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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
561:黄金のミイラ
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「トエト~。トエト~」
「はっ!? ……モッモ、さん??」
「そうだよ。今、君の足元にいる。見えないと思うけど、そのまま歩きながら聞いて」
ティカが無事だった事(化け物になっちゃったけどね……)と、奈落の泉までは供物に紛れて行く事(かなり不本意だけどね……)をチャイロに伝える為、俺は一度チャイロの部屋に戻る事にした。
その途中、運良く廊下を歩くトエトを発見した俺は、ピグモルダーッシュ! でトエトの足元まで駆け付けて、小走りしながらトエトに話し掛けたのだ。
勿論、隠れ身のローブで身を隠しているので、周りからもトエトからも俺の姿は見えてない。
トエトは俺が姿を消せる事を知っているので、いきなり声を掛けられて多少驚いたようだが、顔色を変えずに歩き続ける。
その手には、何やら大量の金の布を持っていた。
「一度チャイロのところへ戻りたいんだ。けど、僕一人じゃ部屋に入れないんだよ。なんとか理由を付けて、中に入れない?」
声のボリュームに気をつけながら、俺はそう言った。
「分かりました。大丈夫ですよ。今からちょうど、この御召し物を持って行って、チャイロ様に着て頂く予定でしたから」
おお、なんというナイスタイミングだ! 良かった!!
……しかしあれだな、その大量の金色の布が、チャイロの服なのか?
ちょっと、サイズオーバーなんじゃない??
そんな事を考えながら、歩くペースを全く落とさないトエトに、俺は必死について行った。
チャイロの部屋の前には、相変わらず二人の兵士が見張りに立っていた。
トエトは、兵士の前で歩みを止めて、軽く頭を垂れてからこう言った。
「宰相イカーブ様より、チャイロ様の世話役を仰せつかっております、侍女のトエトで御座います。生贄の儀式の際にチャイロ様が着用なさる御召し物を運んで参りました。お着替えのお手伝いを致しますので、扉を開けてくださいますでしょうか?」
トエトがそう言うと、兵士の一人が、もう一人に何やら意味ありげな視線を向けた。
すると、視線を向けられた方の兵士は軽く頷いて、どこかへと行ってしまった。
……なんだろう? 見張りの交代かな??
残った兵士は、手に持っていたチャイロの部屋の鍵をトエトに手渡す。
トエトは一礼してそれを受け取り、扉の鍵を開けて、中へと入る。
遅れを取らないように、俺もササッと中に入った。
扉を閉めて、真っ直ぐに中部屋へと向かうトエト。
後をついて行く俺。
中部屋を抜けて、チャイロの部屋の鍵を開け、扉を開くと、オモチャで散らかったチャイロの部屋には、眩しい太陽の光が燦々と差し込んでいる。
時刻は既に、正午近くとなっていた。
チャイロは、窓のすぐそばで外を眺めていた。
こちらに気付いて振り返ったその目は、やはり虹色に輝いている。
「チャイロ様、儀式の御召し物をお持ち致しました」
深々と頭を下げて、トエトはそう言った。
「うん、ありがとう。モッモも戻ってきたんだね」
ニコッと笑って、こちらに歩き出すチャイロ。
隠れ身のローブで姿を消している俺を、チャイロは既に認識していた。
「なんで分かったのさ?」
俺はかなり困惑しつつ、隠れ身のローブのフードを取って姿を現した。
さっきのティカといい、チャイロといい、簡単に見破り過ぎじゃない?
なんなの??
せっかくの神様アイテムなのに、意味ないじゃ無い???
「ふふ。姿は隠せても、オーラは隠せないんだよ」
部屋の真ん中に立って両手を広げ、チャイロはそう言った。
すると、トエトは慣れた手付きでチャイロの服を脱がし始める。
おっとぉ~? 生着替えですかぁ~??
……まぁ、チャイロは子供だし、男の子だし、目の前でお着替えされても特に何とも思わないけどさ。
「オーラって何?」
怪訝な顔で尋ねる俺。
俺は魔力は皆無だし、チャイロが言っているのは魔力のオーラとかではないはずだ。
精霊を呼ぶ事の出来る霊力とやらは沢山あるはずだから、そっちの事かしら?
それとも、カービィ曰く、3Pだけあるという神力の事かしら??
