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1滴の泥を落とされた楽園であっても

異空間から、初めまして

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「はぁぁぁあぁあぁ………」

「変な声を出すな」

「だって~何かっわかんないスけどっ怖いんスもんんんん~……」

 閑散とした通りに三人のみがポツンと立ち、風もなく音もない、ただ異様な静けさだけが辺りを包み込んでいる。

 トレイルが最初に見せた威勢はどこへ行ったのか、今はその面影も鳴りを潜め、「あ~」だの「う~」だの色んな鳴き声を撒き散らしていた。

「気を張れ、何が起きるのか予測できん。異常な事態だ」

 マキーリュイのより一層張りつめた声色で弟子の音は一つ消えた。しかし鳴き声は未だ聞こえている、それは近くからのものではなく、遠くから…。一方向からではなく、あちらこちらから響き渡っていた。

「トレイルさんって変な声が得意ですね…こんな、あちこちから音を出すなんて凄い術ですよ…?」

「何言ってるんですかキスアさん…そんな術使えないスよ…」

「だって変な声出してましたし…」

「ん~…う~あ~ん~む~ん…」

「ほら…変な声じゃないですか…」

「キスアさん…その声あたしじゃないスよ…」

「え…?」

「お前ら避けろ!!!」

 突然マキーリュイの叫声が鋭く響き、二人は突き飛ばされる。直後爆音が聴こえて、二人が立っていたところには人の身ほどのハサミが刺さっていた。

「うぐっう!」
「ぐっぅう!!」
 マキーリュイが咄嗟に二人を抱えて飛び込んできた衝撃を受け、反応が間に合わずに胸を抉る感覚でむせてしまう。

「はぁっはぁ…っっ何スか今の!?!?」
「ハサミ!大きなハサミです!!」

「立て…っ早く!奴だ!人形がいる!っくッ!」

 マキーリュイは二人を後ろに庇いながら追撃の針を弾く。

「何がどうなってるのかわからんが…何のつもりだアーリーシャ!!」

 視線の向こうにはゴシック衣装に身を包んだ人影が一体静かに立っていた、手には先程の大きなハサミを持って、こちらをじっと見ている。しかし目はやや長めの前髪で隠れ表情は判然としない。

 人の姿はしている、けれどキスアには人には見えなかった。関節が球体で、人のものではなかった、それに立ち方が異様だ。つま先立ちで…それはまるで、上から体を吊り上げて、【立っているかのように見せている人形】のような佇まいを思わせたからだ。

 だがマキーリュイは言った、人形の方に向かって「アーリーシャ」と。それは人形の魔女の名で、キスアはどういうことか問いたかったが、今はその疑問を飲み込まざるを得なかった。

「師匠ーーっ!」

 前傾で上体を回転させながらマキーリュイへと接近してきた人形との間を割って、トレイルが入ってきた。手に持つ剣に爆炎の魔術を迸らせ、勢いのまま、あと少しでマキーリュイが斬られるそのタイミングに、二人の合間を切り裂き、そのまま地面に炎を炸裂させた。

 ドォオオッ―――!

「くっぁああ!」

 石の畳が砕け、炎が燃え盛る音が広がり、そのままトレイルは前方へ吹き飛んでいった。
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