執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海

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第10章 花の祝祭

5. 収まるところに収まった、かな?

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 今日のハイドレンジア学園はとても賑わっている。
 ウィルが飾り付けた花たちで会場内はとても華やかで、かつ卒業パーティらしい厳粛さもある。

「今日で卒業だなんて、本当に1年間ってあっという間だよね」
「そうですね……」
「僕がいなくなっても学園でやっていける?」

 綺麗にスーツを着こなした兄のナインが少し寂しそうに笑うから、わたしまで少し悲しくなってしまう。
 兄は今日で学園を卒業するけれど、これからだって一緒に暮らすわけだし兄妹だってことには変わらない。わたしは「大丈夫です!」と笑って見せた。

 兄の言う通り、あっという間の1年だった。
 花の祝祭が終わって、ヒロインの肩書きを返上した。もしかしたら今までの記憶だとか、仲良くしていたこととか、全て忘れられてしまっているんじゃ、と少し不安になったけれどみんなとは今まで通り変わらず。結局のところヒロインだろうがそうじゃなかろうが、友達エンドですんだような気もする。
 ロストが完全に居なくなって、国はびっくりするほど安全になったし豊かになっていると思う。わたしは王家から目を丸くするほどの褒美を与えられたけれど(ついでにレイとの婚約も打診されたけれど)どちらも丁重にお断りした。王家からの褒美は受け取るのが筋だとは思うけれど、両親も理解してくれたし、その謙虚さがまたいい、と王様にはえらく気に入られた。そんなこんなで、わたしの乙女ゲームのヒロインとしての1年は無事に終わったのである。

 そして卒業式はこれまたすぐにやってきた。たぶん花の祝祭から2週間も経ってない。この学園、やっぱりイベントが多すぎると思う。この勢いであと2年あるのかと思うと少し不安だ。わたしには筋力は残りはしたけれど、魔力は完全に無くなってしまったようだから。一応配慮してくれるみたいだけど。
 それに、結局バトルゲームみたいに魔法で敵をやっつける、的なことはもうできないわけで。無駄に筋力と剣術のノウハウだけはあるという、変に強いところだけ残ってしまった。
 おそらくもう強ヒロインにこだわる必要はないわけで……これから何をすべきか迷うところだ。騎士団に入ってみる? いや兄に反対される未来しか見えない。本の知識だけはやたらあるから先生とかにだったらなれるかもしれない……うーん、迷うなあ。

「おい、大事なお兄さんの卒業式なのにお前がぼーっとしてていいのかよ」

 わたしの思考を遮ってきたのはジルだ。隣でラギーが「もしかしてお疲れだったりする?」と心配そうな目を向けてくる。

「そういうジル様こそ挨拶があるんですよね? 心なしか緊張しているように見えますよ、次期会長様?」
「緊張なんかしてないからな! おい、ラギーも揶揄うような目やめろ」

 けらけらとラギーと笑い合う。
 ジルともラギーとも仲のいいままだ。ジルとは花の祝祭のあとなぜか急に謝られたりしたけれど、これといって怒ることもなかったので疑問に思いつつ仲直りした。きっと会長職を引き継いだばかりで色々と大変だったのだろうな、なんて思っているけれど。
 しかも中等部のとき同様にまたわたしとジルとラギーとで生徒会を引っ張って行く羽目になってしまった。生徒たちからの希望する声が多かったのだとか。まあなにはともあれ、ジルとラギーとはこれからも仲良くしていけそうでよかった。もう3人行動が板についていたし、やっぱり落ち着くから。

「やっほ、ローズちゃん」と声がかかって振り向けば相変わらずにこにこと笑うケイトの姿があった。
 ケイトがすごい長寿であることはわたしとケイトだけのヒミツだ。色々あったけれど、彼は来年も学生として過ごすらしい。「留年して同じ学年になろうかな」なんて言い出した時は普通に焦ったけれど。ケイトならやりかねない。一応説得した結果だいぶ渋々ではあったが折れてくれた。

「まあ、来年はローズちゃんのこときっちり守ってあげようと思うよ」
「えっと、ありがとうございます?」
「グリンデルバルド卿、こいつのことは俺が守るので結構ですよ。一応、近々婚約者になる予定ですので」
「あの、ジル様、それはお断りを……」