「ん~、説明が難しいんだけど……。その人の性格とか、抱いてる感情とか、かな?」
スッポンポンになり、ただ大きいだけの真っ赤な蜥蜴みたいな姿になったチャイロは、ちょっとばかし小首を傾げながらそう言った。
すかさずトエトが、儀式の御召し物だという金色の布で、チャイロの体を巻き始める。
グルグルグルと、まるで怪我の手当てでもしているかのように、巻き始める……
「性格とか、感情? ごめん、全然分からないんだけど」
友達なので、遠慮なく俺はそう言った。
「あはは、そうだよね。ずっと見えていた僕ですら、最近ようやく分かったんだもん。見えないモッモが分からなくても当然だよ」
何が面白いのか分からないが、チャイロはニコニコしながらそう言った。
「ねぇ、もうちょっと分かり易く説明できる?」
「う~ん、そうだなぁ……。あ、例えばね、トエトは基本、優しいオレンジ色とピンク色をしてる。兵士のティカさんは燃えるような赤だった。それで……、僕の事を怖がっている人だと、青色とか灰色が多いね」
いやぁ~……、何言ってるのか、さっぱり分からんわ。
「こうね、体からモヤモヤ~って出てるんだよ」
短い腕を、体の周りで不気味にウネウネとさせながら説明するチャイロ。
その腕にも、トエトは金の布をグルグルと巻いていく。
「へ~そうなんだ~」
「あっ!? 信じてないでしょっ!??」
やる気の無い俺の返答に、チャイロは少々憤慨した様子だ。
「信じるも何も……、僕には見えないしね。あ、じゃあさ、僕は何色なの?」
「モッモはね、面白いんだ。色がコロコロ変わるんだよ。出会った時もそうだった。扉の外から初めて僕を見た時は怯えて真っ青だったのに、中に入って僕と話をした時には黄色に変わってた。それで……、今は緑色。あ、ちょっと紫色も混じってるね。何か、諦めようとしてる?」
……うん、いいや、もうそういう事にしておこう。
見えないものを理解しようとした私が馬鹿でしたよ。
俺がチャイロと意味不明な会話を続けている間に、トエトは大量にあった金色の布を全て、チャイロの体に巻き付けた。
手も足も、胴体も頭も、顔面以外の全てがキンキラキンの布で巻かれたその姿は、まるで……、黄金のミイラだ。
「ねぇトエト、それが正しい着方なの?」
黄金のミイラと化したチャイロを前に、俺は思わずそう尋ねてしまう。
「はい、これで良いはずです。しかしながら、私も初めての事ですので、自信はありませんが……」
最後にトエトは、こちらも金でできたお面のような物を取り出して、チャイロの顔に被せた。
う~む……、なんだろうな。
例えていうなら、戦隊ものの悪役で出てきそうな格好だ。
怪人キンキラ仮面! みたいな?
なんとも滑稽なチャイロのその装いに、俺は懸命に笑いを堪えた。
「それではチャイロ様。じきに兵士がチャイロ様をお運びする金箱をここへ持って参りますので、その中に入って頂けますか?」
「うん、分かった。トエト、今まで僕のお世話をしてくれて、本当にありがとう」
チャイロは明るく返事をした。
するとトエトは……
「いいえ……、御礼など、私には勿体ないお言葉です……。奴隷上がりのこの私が、王族の、それも次期国王であらせられるチャイロ様に仕える事が出来ただなんて……、本当に、本当に光栄でした」
泣いているのだろうか、フルフルと小刻みに震えながら、トエトはその場に膝を折った。
そしてポロポロと涙を流し始めたのだ。
「出来ることならば、今すぐにでも、ここから逃して差し上げたい。こんなにも幼く、何の罪も無い貴方様が生贄にならなければならないなんて、間違っている。でも……、私には無理。私にはそのような大それた事をする力がありません。けれど、そこにいるモッモが、何か策を考えております。貴方様のお命を守る為の策を。だから、どうか……、どうか生きる事を、諦めないでください。何があっても」
大粒の涙を流しながら、トエトはそう言った。
その涙に、トエトがこれまで、どんなにチャイロを想いながらお世話をしてきたのか、俺は改めて思い知らされた。
「ありがとう。僕に、こんな風に温かな気持ちを向けてくれたのは、君が三人目だよ。本当にありがとう。……トエト、君は今すぐ、この王宮を出るんだ。王都から出て、生まれた町へと戻りなさい」
急に口調が変わったチャイロは、自ら仮面を外し、その大きな瞳でトエトをジッと見つめ、思わぬ事を告げた。
「この地は今夜、大地に沈む。僕は、この地にあるもの全てを破壊する。生き延びたければ、遠くへ逃げなさい」
その声、その言葉はまるで、神託のようだと、俺は思った。
キラリと光る、チャイロの虹色の瞳。
顔を上げたトエトは、微笑むチャイロに対し、涙でボロボロになった顔のままで、ゆっくりと頷くのだった。
「はっ!? ……モッモ、さん??」
「そうだよ。今、君の足元にいる。見えないと思うけど、そのまま歩きながら聞いて」
ティカが無事だった事(化け物になっちゃったけどね……)と、奈落の泉までは供物に紛れて行く事(かなり不本意だけどね……)をチャイロに伝える為、俺は一度チャイロの部屋に戻る事にした。
その途中、運良く廊下を歩くトエトを発見した俺は、ピグモルダーッシュ! でトエトの足元まで駆け付けて、小走りしながらトエトに話し掛けたのだ。
勿論、隠れ身のローブで身を隠しているので、周りからもトエトからも俺の姿は見えてない。
トエトは俺が姿を消せる事を知っているので、いきなり声を掛けられて多少驚いたようだが、顔色を変えずに歩き続ける。
その手には、何やら大量の金の布を持っていた。
「一度チャイロのところへ戻りたいんだ。けど、僕一人じゃ部屋に入れないんだよ。なんとか理由を付けて、中に入れない?」
声のボリュームに気をつけながら、俺はそう言った。
「分かりました。大丈夫ですよ。今からちょうど、この御召し物を持って行って、チャイロ様に着て頂く予定でしたから」
おお、なんというナイスタイミングだ! 良かった!!
