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しおりを挟む僕とイーライ様が婚約したのは僕が8歳で彼が4歳のときだったけれど、魔力の暴走なしで僕と彼が隣に並んで人前に立てるまでにだいたい2年かかったので、婚約発表パーティーで大々的にお披露目できたときには僕が10歳でイーライ様は6歳になっていた。
僕達のお披露目パーティーは、第2王子の婚約発表ということで国中の貴族が王城に集められた規模の大きなものだった。
ヨシュアから僕への接近禁止はまだまだ継続中だったけれど、さすがに公爵家の嫡男が王子に婚約祝の挨拶をしないのは外聞が悪いだろうと、この日だけは接近禁止は解除された。
挨拶は爵位が高い順にするからヨシュアの出番はかなり序盤だった。豪華な礼服に身を包み、僕と同じくらいに背が伸びたヨシュアが、相変わらずの不機嫌顔で肩をいからせながらこちらに近づいてくる様子に、僕はとてもイヤな予感がした。
「久しいな、アシュリー。今日はえらく張り切った衣装を着ているではないか。ひょろひょろと上背ばかり高いお前でもそうしていると女に見えぬこともない。馬子にも衣装とはこのことだな!」
王子であるイーライ様のお言葉を待たず、イーライ様をまるっと無視して開口一番、僕に皮肉を言い放ったヨシュア。僕は心の中でアホー!とヨシュアを罵りまくった。
周りも当然どよめいていて、デュケイン公爵が「バカーッ!ヨシュア、この馬鹿息子めがっ!アシュリーはもう殿下の婚約者なのだぞ!」と絶叫しているのが聞こえた。
その場で冷静なのはイーライ様だけだった。
「デュケイン卿。私の婚約者のアシュリー嬢に無礼を働くのはやめてもらいたい」
第2王子の言葉に場内がシンと静まり返る。
「ハッ。婚約者だと?アシュリーよ。お前の婚約者は俺の愚弟よりも小さいではないか。もしや幼いガキが趣味なのか?子どもの頃は俺の世話をせっせと焼いていたものな」
「彼女を馴れ馴れしく呼び捨てにするのもやめてもらいたい」
僕が急に痛み始めた胃のあたりを押さえていると、あろうことかヨシュアが僕の腰に手を回してイーライ様の目の前で僕を抱き寄せてきた。
「ちょ、バッ⋯、ヨシュア!?」
「そのように小さな婚約者ではエスコートなど満足にできまい。俺が代わりにしてやろうと思ってな。どうだ?俺の髪も目の色も、そこの小さな王子と同じ色合いだ。今日のお前のドレスはまるで俺に合わせて誂えたようではないか。背丈も俺とお前なら釣り合っていて似合いだ」
エスコートのことや僕との身長差をイーライ様は気にしている。そして僕が着ているドレスは、彼の瞳の色の生地に髪の色の刺繍や飾りの施されたイーライ様渾身の新作ドレスだった。それに泥を塗るような発言をしたあげく、僕の身体に触れるなんて──
「あ、熱ぅっ!な、なんだ!?」
ヨシュアが変な叫び声をあげて僕の身体から離れた。何かが焦げたみたいな変なにおいもして、なんだろう?とヨシュアを見ると、彼の癖のない金髪のショートヘアが、チリチリのパンチパーマ風ヘアに変わっていた。
「卿の髪をひと筋残らず焼き払ってしまいたかったが、まだ婚約者のいない身にそれは酷であろうと手心を加えたのだ。感謝してほしい。だが卿が再び我が婚約者たるアシュリーに爪の先でも触れることがあれば、その時は毛根を根絶やしにするので肝に命じておいてくれ」
「お、俺の、俺の髪が⋯!!」
イーライ様はヨシュアをパンチパーマにすることでどうにか溜飲をさげてくださった。それにしても貴族らしい顔つきのヨシュアにはパンチパーマが絶望的に似合っていなくて、僕はおかしくて笑ってしまった。
「ふっ⋯んふふっ⋯あはっ⋯ヨシュアそれっ⋯ぜんっぜん似合ってないっ⋯」
陛下もいらっしゃる公の場で令嬢らしくなく声をあげて笑ってしまってマズいと思ったけれど、ツボに入ってしまってどうにも止めることができなかった。
僕の笑いの波がようやく過ぎ去って我に返ると、イーライ様とヨシュアが僕のことを真顔でじっと見ていて驚いた。
「えっ、何⋯じゃなくて、どうなさったのですか?」
僕が首を傾げると、ヨシュアの姿がその場から忽然と消えて、場内が一気にザワつき出した。
「うっかりデュケイン卿を王城内の池に転移させてしまった。アシュリーが何とも楽しそうに笑う様が、あまりにも愛らしかったから」
いつになく笑った僕を見て暴走したイーライ様の魔力がヨシュアに向かってしまったようだ。
その後のパーティーは何ごともなかったかのようにつつが無く進行し、ヨシュアはイーライ様の指示で救出に向かった騎士達によって無事に池から回収された。
よっぽど毛根を根絶やしにされるのがイヤだったのか、ヨシュアが僕やイーライ様に絡んでくることは、そのパーティー以降パタリと無くなったのだった。
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