞ。一秒でも早く家に帰りたくなる」
「えー!? やだなぁ、それ。もっと夢持たせてよ。マジなトーンじゃん」
お互いの近況を打ち明けながら、深見は車を走らせる。普段の様子から、汐の修学状況について不安を感じていたが、全く問題ないどころか、むしろ成績は上位のほうだと言う。
自宅はプライベートを重視する深見にとって、唯一安息出来る場所だ。他に浪費する趣味もなかったし、住まいは貯金の半分を使って購入した。快適さと自由を手に入れたが、帰宅して真っ暗な部屋に入るときの寂しさは、賃貸でもタワーマンションでも変わらない。住み始めた最初の頃は、嵌め込みの大きな窓ガラスから見下ろす景色が好きだった。ただ、ぽつぽつと点在する暖かな光を見て、それぞれに家庭の形があるのだと思うと、ぎゅうと胸が締めつけられた。
「わあ……! 景色が綺麗だねぇ。わ、こっちにウォーターサーバーもある! ねえ、お水飲んでもいい?」
「好きに使ってくれ。汐君の家でもあるんだから」
「やった。誠吾さんブルジョワだね。僕の家、冷蔵庫のおっきいミネラルウォーターに口つけて飲んだら怒られるよ」
「お水美味しいね!」とキラキラ目を輝かせる汐に、深見の庇護欲がきゅうんと刺激される。今、強請られたら何でも貢いでしまいそうだ。甘え上手な恋人のために、深見は買い置きしていたダッツアイスを持ってきた。ソファに座り、膝の上へ誘導する。
「汐君軽いな。ちゃんと食べてるか?」
「食べてるよ。今、五十五キロくらい?」
「……ないだろう」
「んー……五〇あるかないか、かな」
不健康なほどではないけれど、平均よりは十分に少ない。細身の汐を抱きかかえ、深見はピスタチオフレーバーのダッツアイスを口元へ運んだ。
「へ……? な、なに?」
「何って。食べさせたいんだ。たくさん甘やかしたい」
えぇ、と何故か汐が不満そうな顔をする。唇を尖らせてふい、と視線を逸らす様子は、出会った当初のような、媚びないクールさを思い起こす。疑問に思い、深見は問いかけた。
「アイス。あまり好きじゃなかったか?」
「う、ううん! 誠吾さんが食べさせてくれるの、すっごく嬉しい!」
愛くるしい笑顔になり、汐はスプーンに乗っかるアイスをねだった。首元にぎゅう、と腕をまわして抱きつかれ、深見も同じように笑みを溢した。
汐を意識し始めて気付いたことだが、どうやら自分はSubに尽くされるよりも尽くしたい性格のようだ。
唇をもぐもぐ動かしながら、汐は至福の表情を浮かべる。
「おいしー……。ピスタチオ味、限定で売り切れてるところ多いのに、すごいね」
学校前も家の周りのコンビニも売り切れ。誠吾さん、見かけたらついでに買っておいて欲しいな。
SNSに投稿された情報を頼りに、深見は手を尽くして限定フレーバーのアイスを探し出したのだ。車で往復三十分ほどのコンビニへ、クーラーボックスを持参して持って帰った甲斐があった。縁から緩くなりだしたアイスクリームのような表情で、汐は「ありがとう」とお礼を言う。
『とうちゃくー』
バイブレーションがメッセージ受信を伝える。深見は背を浮かせて、汐の姿を探した。向こうに気付かれるよりも先に、深見は愛しい恋人を視界に捉えた。
小顔で手足も細い、モデル体型だ。道行く人々の視線を集めているのが、傍から見ていてよく分かる。待ち合わせの場所を詳しく書いて送ると、画面から顔を上げてきょろきょろと自分のことを探し出す。窓越しに深見を確認すると、琥珀色のとろりとした瞳を細めた。顔の横で手を振る仕草に心をきゅんと掴まれてしまい、仕事の疲れが全て吹き飛んだ。
「おまたせー。ニ週間ぶりだねぇ。誠吾さんお仕事お疲れさ……ま?」
実物の汐と声を聞いていると、愛しさが込み上げてきて、深見は堪らず両手を伸ばした。体温が手の内で緩く蕩ける。
「会いたかった。汐君がいなくて寂しかったんだ、すごく。一日でも多く休みを取りたくて、頑張ったんだ」
「僕もおんなじ……。再試になったら誠吾さんのお家行けないもん。テスト頑張ったよ。単位全部回収出来ました」
「はは。すごいな。汐君は偉い」
頭を撫でてやると、汐は満足げな顔を見せた。
「誠吾さんもすごいね。お仕事本当にお疲れさま……僕も撫でていい? よしよし……」
おずおずと、汐の手が深見の後頭部を撫でる。褒められたい欲など、今まで生きてきた中で欠片もなかった。かといって、弱い部分を他人にやすやすと見せられる性でもない。