……しかしあれだな、その大量の金色の布が、チャイロの服なのか?
ちょっと、サイズオーバーなんじゃない??
そんな事を考えながら、歩くペースを全く落とさないトエトに、俺は必死について行った。
チャイロの部屋の前には、相変わらず二人の兵士が見張りに立っていた。
トエトは、兵士の前で歩みを止めて、軽く頭を垂れてからこう言った。
「宰相イカーブ様より、チャイロ様の世話役を仰せつかっております、侍女のトエトで御座います。生贄の儀式の際にチャイロ様が着用なさる御召し物を運んで参りました。お着替えのお手伝いを致しますので、扉を開けてくださいますでしょうか?」
トエトがそう言うと、兵士の一人が、もう一人に何やら意味ありげな視線を向けた。
すると、視線を向けられた方の兵士は軽く頷いて、どこかへと行ってしまった。
……なんだろう? 見張りの交代かな??
残った兵士は、手に持っていたチャイロの部屋の鍵をトエトに手渡す。
トエトは一礼してそれを受け取り、扉の鍵を開けて、中へと入る。
遅れを取らないように、俺もササッと中に入った。
扉を閉めて、真っ直ぐに中部屋へと向かうトエト。
後をついて行く俺。
中部屋を抜けて、チャイロの部屋の鍵を開け、扉を開くと、オモチャで散らかったチャイロの部屋には、眩しい太陽の光が燦々と差し込んでいる。
時刻は既に、正午近くとなっていた。
チャイロは、窓のすぐそばで外を眺めていた。
こちらに気付いて振り返ったその目は、やはり虹色に輝いている。
「チャイロ様、儀式の御召し物をお持ち致しました」
深々と頭を下げて、トエトはそう言った。
「うん、ありがとう。モッモも戻ってきたんだね」
ニコッと笑って、こちらに歩き出すチャイロ。
隠れ身のローブで姿を消している俺を、チャイロは既に認識していた。
「なんで分かったのさ?」
俺はかなり困惑しつつ、隠れ身のローブのフードを取って姿を現した。
さっきのティカといい、チャイロといい、簡単に見破り過ぎじゃない?
なんなの??
せっかくの神様アイテムなのに、意味ないじゃ無い???
「ふふ。姿は隠せても、オーラは隠せないんだよ」
部屋の真ん中に立って両手を広げ、チャイロはそう言った。
すると、トエトは慣れた手付きでチャイロの服を脱がし始める。
おっとぉ~? 生着替えですかぁ~??
……まぁ、チャイロは子供だし、男の子だし、目の前でお着替えされても特に何とも思わないけどさ。
「オーラって何?」
怪訝な顔で尋ねる俺。
俺は魔力は皆無だし、チャイロが言っているのは魔力のオーラとかではないはずだ。
精霊を呼ぶ事の出来る霊力とやらは沢山あるはずだから、そっちの事かしら?
それとも、カービィ曰く、3Pだけあるという神力の事かしら??