 言いかけたのも虚しく、ジルとケイトは火花を散らし始めてしまった。関わりそんなになかったような……とわたしは首を傾げるけれど、最近鉢合わせるとこうなのでわたしは気にせずラギーと談笑することにした。すると、ラギーがパッと顔を上げ、わたしの後ろをじっと見つめる。今度は誰だ、と思いつつ見るとセオドアが背筋を伸ばして立っている。ラギーに視線を戻せば「少しはマシになったなー!」と満足げだ。

「セオドア様、ラギーの厳しい訓練に毎日ついていっているなんてすごいです」
「いえ、まだまだ僕は未熟者ですので……」

 セオドアはそう謙遜したけれど、わたしはラギーに鬼のようにしごかれているのを度々目撃している。元々仲良くなる2人だったはずだから、仲良く(?)してくれているのはなんだか嬉しい。友達、というより舎弟感が否めないけれど。

「まあ、そのぐらいの心意気じゃないと、ローズの横になんて立たせられないしね!」
「え……? 別に横に立つくらい……」
「いえ、僕としても納得できないので!」
「えぇ……」

 困惑。横に並ぶのに納得とかあるのだろうか。けれど押し切られてしまったし、有無を言わせてくれそうにないので、放っておくことにする。
 あとさっきから、会場の中央で花やらなんやらをもらっていて完全に埋もれているはずの兄から鋭い視線飛んでくるの普通に怖い。わたしは朝一で渡したし、帰ってからもお祝いするので兄は兄で楽しんでほしいところだけれど。あの中へ入っていった方がいいのか、と中央の人だかりを見ながら唸っているとまた声がかかった。今日は一生徒としてではなく王族、来賓側で参加しているレイだ。

「もう全卒業生に挨拶なさってきたのですか?」
「全員、ではさすがにないですが。お世話になった方や関わりの深い方中心に。もちろん、ナイン卿には花束を渡してきましたよ」
「そうなんですね、あの中に割って入って行くのは大変だったでしょう」

 ちらりと人だかりを見れば、完璧に兄と目が合った。なぜ。さらに兄はモーセのように人をかき分けてこちらに歩いてくる。

「先程は素敵な花束をどうもありがとうございます、レイ殿下」
「いえいえ、こちらこそ喜んでいただけて何よりです」

 ああ、こっちは完全にファイティングポーズを取り合ってる。兄は花束を目に死んだような目のまま笑っているし、レイも貼り付けたような笑顔で笑っている。わたしは兄の持つ花束を見ながら、綺麗な花束なのにそんなに握り潰さなくても、と苦笑いをしてたしなめるために声をかける。

「おにいさま、今日は晴れの日なんですから、そんなお顔はよくないです。ほら、レイ様も、まだお話ししたい方がいっぱいいるみたいですし……」

 ね、と無理矢理引き剥がす。2人ともなんだか不機嫌だ。レイは何かと理由をつけて渋ったけれど、来賓という責任感に負けたらしかった。「もう少しローズさんとお話ししたら」と付け加えはしたが。

 ……というか、気がついたら全攻略対象に囲まれていた。サポートキャラであるウィルがいないのは少し残念だけれど。
 いや、もう攻略対象って呼ぶのはよくないよね。
 本来のシナリオは一体どういう流れだったのか、とか、結局執着ってなんだったんだろうとか、疑問はいっぱいある。だけど、とりあえず無事に終わって本当によかった。たぶん、収まるところに収まった……はず。これからは、わたしは花の乙女でもなければ、ヒロインでもない。かといって、もう強さもないけれど。

 わいわいと賑わったり、所々睨み合ったりしている彼らを見てなんだか思わず笑ってしまう。
 わたしは今後、この中の誰かを好きになったり……するのかな。今まではずっと、そういう風に考えようと思っていなかったし、システムの愛情なんていらないと思ってたから。
「どうかしたの?」と兄の声がかかって、我にかえるとみんながわたしを覗き込んでいた。わたしはみんなの顔を順繰りに見てから「大丈夫です」と笑顔を見せる。

 恋とか、これから何がしたいとか、まだまだわからないことばかりだけれど。
 だけど、今くらいは肩の荷を下ろしてみんなと一緒にいたい――なんて思ってもいいかな。
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