「会いたかった。寂しかった」は口先でつくった言葉ではなくて。指で触れられたところから、疲労が滲んで消えていくようだった。涙の膜が張った瞳を見つけられたくなくて、しばらく汐の胸に頭を預けていた。
「誠吾さん……? だいじょぶ? 疲れてない? 運転代わろうか? ペーパーだからぶつけたらごめんだけど。あっ、でも、誠吾さんの車高そうだから、向こうから避けてくれるかなぁ」
なんて軽口を叩きながら、汐は後ろ髪を梳く。流れていく車のライトが、深見達のいる車内を淡く照らした。
「家に帰るまでは補充出来たから大丈夫だ。安全運転でいくから安心してくれ」
「ほじゅう……?」
あ、ガソリンのことかー、と汐が小声で呟く。久方ぶりに可愛い恋人を助手席へと乗せて、帰路を共にした。金曜日ということもあり、駅近くの酒屋はサラリーマンや学生達で賑わっている。居酒屋がそんなに珍しいのか、汐の視線は外の景色に釘付けだった。
「僕が働き始めたら、誠吾さんと毎週末飲みに行きたいな。毎回違うお店に行ってはしごしたりして」
「社会人になったら、そんな元気なくなるぞ。一秒でも早く家に帰りたくなる」
「えー!? やだなぁ、それ。もっと夢持たせてよ。マジなトーンじゃん」
お互いの近況を打ち明けながら、深見は車を走らせる。普段の様子から、汐の修学状況について不安を感じていたが、全く問題ないどころか、むしろ成績は上位のほうだと言う。
自宅はプライベートを重視する深見にとって、唯一安息出来る場所だ。他に浪費する趣味もなかったし、住まいは貯金の半分を使って購入した。快適さと自由を手に入れたが、帰宅して真っ暗な部屋に入るときの寂しさは、賃貸でもタワーマンションでも変わらない。住み始めた最初の頃は、嵌め込みの大きな窓ガラスから見下ろす景色が好きだった。ただ、ぽつぽつと点在する暖かな光を見て、それぞれに家庭の形があるのだと思うと、ぎゅうと胸が締めつけられた。
「わあ……! 景色が綺麗だねぇ。わ、こっちにウォーターサーバーもある! ねえ、お水飲んでもいい?」
「好きに使ってくれ。汐君の家でもあるんだから」
「やった。誠吾さんブルジョワだね。僕の家、冷蔵庫のおっきいミネラルウォーターに口つけて飲んだら怒られるよ」
「お水美味しいね!」とキラキラ目を輝かせる汐に、深見の庇護欲がきゅうんと刺激される。今、強請られたら何でも貢いでしまいそうだ。甘え上手な恋人のために、深見は買い置きしていたダッツアイスを持ってきた。ソファに座り、膝の上へ誘導する。
「汐君軽いな。ちゃんと食べてるか?」
「食べてるよ。今、五十五キロくらい?」
「……ないだろう」
「んー……五〇あるかないか、かな」
不健康なほどではないけれど、平均よりは十分に少ない。細身の汐を抱きかかえ、深見はピスタチオフレーバーのダッツアイスを口元へ運んだ。
「へ……? な、なに?」
「何って。食べさせたいんだ。たくさん甘やかしたい」
えぇ、と何故か汐が不満そうな顔をする。唇を尖らせてふい、と視線を逸らす様子は、出会った当初のような、媚びないクールさを思い起こす。疑問に思い、深見は問いかけた。
「アイス。あまり好きじゃなかったか?」
「う、ううん! 誠吾さんが食べさせてくれるの、すっごく嬉しい!」
愛くるしい笑顔になり、汐はスプーンに乗っかるアイスをねだった。首元にぎゅう、と腕をまわして抱きつかれ、深見も同じように笑みを溢した。
汐を意識し始めて気付いたことだが、どうやら自分はSubに尽くされるよりも尽くしたい性格のようだ。
唇をもぐもぐ動かしながら、汐は至福の表情を浮かべる。
「おいしー……。ピスタチオ味、限定で売り切れてるところ多いのに、すごいね」
学校前も家の周りのコンビニも売り切れ。誠吾さん、見かけたらついでに買っておいて欲しいな。
SNSに投稿された情報を頼りに、深見は手を尽くして限定フレーバーのアイスを探し出したのだ。車で往復三十分ほどのコンビニへ、クーラーボックスを持参して持って帰った甲斐があった。縁から緩くなりだしたアイスクリームのような表情で、汐は「ありがとう」とお礼を言う。
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