「ん~、説明が難しいんだけど……。その人の性格とか、抱いてる感情とか、かな?」
スッポンポンになり、ただ大きいだけの真っ赤な蜥蜴みたいな姿になったチャイロは、ちょっとばかし小首を傾げながらそう言った。
すかさずトエトが、儀式の御召し物だという金色の布で、チャイロの体を巻き始める。
グルグルグルと、まるで怪我の手当てでもしているかのように、巻き始める……
「性格とか、感情? ごめん、全然分からないんだけど」
友達なので、遠慮なく俺はそう言った。
「あはは、そうだよね。ずっと見えていた僕ですら、最近ようやく分かったんだもん。見えないモッモが分からなくても当然だよ」
何が面白いのか分からないが、チャイロはニコニコしながらそう言った。
「ねぇ、もうちょっと分かり易く説明できる?」
「う~ん、そうだなぁ……。あ、例えばね、トエトは基本、優しいオレンジ色とピンク色をしてる。兵士のティカさんは燃えるような赤だった。それで……、僕の事を怖がっている人だと、青色とか灰色が多いね」
いやぁ~……、何言ってるのか、さっぱり分からんわ。
「こうね、体からモヤモヤ~って出てるんだよ」
短い腕を、体の周りで不気味にウネウネとさせながら説明するチャイロ。
その腕にも、トエトは金の布をグルグルと巻いていく。
「へ~そうなんだ~」
「あっ!? 信じてないでしょっ!??」
やる気の無い俺の返答に、チャイロは少々憤慨した様子だ。
「信じるも何も……、僕には見えないしね。あ、じゃあさ、僕は何色なの?」
「モッモはね、面白いんだ。色がコロコロ変わるんだよ。出会った時もそうだった。扉の外から初めて僕を見た時は怯えて真っ青だったのに、中に入って僕と話をした時には黄色に変わってた。それで……、今は緑色。あ、ちょっと紫色も混じってるね。何か、諦めようとしてる?」
……うん、いいや、もうそういう事にしておこう。
見えないものを理解しようとした私が馬鹿でしたよ。
俺がチャイロと意味不明な会話を続けている間に、トエトは大量にあった金色の布を全て、チャイロの体に巻き付けた。
手も足も、胴体も頭も、顔面以外の全てがキンキラキンの布で巻かれたその姿は、まるで……、黄金のミイラだ。
「ねぇトエト、それが正しい着方なの?」
黄金のミイラと化したチャイロを前に、俺は思わずそう尋ねてしまう。
「はい、これで良いはずです。しかしながら、私も初めての事ですので、自信はありませんが……」
最後にトエトは、こちらも金でできたお面のような物を取り出して、チャイロの顔に被せた。
う~む……、なんだろうな。
例えていうなら、戦隊ものの悪役で出てきそうな格好だ。
怪人キンキラ仮面! みたいな?
なんとも滑稽なチャイロのその装いに、俺は懸命に笑いを堪えた。
「それではチャイロ様。じきに兵士がチャイロ様をお運びする金箱をここへ持って参りますので、その中に入って頂けますか?」
「うん、分かった。トエト、今まで僕のお世話をしてくれて、本当にありがとう」
チャイロは明るく返事をした。
するとトエトは……
「いいえ……、御礼など、私には勿体ないお言葉です……。奴隷上がりのこの私が、王族の、それも次期国王であらせられるチャイロ様に仕える事が出来ただなんて……、本当に、本当に光栄でした」
泣いているのだろうか、フルフルと小刻みに震えながら、トエトはその場に膝を折った。
そしてポロポロと涙を流し始めたのだ。
「出来ることならば、今すぐにでも、ここから逃して差し上げたい。こんなにも幼く、何の罪も無い貴方様が生贄にならなければならないなんて、間違っている。でも……、私には無理。私にはそのような大それた事をする力がありません。けれど、そこにいるモッモが、何か策を考えております。貴方様のお命を守る為の策を。だから、どうか……、どうか生きる事を、諦めないでください。何があっても」
大粒の涙を流しながら、トエトはそう言った。
その涙に、トエトがこれまで、どんなにチャイロを想いながらお世話をしてきたのか、俺は改めて思い知らされた。
「ありがとう。僕に、こんな風に温かな気持ちを向けてくれたのは、君が三人目だよ。本当にありがとう。……トエト、君は今すぐ、この王宮を出るんだ。王都から出て、生まれた町へと戻りなさい」
急に口調が変わったチャイロは、自ら仮面を外し、その大きな瞳でトエトをジッと見つめ、思わぬ事を告げた。
「この地は今夜、大地に沈む。僕は、この地にあるもの全てを破壊する。生き延びたければ、遠くへ逃げなさい」
その声、その言葉はまるで、神託のようだと、俺は思った。
キラリと光る、チャイロの虹色の瞳。
顔を上げたトエトは、微笑むチャイロに対し、涙でボロボロになった顔のままで、ゆっくりと頷くのだった。
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